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今週のオススメハードテクノ – Resident’s Recommend 2018/09/06

こんばんは。TAK666です。
レジデントが代わる代わるオススメハードテクノを紹介するこのコーナー、
2週間ぶりにワタクシが担当致します。

前回の記事にて取り上げたASCの来日パーティーが今週末に控えております。
ワタクシは出演しませんが、テクノ~ベースミュージック好きとして遊びに行く予定です。

今週末は他にもokadadaさんとDJ WILDPARTYさんがレジデントを務めるマンスリーパーティー、AUDIO TWOのゲストにSEKITOVAさんが出たり、
大手EDMレーベルMonstercatに所属する覆面アーティスト、Tokyo Machineの昼夜連続公演(デイ公演 / ナイト公演)があったりと、なかなかに濃厚な催しが目白押しとなっております。

そして忘れてはいけないのがLen Fakiの来日ですね。
ピュアテクノ好きには外せないラインナップであることも、テクノに特化したハコ、Contactで行われることも魅力的なパーティーとなっております。
彼の来日自体も実に5年振りだそうなので、こちらに行く人も多そうですね。
上述のパーティーと被ってしまったのが本当に悔しい。

と云うわけで今回はこのLen Fakiと云うアーティストについて紹介しましょう。

Len Faki

len faki
http://www.figure-music.com/
https://soundcloud.com/lenfaki

拠点はドイツ、ベルリン。
1990年代初頭よりDJ/トラックメイカーとして活動を開始し、数々のユニット、変名義でのリリースを経て本名に近いこの名義に活動を一本化したのが2000年頃。
この時点でいくつかのレーベル運営に携わっておりましたが、2003年にFigureと云うレーベルを設立。
以降は現在もリリースの拠点として機能しております。

ちなみに、彼の出身はドイツ南部のシュトゥットガルトであり、この街でテクノと出会ったそうなのですが、警察の圧力によってシュトゥットガルトのクラブシーンは全滅し、ベルリンに移ることにしたと云う過去を持っています。
テクノ大国と謳われたドイツでもこんなことあったんですね。

Figure初期のリリースはハードテクノに近い音を輩出しておりました。
Hertz / Recreateや、Alter Ego / RockerJoris Voorn / Incidentと云った当時のアンセムトラックが多く世に放たれた2004年、時を同じくしてLen Fakiが提示した楽曲もまた、大きな衝撃を持って迎え入れられました。

Len Faki / Just A Dance

フィルターも挟みつつ規則的シンセとビートにキレの良いハイハット、そして中盤のブレイク以降で炸裂するファンキーなリフからなるこの曲はダンスミュージックとしての機能性とテクノの持つ多様性が一体となったハイブリッドなトラックとして注目を集め、ヨーロッパを中心に大ヒットを記録。
彼の代表作品になると共にLen Fakiの知名度を押し上げる契機となりました。
日本でもテクノ~ハウス周辺の様々なパーティーで流れましたね。(自分がクラブ遊びをするようになった時期が丁度この辺りだったので、印象に残っています。)

ちなみに、のちにリミックス盤が制作されることになるのですが、それに選ばれた面子がTechnasiaRenato CohenCarl Coxとこれまた錚々たる並びでして、この曲がどれほどの衝撃であったか窺い知ることができます。

その後、テクノシーン全体がミニマルの傾向に向かうのですが、Len Fakiはそれをいち早く察知し、むしろ牽引したフシがあります。

当時の最先端とされた微弱なリズムでグルーヴを構築するクリックと呼ばれるスタイルを取り入れ、これものちに多くリミックスが作られることになる代表作、My Black Sheep。
(WIRE 08のコンピレーションにRadio Slaveのリミックスが収録されているので、こちらで聴いた方もいるかもしれません。)

Len Faki / My Black Sheep

ハウスの雰囲気を残しつつ、怪しげなリフが響き渡るその混成は現行テックハウスの祖とも思えるMekong Delta。

Len Faki / Mekong Delta

10分超えと云う壮大なサウンドスケープであり、後半に行くにつれてシンセが派手になっていく異色作、Odyssee 2。

Len Faki / Odyssee 2

これら全てを2007年に発表しており、完璧なまでに当時のリスナーの期待に応えた彼は名実共にテクノシーンのトップに君臨することになりました。

最近の活動としては自身のレーベル、Figureの傘下としてFigure SPCFigure Jamsと云うサブレーベルを設立、有名無名問わず後進のアーティストのフックアップを行っております。
Len Fakiは常に新しい才能を欲しており、それをサポートすることに対する重要性を強く理解しています。
そしてそれらトラック、或いはクラブ、そして大規模なフェスに至るまで自分の周囲にアンテナを張り巡らせ、受けたインスピレーションを形にすることを恐れません。
そのリスクについては承知しており、狙った通りの結果が得られないこともあるそうですが、ある時にはオーディエンス共々自分まで驚いてしまうような魔法のような瞬間を送ることもできる。
それが魅力なのだと語っております。

更に90年代テクノトラックをリミックスするレーベルとしてLF RMXを立ち上げ、その売り上げをホームレスの子供や児童の貧困のケアに貢献するベルリンの慈善団体に寄付すると云うプロジェクトも抱えています。
ちなみにLF RMXでリミックスされる楽曲は全てLen Faki自身が選出したものであり、これを手掛ける理由については自分がDJで使うためと語っています。
しかしここにも彼なりのコダワリがあり、
・オリジナルの雰囲気を保つこと
・自分のタッチを与えること
・現代的なサウンドに合わせること
この3つを明確に守って制作しております。
これらは非常に難しいことで、彼自身も挑戦であると認識していますが、自分が影響を受けたテクノの先駆者たちに敬意を払うため、心底楽しんでこの活動を行っているそうです。

今やLen Fakiは忙しく世界中のギグをこなしており、今回の来日公演の直近を見てもヨーロッパは元より韓国、シンガポール、ブラジルでの出演を控えている身です。
2003年より続いている自身のレーベル、Figureの15周年且つ100番目となるリリースFIGURE 100のリリースが控えている(予定では17日発売)ことも決して無縁ではないでしょう。
最近のプレイを聴いてみると、グルーヴを一定にキープしつつもウワモノの雰囲気で緩急をつけるプレイをしており、圧巻です。

ハードテクノにも親和性の高い、ヘヴィーウエイトなリズムを堪能できる一晩になることでしょう。
久方振りの来日、是非生で体感してください。

そんなLen Fakiのオススメはこちら。

Johannes Heil, Len Faki / Dirty

オルガンライクな怪しいウワモノと重工リズム。
彼がダークテクノの雄と称されるに相応しい1曲。
共作者のJohannes HeilもLen Faki同様のキャリアを持ち、Figureにも多く作品を提供している盟友と言って良い間柄のクリエイターです。

DJ Hyperactive / Wide Open (Len Faki DJ-Edit)

前述のLF RMXを立ち上げる切欠になった90年代トラックリミックスシリーズの1番目がこれでした。
1998年に出たシカゴ系テクノが元ネタ。
DJ HyperactiveMissile RecordsCLRに関わってた人で、このリミックスも原曲の雰囲気を残しつつ現代版にアップデートされているので、あの手のバウンシーな音が好きなら文句なくオススメです。

Odyssee Of Noises / Firedance (The Sunrise) (Len Faki Hardspace Mix)

コチラは前述のLF RMXからリリースされたもの。
よもや1994年初出のジャーマントランスが元ネタと云うだけでも驚きですが、(今調べてBeatportで買えると云う事実にも驚きました。)それをバリアレックなスタイルに仕上げた彼の手腕にもビックリします。
恐らく彼の作品群の中でもダントツに珍しい派手シンセものなので貴重な逸品です。
一体どうやってセットの中に違和感なく組み込むのか気になりますね。

次週09月11日は774Muzikさんが担当します。
今回はこれにて。

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今週のオススメハードテクノ – Resident’s Recommend 2018/08/23

こんばんは。TAK666です。
レジデントが代わる代わるオススメハードテクノを紹介するこのコーナー、
2週間ぶりにワタクシが担当致します。

直近のパーティー情報を追っていてビックリしたのですが、ASCが来日するんですね。
以前、グレイエリアと云う音楽を特集した際に度々名前を挙げていたアーティストで、当該スタイル、と云うかミニマルテクノ~ベースミュージックの最先端に君臨するアーティスト。
この手のアンダーグラウンドな音を第一人者の手によって聴ける機会もそうそうないと思われるため、期待が高まります。高まっております。
ASCのみならず、出演するDJもテクノとベースミュージック混ぜこぜになっているのも良いなぁと思ったりする、そんなパーティーですね。

折角なので今回はこのままASCにスポットを当てて紹介しましょう。
以下プロフィールドン。

ASC

ASC
https://theasc.blogspot.com/
https://www.facebook.com/ASC77
https://soundcloud.com/asc

アメリカ西海岸、デル・マー出身のアーティスト。
1997年よりトラック制作を開始し、その中の1つがドラムンベース界の大御所LTJ Bukemの目に留まったことで彼のレーベル、Looking Good Recordsのコンピレーションに収録されます。
これを足がかりにして数々のレーベルとコネクションを持ち、これまでに100を超えるEPと18のアルバムをリリースしてきました。
自身のレーベル、Covert Operations Recordingsを設立した2009年以降、ほぼ1年に2枚のペースでアルバムをリリースしているので、驚異的な制作スピードです。

出発点こそドラムンベースであるものの、2010年以降映画音楽プロデューサーであるJeff Ronaと協力体制を組んだことで映画やゲーム音楽などにも関わる様になりました。
例えばコチラ、2016年に出たNEAR DEATHと云うサバイバルアドベンチャーゲームなのですが、音楽をASCが全面監修しております。

サウンドトラックはBandcampSteamで発売中。

活動当初より持ち味としていた緻密で繊細な音使いはより洗練され、現在も活動拠点としている自身のレーベルAuxiliaryや、DJ Presha率いるSamurai Musicからのリリースへと引き継がれます。
特にDJ Preshaとの出会いは後のグレイエリアの確立に大きく寄与しました。

2011年になるとASCはこれまで培ってきたドラムンベース、エレクトロニカの技術を駆使してテクノに手を広げ始めます。
この頃はまだドラムンベース、ハーフステップ(ドラムンベースを半分のリズムで構築したスタイル)のリリースが多く、ミニマルドラムンベース界の雄、D-Bridgeが代表を務めるExit Recordsからリリースを敢行していたりするのですが、テクノに関するリリース元がLuke Slater率いるMote-Evolverや、現行のメインストリームシーンを牽引するPerc Traxなど、並々ならぬ大御所揃いであったことから、ASCはテクノに於いてもその存在感を知らしめることに成功します。

このようにドラムンベースとテクノ、両者に肩入れしていたASCにとって、その間を跨ぐような音楽に着手したのは必然と言って良いかもしれません。
自身のレーベル、Auxiliaryで行ってきたBPM170(or 85)を軸に現代音楽のようなアプローチの音を加えることで複雑なリズムを形成すると云った試みは、より明確にテクノとの統合について模索するようになります。
ASCとDJ Presha、そしてASCに近い活動を繰り広げてきたSam KDCと云うアーティストの3者間の連携により、2015年に『3拍子のBPM127.5と4拍子のBPM170のリズムを同期させ、どちらのテンポともとれるスタイル』に代表される音楽、グレイエリアと、それをリリースするGrey Areaと云うレーベルが誕生しました。

グレイエリア特集記事に於いては
> リリース名、トラックタイトル、アーティスト全て匿名と云うある種の哲学を感じさせる
と記しましたが、この背景には記述的なトラックタイトルやアーティスト名によって生じる偏見を与えず、本当の意味で音楽そのものによって価値観を問いかけると云った意図があったことが分かりました。

このように極めてストイックな活動を展開するに当たり、自分の時間は積極的に確保していることがResident Advisorのインタビューで語られていました。
そもそも彼が住んでいるデル・マー(サンディエゴ)に独特のクラブミュージック文化があるわけではありません。
にも関わらず在住を続けている意味について、何物にも邪魔されず、影響を受けずに自分のプロダクションに集中できるからであると書かれています。
また、近年の作品では他アーティストとのコラボレーションが殆ど無い点についても自分がイメージしたものを即座に形にしないと気が済まず、相手が作業しているその間連絡を待ち続けることにイラついてしまうからとも語っており、これは以前ワタクシがCurrent Valueにインタビューを行った時、
『1曲当たりどのくらいの時間をかけているのか?』
と云う質問に対して
『2~3時間。それを超えると最初に思い描いていたイメージがどんどん分散していってしまい、作りたかったものと違うものが出来上がってしまうから。』
と回答していたのを思い起こさせます。

表題に掲げられた『Out of sync』はグレイエリアの文脈から読み解けば『同期の外』と捉えられ、曲のテンポの話のように思えますが、彼の活動理念からは『(他人との)同調を止める』と云う解釈にもとることができます。
その真意は徹底した自分だけのオリジナルに対する追求でしょう。
まるで禅問答のような制作活動によって生み出されるトラックは妥協を許さず、冷たく深いリズムを従えながらしかしどこか感情的です。
今日も今日とて実験の手を緩めず、誰も聴いたことがない、自分ですら聴いたことがない音に迫る職人トラックメイカー、それがASCです。

そんなASCのオススメはこちら。

ASC / Auxiliary

キャリア初期とまではいかないものの、まだドラムンベース単一のアーティストだった頃の作品。
後に設立することになるレーベルと同じ名前を冠したリキッドハーフステップ。

ASC / The Glow

新しい音楽のスタイルとしてダブステップの波が来ていた2010年、ASCもドラムンベース以外に取り組む足がかりとしてこんなトラックを出していました。
穏やかなシンセの音に対してベースが深い4つ打ちもの。

ASC / Carrier

2011年以降、積極的に手掛けるようになったテクノのうちの1つがこちら。
前出の楽曲に通ずるエモーショナルなリフ回しはそのままに、他の現行のメインストリームテクノと比べて全く遜色ないクオリティを出しています。

テクノリスナーからしてみたら突如彗星のように現れたようなもので、アーティスト伝いに昔の曲を掘ってみたら全然違うジャンルの作り手だったと面食らったことでしょう。
今でも同一のアーティストとは思えない程、兎に角幅が広いです。

ASC / Collider

そして最近のスタイルの1つがこんな感じです。
凄まじい深度を誇るヒプノティックなサウンド。
4つ打ちなのかどうなのかも最早よく分からないのですが、これが何かと言われるとテクノとしか答えようのないタイプの音楽。

ASC / Solar Reaction

確たる定義がグレイエリアにあるわけではないので、これがグレイエリアですと言えるものはないのですが、4拍子にも3拍子にも取れる曲と云う中の1つがこちら。
この頃には映画音楽を通過しているとあって、流れるような美しいパッドにその妙が表れています。
こういう曲をキーにしてテクノとドラムンベースを繋ぐのは、やってて面白いですね。

ASC / Torn from the Seams

ドラムンベースもテクノも、そしてそれらの混合生成物も全て現在まで手掛けているのがASCの凄いところです。
最後に紹介するのはキャリア初期に通ずるところもあるドラムンベーストラック。
ふわーっとしたウワモノや細切れになって聴こえる補助リズムはエレクトロニカを彷彿とさせる一方、コアとなるリズムは極太なテクノのそれ。

テクノとドラムンベースだったり、綺麗さとエグさだったり、かけ離れたように見える要素を融合させてしまうASCの手法こそ、彼が異端の存在感を放っている所以でしょう。
冒頭で紹介した来日公演で音楽の深部をどのように聴かせてくれるのか、とても楽しみです。

次週08月28日は774Muzikさんが担当します。
今回はこれにて。

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