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今週のオススメハードテクノ – Resident’s Recommend 2018/08/09

こんばんは。TAK666です。
レジデントが代わる代わるオススメハードテクノを紹介するこのコーナー、
2週間ぶりにワタクシが担当致します。

前回担当ではレイヴとテクノの混合点としてAlan Fitzpatrickをご紹介しましたが、元来ワタクシはレイヴミュージックと云うものが大好きでして。
90年代のレイヴ発祥から既に20年以上経過しているにも関わらず、あの下品と言わずして何と表現できようかと云うシンセは今尚強烈なインパクトを誇っていると思えてなりません。
他にもアーメンブレイクやピッチの上がった声ネタ、アシッドシンセなんかもレイヴを体現する音の代表格と言えますが、1番の魅力はそれらを惜しげもなく用いた上で実験的なフレーズや展開を表現することを恐れなかった点だと思っています。
クラブミュージックを聴き始めたのは2000年に入ってからなので完全に後追いではあるのですが、つい先日もレイヴ、アーメンブレイクにスポットを当てたプレイを行ってきたところです。
Hardonizeでもこの手の音楽は度々使っている気がします。

レイヴミュージックにスポットを当てているのはワタクシの1人相撲ではなく、Redbullの音楽コラムに於けるテーマとして割と挙げられていたりします。
Happy Hardcore | Magazine | Red Bull Music Academy Japan
UKレイヴ&ハードコア最重要クラシック ベスト7
この2つはかなり参考になったので是非ご一読ください。

そんなワケで今回はそんな古きレイヴミュージックに最も近い音楽であろう、レイヴブレイクスを現在進行形で作り続けているこの人にスポットを当てます。

Paul Cronin

Paul Cronin
https://paulc9898.wixsite.com/paulcroninmusic
https://www.facebook.com/paul.josephcronin
https://soundcloud.com/paulc9898

1974年生まれのクリエイター。
出身はイギリス内陸部、リーズであり、現在もそこを拠点に音楽活動を行っております。
とはいえ、DJとしてステージに立つことはあまりなく、作曲とプロデュース業に専念している最近ではちょっと珍しいタイプでもあります。
その一方で現行のレイヴブレイクスシーンに於いては代表格と言って良い程欠かせない存在であり、様々なDJ MIX、ポッドキャストにPaul Croninの曲が使用されています。
(WILDPARTYさんのMIXにも使われていたりします。)

2010年にフリーEPのリリースを行うことでアーティストとしての活動を開始し、その後はDred CollectiveMusic RascalsSonic Fortressと云ったシーンを代表するレーベルからリリースを敢行。
2015年には自身のレーベルRaveskool Recordingsを設立し、新世代クリエイターのデビュー作を多く世に放っていることから、新人育成にも力を入れていることが窺えます。

そもそもレイヴブレイクスとはどのような音楽かと云えばこのようなものになります。

Paul Cronin / Bitch

大方想像通りかと思いますが、冒頭で書いた通りレイヴシンセを強烈にフィーチャーしたBPM140周辺のブレイクビートです。
Paul Croninのトラックはそれに加えて、アーメンブレイクを用いたこれまたインパクトのあるリズムが特徴と云う印象がありますが、アーメンブレイクはレイヴブレイクスの必須要素と云うわけではなく、作り手によってマチマチです。
グライム、アブストラクトの系譜からもっとベースに重点を置くタイプもあれば、EDMライクなカッチリしたドラムキットにダイナミックなベースの上でレイヴシンセが鳴っているようなものもあるので、この辺りもいずれ紹介できたら良いなと思っております。

念のため申し上げておきますと、90年代のオールドスクールレイヴとの間に確たる違いがあるわけではありません。
強いて挙げるとすれば、出音が現代のダンスミュージックらしく中音域が明瞭になるようなマスタリングされていることと、基本的に8小節展開を守っているので曲の展開を読みやすくなっていることだと思います。
(テクノもそうですが、昔の曲は変なところで展開が変わるものがしばしばありました。)

もう1つ似たような系統の楽曲を。

Paul Cronin / Phase 4

こちらの方がよりアップリフティングな曲調でピークタイム向きですね。
信じがたいかもしれませんが、前の曲共々2010年代に入ってからのリリースです。
前の曲に至ってはリリースから僅か1年しか経っていません。

Paul Cronin / Piano Choon

レイヴと云えばM1ピアノを始めとする明るい鍵盤の音もまた1つの印象深いものとして耳に残りますね。
それを軽快なボイスサンプリングと共に全面に打ち出しているのがこちら。
音そのものは古臭い一方で細かいリフやドラム刻みが現代チックなハイブリッドトラック。

Paul Cronin / Wonky

派手な曲調ばかりがレイヴの特性ではありません。
アーメンブレイクはこれまで紹介した曲同様使い倒しつつも、怪しげなストリングスがグライミーなベースと共に進行するマニアックな路線の曲。
ワタクシの場合、こういう渋い系と派手系の中間点みたいな曲は両者間の橋渡しとして、或いは多ジャンルとの橋渡しとして使うことが多く、割と重宝してます。

すっかり紹介し損ねておりましたが、レイヴミュージックの作り手と云うのは変名義をいくつか抱えているパターンが割とあります。
Paul Croninもその慣習に則り、本名義と同時進行でBreakbeat Allianceと云うプロジェクトを抱えており、そちらはレイヴ要素をサブウェポン程度に留め、よりブレイクビートに軸足を置いた楽曲制作を行っております。
従って上記のような曲調が好きであればこちらの名義を追ってみても良いかもしれません。
勿論現在も両者平行して活動継続中で、今年に入ってから既に3枚のEPをリリース済み。

Paul Cronin / Cauldron

さて、数あるレイヴブレイクスアーティストの中であえてPaul Croninを選出した理由の1つがこの曲にあります。
ちょっとBPM速めで怪しげなベースラインが鳴り響いている、と云うのが第一印象なのですが、しばらく聴いていると突如としてゲームSIRENで使用されている奉神御詠歌のサンプリングが差し込まれるのです。
同じホラーゲームでもSIRENT HILLネタなんかは割とあった方ですが、これをネタ元とする曲はゲーム本体の知名度の高さに反して未だにこれ以外出会ったことがなく、しかもよりによって派手な曲調のものが多いレイヴブレイクスの中にあったことがかなりの衝撃でした。
尚、Paul Croninの作品と云う括りで見てもこれ以外これと云って同系統のネタモノがあるわけではないため、この曲の突然変異度はかなり高め。

Paul Cronin (feat. The MaD mC) / Welcome To The Asylum

最後にしょーもない路線の曲を。
最早このジャケットから嫌な予感がモリモリ漂ってきますが、その通り、きかんしゃトーマスのテーマネタです。
本当にイギリス人はきかんしゃトーマス大好きだなと思う程に数多くのリミックスやミーム的マッシュアップが大量生産されているのはご存知の通りだと思いますが、これもその中の1つ。
ほぼサンプリングとアーメンブレイクの勢いのみで突っ走っている、Paul Croninワークスの中でもダントツに雑な曲でもあります。
これ売っちゃうんだーって感想も至極ご尤も。

しかしこういうシンプルな方がむしろ実験的でレイヴらしいと思ってしまう辺り、ワタクシは沼から抜け出せそうにありません。
皆様に於かれましてはレイヴの摂取はくれぐれもほどほどに。

と、ここまでPaul Croninのオススメ楽曲を紹介してきました。
他にもSoundcloudアカウントにはブートレグ含むフリーダウンロード楽曲が公開されていたりするので(と云うかこの界隈結構頻繁にフリーリリースしていたりもするので)、トラック収集はある程度の量までかなり簡単に行うことができます。
同テンポ帯の音楽にカウンターとして差し込む分には申し分ないインパクトを稼げるので、DJの方々にも是非積極的に使って欲しいところです。
何よりワタクシがレイヴ好きなので。何卒何卒。

次週08月14日は774Muzikさんが担当します。
今回はこれにて。

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今週のオススメハードテクノ – Resident’s Recommend 2018/07/26

こんばんは。TAK666です。
レジデントが代わる代わるオススメハードテクノを紹介するこのコーナー、
2週間ぶりにワタクシが担当致します。

rural_1
rural_2
rural_3
rural_4
rural_5
前回担当直後、774muzikさんがap bank fesに行きSangoさんがRe:animation 12に出演していたタイミングと同時期にワタクシはワタクシでruralと云うフェスに遊びに行っておりました。
卓越した審美眼で選ばれたテクノを中心とするラインナップにより、山頂のキャンプ場で三日三晩、音楽が鳴り続けるパーティー。
Resident Advisorが毎度発表している世界のベストフェスティバル (2018年07月版)にもランクインするほどその支持は厚く、今回で開催10年目を迎える記念すべき回でもありました。

延々と同じ音がかかっていると思いきや、朝方はアンビエントやエレクトロニカがかかり、昼から夕方にかけてはテックハウスのようなグルーヴ感のある選曲を持ち味としたDJが腕を振るい、日が暮れるとメインストリーム系テクノの硬質な音が山に鳴り響くのでそれぞれに特色がありましたし、何より日の出~日の入りと云う大自然の映像演出が格別。
2日目の深夜帯なんか霧まで発生してスモーキーなフロアになってましたし、そこにAkiko Kiyama氏ENA氏の極めて低音に寄ったベース系エレクトロニカは、まるで宇宙との交信か世界の終焉。
キャンプエリアがステージに近いところにあり、持ち寄った食材を調理しながらテクノを聴く、と云うのもなかなか現実離れしており、週明け日常に戻るのが大変でした。

ほぼ出演者に関する前調べをせずに行ったので、ハードテクノ的に重要人物であるOliver Hoのプレイとか見逃してしまったのですが(後で聴いたらハードミニマルとかかかっていたらしいですね。)、完全初見で非常に印象に残っているのはRNSTと云う3人組バンドの演奏でした。

R N S T / Continue (short Ver.)

2012年結成。
リズムマシン、ギター、ベースをそれぞれ1人ずつ担当し、ミニマルやエレクトロニカを軸とした楽曲を展開しており、ruralや秘境祭など野外フェスにも参加経験のある気鋭のアーティスト。
これだけ読むと何となく難解なイメージを抱きがちですが、聴いてみると意外にポップと云うか、音の1つ1つが綺麗で爽やかな感じを受けます。
最近リリースされた新作EPにはHiroshi Watanabe氏Koyas氏をリミキサーに起用しており、テクノの側面から見ても重要なバンドであることが窺えるでしょう。
(余談ですがマスタリングにROVO及びDub Squadの益子樹氏が関わっていて、ジャムバンド好きとしては大いに納得してしまいました。)

こちらのBandcampのページから購入が可能となっております。
大変オススメです。

さて、そんな最新のメインストリームテクノにどっぷり浸かった沼からまだ抜け出せていないので、せめてハードテクノとの親和性があり、且つレイヴの残り香もあるようなアーティストを紹介したいと思います。
どうでも良いことですが、荒御霊のKouki Izumi氏もイチオシの人だったりします。

Alan Fitzpatrick

Alan Fitzpatrick
https://www.facebook.com/officialalanfitzpatrick
https://soundcloud.com/alanfitzpatrick

イギリス南部、サウサンプトンのDJ/クリエイター。
2008年に彗星の如くテクノシーンに現れ、その後立て続けにEPのリリースを行ったことで急速に知名度を上げることに成功します。
その間にサインしたレーベルはJohn DigweedによるBedrock Records、Len Fakiが長を務めるFigure、そしてAdam Beyerが率いるハードミニマルの名門Drumcodeなど、どれも大物。
自身でもWe Are The Braveと云うレーベルを運営することになるのですが、かつてダブステップに変化を齎し、世界中に拡散させた存在であるSkreamリリースをプロデュース(しかも最近)すると云う、こちらも大物食いを成し遂げます。

彼の音楽性については彼自身がスキマ産業であることを明言しています。
Alan Fitzpatrickの特徴とも言える重く肉感的なビートに、ファンキーなベースラインやオールドスクールレイヴのリフを融合させた大胆な楽曲群は新規のファンを獲得するだけに留まらず、旧来のテクノヘッズをも魅了し、世界中の名高いクラブ、フェスに招聘されることになりました。
ヨーロッパは元より北米、南米、アフリカ、そしてアジアと忙しくギグをこなしております。

日本にも2012年に日本ツアーと云う形で1回2013年にも1回、来日を果たしております。
特に2013年はBen Simsと並んでの出演だったこともあり、広く話題になったのを覚えております。

なぜここまでダイナミックなトラックを生み出すことができるのか、と云うことについて昨年のインタビューでAlan Fitzpatrick自身が回答しておりました。
(記事の表題が『We Are The Rave』なのが個人的にグッときますね。)
彼はイギリス生まれと云うことで、やはり1990年代初期のオールドスクール・レイヴ文化から受けた影響が今も残っているそうです。
SlipmattのMIXに触発され、Aphex TwinのSelected Ambient WorksやGoldieのTimelessなどは電子音楽として完璧であると評しているのが意外と言えば意外ですが、この辺りの音楽が当時どれほど斬新な音楽であったか窺い知ることができるとも言えます。

自分の青春時代に聴いた曲はいつ聴いても気持ちが洗われる、と云う人がいますが、どうやら彼もそう云ったタイプのようでした。
しかし彼が有名になった頃にはリスナーにも若い層が増えており、当時のロンドンレイヴシーンがどれほど(良い意味で)ショッキングなものであったのか知らない世代が大方であることに気付きます。
それを逆手に取って彼らにとって斬新であるよう、且つ自身の趣味も兼ねたスタイルを追求していく道を選んだのだそうです。

テクノに於いて大袈裟なドロップやレイヴ・スタブ、シンセサイザーのメロディーなどは時に敬遠されることもあります。
なぜならそれはテクノと云うよりトランスの要素が強く出てしまうためです。
彼自身その点は自覚していましたが、同時に新しい音や新しいアイデアを出し、定型的なパターンに固執していないものを作ることの重要性も分かっていたため、あえてDrumcodeからのリリースで派手な展開を見せる曲の着手に乗り出しました。
これが後にPrometheusのような壮大なスケールのテクノの誕生に繋がったのだと語っています。

Alan Fitzpatrick / Prometheus

当時この手のサウンドを作っていたのはAlan Fitzpatrick以外見当たらなかったそうですが、今では多くの後に続くクリエイターが出てきており、それは彼のプロデュースに於いて最も誇らしいことだそうです。

Alan Fitzpatrickはまた、自国イギリスのクラブミュージックカルチャーの保護にも尽力してきました。
国営ラジオプログラム、BBC Radio 1 Essential Mixや、名門クラブfabric営業再開のためのパーティーに参加するなどがそれに当たります。
一時期は2005年から(今も)続いているJadedと云う老舗パーティーの4半期ごとに呼ばれる準レギュラー的なポジションにいたこともあり、ロンドンの耳の超えたリスナーに向けて特別なロングセットを披露すると云う試みも行っていました。
勿論Drumcodeのレーベルパーティーにも数多く出演し、ボスであるAdam Beyerと共にイギリスのテクノを全世界に向けて今も発信し続けています。

作り上げるリズム同様のタフな精神を武器に古きに対して経緯を払い、新しきに対して果敢に挑戦するアーティストと言えるでしょう。
独創的であり、独走的でもある彼の音楽、是非触れてみてください。

そんなAlan Fitzpatrickのオススメ楽曲がこちら。

Alan Fitzpatrick / 1992


オールドスクールレイヴと現代テクノのフュージョン。
彼の作曲群の中でもズバ抜けて尖っている印象があります。

Alan Fitzpatrick (Feat. mc r1bbz) / Wait a Second


一聴して分かるレイヴクラシックサンプリング。
サイドMCの入ったテクノと云う意味でも大変貴重なトラックです。
ちなみに去年のリリース。

Renato Cohen / Pontape 2013 Remake (Alan Fitzpatrick Remix)


Drumcodeの人とくればこれは取り上げないとって感じのリミックスです。
原曲要素はほぼフィルの部分だけのような気がしなくもない、ある意味ストレートなアレンジ。

Alan Fitzpatrick / Green Light


レトロなシンセリードがゲームっぽい印象を受ける彼の初期作品。
以前紹介したFilterheadzに近いものがありますね。

Alan Fitzpatrick / Moon Palace


かなり意外な印象を受けるプログレッシヴ風トラック。
本当にたまにですけど、こういう曲も作ってたりします。幅が広い。
パーティー終わり付近で流れると良い感じになれそう。

次週07月31日は774Muzikさんが担当します。
今回はこれにて。

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