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特別連載:ハードテクノとは何か? – 第4回:ハードトライバル編


特別連載:ハードテクノとは何か?
第4回:ハードトライバル編
特別連載:ハードテクノとは何か? – 目次

第1回:黎明期編
第2回:ハードミニマル編
第3回:ハードアシッド編
第4回:ハードトライバル編 (今回)
第5回:ハードハウス編
第6回:シュランツ編
第7回:ハードグルーヴ編
第8回:インダストリアル編
第9回:テックダンス編

番外
第1回:メロディアス・ハードテクノ編
第2回:ハードダンス編
第3回:ディスコ編

こんばんは。TAK666です。
レジデントが代わる代わるオススメハードテクノを紹介するこのコーナー、
2週間ぶりにワタクシが担当致します。

と、その前に。

2019/9/7 Hardonize #34


次回Hardonizeの開催情報が公開となりました。
此度ゲストにお招きしたのはATTさん、そしてni-21さんのおふたりです。
共に長きに渡って東京でハードな4つ打ちダンスミュージックを奏でているベテラン同士。
手前味噌ながら小箱で行うパーティーにしてはかなり豪華な組み合わせであることは間違いありません。
何より、数々のパーティーや音楽を経由していながら現行のハードテクノにスポットを当てることが出来る2名とあって、今回はよりストレートにハードテクノとはこれだ!と云うテーマを提示できる回であると確信しております。
無論、我々レジデントDJもそれに沿った選曲を心掛ける所存です。
お前が言うなって言われそうですが。

09月07日の土曜日、15時より早稲田茶箱にて執り行います。
どうかよろしくお願い致します。

さてさて、ここ数回に渡ってお送りしております、ハードテクノが内包する音楽のスタイルについて解説していくコーナー、今回はその4回目となります。

初回ではハードテクノのサブジャンルについて上のような図を用いて表した上でハードテクノの特徴を
・メインストリームテクノよりは速いテンポ
・4分打ちのハイハットによる疾走感のあるグルーヴ
・キックの強度やベースの厚み
としました。
今回はこの中のハードトライバルと云う音楽について紹介していきたいと思います。

前回同様これもまた注釈になりますが、今回ご紹介するタイプの音楽も単一のジャンルとして広く認知されている名称があるわけではありません。
名称からお察し頂いた方もいらっしゃるとは思いますが、今回ご紹介するのはトライバルテクノと云う音楽と、ハードテクノと云う音楽の交配種に当たるため、どちらかのジャンルとして一括りにされているケースが殆どであるためです。
より正確に表すならトライバルハードテクノと云う呼称で紹介すべきなのでしょうけれど、以降の紹介で何度も用いる単語としては長いものになってしまうので、今回は略称としてハードトライバルで統一させてください。

ちなみに、似たような音楽ジャンルの名前にハードテック・トライブと云うものがありますが、全く別の音楽です。
ただ、テクノから派生したアグレッシヴ(≒ハード)な音楽である、と云う点に於いては共通しているので、ご興味があればこちらの日本語情報サイトをご覧ください。

http://hardtek.jp/

日本のクリエイターも数多く存在するので、今や音楽的な知名度としてはこっちの方が高いかもしれません。
自分も10年単位で追いかけている好きな音楽です。

話を戻してトライバルハードについてですが、実は今回のテーマは僕が特別連載をやるまでもなく、774Muzikさんが過去にガッツリ取り上げていたりします。

今週のオススメハードテクノ – Resident’s Recommend 2017/08/15


これを書くように煽ったのは僕ですが、長年この手の音楽に肩入れしているだけあって物量が凄まじい。ここまでやれとは言ってない。
代表楽曲のアーカイブとしては大いに参考になること間違いないのですが、時系列順に補足を設けながら紹介していくと云うのがこの特別連載のテーマでもあるので、今回は自分なりにトライバルハードについて述べていきます。

あと2019年現在での活動アーティストについても触れたいですし、その辺りは前述の記事でもあまり触れられていなかったので。
・・・なんてことを言うと774Muzikさんは乗っかってくるのかしらどうなのかしら。

さて、ここに至るまで頻出していたトライバルとは一体何のことやらってところから説明すると、早い話がパーカッションリズムです。
テクノに限らずですが、90年代ダンスミュージックの作曲と云うのはハードウェア機材によって賄われており、機材の機能や処理の制約をモロに受ける時代でした。
今でこそテクノ、ハウスにとっては名機と呼ばれているリズムマシンRoland TR-808Roland TR-909にしても使える音源の種類や同時に再生できる数には限りがあり、どうしてもシンプルなリズムにならざるを得なかったと云う背景があったのです。
また、リズムマシン特有の機械的な音色がテクノのキーワードである無機質な反復リフと相性が良かったこともあり、あえて生音感の強いパーカッションを加える発想がそもそもなかったようにも感じます。

やはりと云うかなんと云うか、そこを見事にひっくり返したのが特別連載の第1回でも触れたJoey BeltramJeff Millsでした。
(この連載を続ける度にこの2人って凄かったんだなと再認識している次第です。)

Joey Beltram / The Start It Up

The Start It Up (Original Mix) by Joey Beltram on Beatport

1994年リリース。
テクノの定義が曖昧な頃にリリースされた、だからこそテクノとしか呼べない曲。
一聴して分かる異様に誇張されたパーカッションの音は当時かなり珍しく、後年のトライバルテクノの源流と言って良いトラック。
と云うか今聴いても十分異様ですね。

Jeff Mills / Alarms

Alarms (Original Mix) by Jeff Mills on Beatport

1996年リリース。
デトロイトテクノやミニマルテクノのイメージが強いJeff Millsですが、早期からパーカッションリズムを取り入れたトラックをリリースしており、また彼のレーベルThe Purpose Makerからのリリースにはこの手のトラックが必ず入っていたこともあってこのスタイルのテクノを世に知らしめた貢献者であることは間違いありません。

ちなみにこの盤が収録されているA面の1曲目には彼の代表曲でありテクノの一大アンセムであるThe Bellsが入っていると云う、シーンに於いて台風の目となった作品。

もう1つ、同時期のクラシックを挙げるとすると個人的にも大好物なコチラ。

Grooveyard / Watch Me Now

Grooveyard – Watch Me Now || EC Records – 1995 – YouTube

1995年リリース。
Secret Cinemaの変名義であるGrooveyardの名の元にリリースされた名作。
と云っても実は複数の既存曲を掛け合わせたマッシュアップだったりするのですが(リズム部分はコレで、声ネタはコレ)、ブラッシュアップされたリズムはテクノやハウスとの相性が良く、多くのDJにプレイされました。
特にベースの深度が1995年のソレではないです。
現代のベースミュージックから普通に繋いだりできます。

余談ですが、上記の曲に更にInner City / Good Lifeを重ねたものが存在します。

Devilfish / Manalive

Manalive (Original Mix) by Devilfish on Beatport

アンセムにアンセムを足して割らない。
この頃Just Kick!だったり、大ネタ同士のマッシュアップがちょっと流行してました。

90年代後半になると、このパーカッションリズムのテクノは徐々に浸透し始め、このスタイルを背負って活動するアーティストが出始めます。
最大勢力は何と言ってもBen Simsでしょう。

Ben Sims / Impact (Killabite Remix)

Ben Sims – Impact ( Killabite Remix )

1999年リリース。
KillabiteはBen Simsを含む3人ユニット。
前述の1990年代中盤のトラックはテクノの枠の中にパーカッションリズムを加えた、と云う意味で画期的だったのに対し、こちらはパーカッションリズムを中心軸に据えながらテクノとして構築すると云う逆のプロセスを採択している点に於いて少し質が異なるように聴こえます。
ベースも少しうねりのあるものになっていてファンキーな印象。

Ben SimsはTheory RecordingsHardgroove、そしてIngomaと云う複数のレーベルの運営を行い、このスタイルのテクノを強力に後押しする存在になっていきます。
後にBen Simsチルドレンと呼ばれる存在も出てくるようになるほど、強い影響力がありました。

Ben Simsと同時期にシーンを支えていたアーティストとしてSamuel L Sessionの存在も重要です。

Samuel L. Session / Tribecutz Vol. 1 – B2

Samuel L. Session – Untitled ( Tribecutz Vol. 1 – B2 ) – YouTube

2000年リリース。
EPのタイトルも『民族』であればジャケットも民族、勿論曲も民族的なテクノ。
本作があったからと云うわけではないでしょうけれど、民族的なパーカッションをはじめとするリズムの手数が多いテクノトライバルテクノと呼ぶのが一般的になったのはこの頃ではないでしょうか。

Samuel L. Sessionはデビュー当時ポストJeff Millsと謳われた程、ミニマルやデトロイトテクノの色が強かったのですが、
大体この辺りの頃からトライバルテクノ色が強くなっていきます。

Paul Macもまた当時を代表するトライバルテクノのクリエイターです。

Paul Mac / Cards On The Table (Original Remastered)

Cards On The Table (Original Remastered) by Paul Mac on Beatport

原曲は2002年リリース。
上記試聴は2007年に出たリマスター版です。
この頃になるとハードウェア機材の技術向上や、デスクトップパソコンを作曲に用いることも容易になり、上で述べたような機材スペックによる制約と云うものは減ってきます。
従ってこの曲のようなパーカッションリズムに留まらず、民族音楽のリフをそのまま用いるような曲が出るようになってきました。
また、リズムの硬質化やテンポの高速化など、徐々にハードテクノへの接近もするようになったのもこの頃です。

若干時代が前後しますが、トライバルテクノがハードテクノに接近するかしないか、と云う頃に出た曲で印象に残っているのがこちら。

Tomaz, Filterheadz / los Hijos del Sol

los Hijos del Sol (Original Mix) by Tomaz, Filterheadz on Beatport

2001年リリース。
この後プログレッシヴを経てメインストリームテクノに戻ってくると云う経緯を辿るFilterheadzですが、活動初期の頃はバッチバチのトライバルテクノを作っていました。
パーカッションあり、声ネタループありでエキゾチックな雰囲気を醸しつつもなかなか太いキックが鳴り響く攻めっ気たっぷりの曲。

個人的な話になりますが、テクノと云う音楽を知り始めの頃にたまたまヴァイナルで買っており、テクノと言えば金属音の集合体みたいな印象を持ったまま針を落としたもんで、『思ってたのと違う。』ってなった記憶があります。

以前行ったFilterheadz特集回はコチラ。

さて、上述の通り2000年以降にトライバルテクノの一部がハードテクノに接近していく動きが出てきました。
そんな中で生まれたこの曲がこれだったわけです。

Cave / Street Carnival

Cave – Street Carnival (Original Mix) – YouTube

2003年リリース。
テクノシーンのみならず周辺音楽をも巻き込んで大ヒットを記録したCaveのファーストEPにして出世作。
ここまでの爆発力を誇るブレイクは少なくともテクノでは比肩するものがないように思えます。
この曲については以前行ったCave特集回にて散々触れたので、そちらをご参照ください。

決定的にハードテクノと接触したと感じたのはこれを聴いたときです。

Killa Productions / Give It Up (Re-Edit)

Killa Productions – Give It Up ( Re-Edit ) – YouTube

2004年リリース。
一応リズムに元ネタが存在するのですが、それを食ってしまう勢いの重厚なグルーヴ。
あとこれもブレイクの爆発力はかなりのもの。
ちなみに別面にはInner City / Good Lifeネタが収録されており、知名度としてはそちらの方が高かったりします。

さてこのKilla Productionsはブートレグ用の覆面名義として発足されたものであり、当初正体不明だったのですが、時を経るにつれてその正体が上で述べたBen SimsPaul Mac、そしてその2人と共にトライバルテクノに貢献していたMark Broomの3人だったことが分かりました。
『いやプロにこんなことやられたらアマは出来ることないじゃん!全面降伏しかないじゃん!』となった一件でした。

トライバルテクノの発現以降トライバルテクノを主軸に活動したアーティストがいたように、2000年代中盤以降はハードトライバルを軸に活動すると云ったアーティストも出てきました。
上で挙げた774Muzikさんの記事内で触れられていたCarl Falkや、Boriqua Tribezと云った方々もその中の1人です。

個人的なオススメとしてはMiche & Mirzinhoが真っ先に挙がります。

Miche & Mirzinho / Thulium

Thulium (Original Mix) by Miche & Mirzinho on Beatport

2007年の作品。
リズムの手数がかなり多く、厚みもあるグルーヴを提示することに長けている東ヨーロッパ出身の2人です。
(近年のハードテクノに於いて東ヨーロッパはアーティストが多く、かなり重要地域。)
シンセリフを使ったアグレッシヴな作品なんかもよく作るので実用性も◎。

Street Carnivalのような爆発力のあるブレイクと云うキーワードを取り出すとこちら。

Ivan Devero / Samba en Madrid

Samba en Madrid (Original Mix) by Ivan Devero on Beatport

2011年の作品。
従来はファンキーなハードテクノのリリースが多かったものの、最近はテックハウス多めなスペインのアーティストIvan Deveroによるもの。
(だから本作のタイトルにマドリードが。)
まぁとにかくブレイクのリズムが派手。
メインの部分は逆にシンプルなグルーヴキープものなので、意外に使いどころが難しい気もしますけど、珍しいトラックであることは間違いないです。

あとは当連載の新譜紹介に於いて時折名前の出るGarett Whiteは近年になってもトライバルハードを手掛ける存在として忘れて欲しくないところです。

Diego Simeone / Italiano Drums (Garett White Remix)

Italiano Drums (Garett White Remix) by Diego Simeone on Beatport

2015年の作品。
こちらもMiche & Mirzinho同様、リズムの太さには目を見張るところがあります。
この曲に限らずですが、Garett Whiteの曲にはリズムにちょいちょいミュートが差し込まれることがしばしばあります。
細かいこだわりなんでしょうか。
いずれ非4つ打ちとか作ったら是非聴いてみたい気がします。

最後に1つ。
ここ日本にもトライバルハードを精力的に作っていた方がいらっしゃいました。
と云うかHardonizeにもかつてお招きした方であり、もっと言えば自分が初めてパーティーを主宰した際にお招きした方でもあります。

Groovetune / Screaming

Buy Facts & Inventions by Groovetune on MP3, WAV, FLAC, AIFF & ALAC at Juno Download

残念ながらGroovetune名義としての活動は大分前に休止してしまったのですが、2006年に出たこのFacts & Inventionsと云うアルバムは全曲ハードテクノ、しかもトライバルハードの占める割合が半数以上であるかなりレアな作品です。
元はCDでの流通でしたが、Juno Downloadで配信されております、と云うかアルバム単位ならその他の作品もそこそこ揃ってます。
日本のハードテクノ史と云う意味でも稀有で重要な存在なので、未聴の方はこれを機に是非触れて頂きたいところです。

以上、ハードトライバル編をお送り致しました。
この音楽の特徴についてまとめると、パーカッションリズム+速い+硬い(反面、シンセサイザーを用いたリフは少ない)がキーポイントになっています。
タダでさえリズムの手数が多いので、あまり長時間に渡って複数の曲を同時再生出来る構造にはなっておりません。
一方で割と短いスパンで次々繋いでいくと云うMIXスタイルは取りやすく、パーカッションと云うパートに軸足を置いている限りメロディーによる不協和音も起こりにくいため、案外自由にDJを行うことができると云う点は便利です。

1番の難点は探しにくさです。
冒頭で述べたように、ハードテクノにもトライバルテクノにも分類されているため、両方のカテゴリーをくまなく探すほか見つけ方を知りません。
あとはアーティストやレーベルに関する知識をどれだけ持っているかに直結してくる気がします・・・この辺りを774Muzikさんにフォローしてもらおう。うん、それがいい。

と云うわけで次回の『特別連載:ハードテクノとは何か?』につきましては08月09日に公開。
小テーマはハードテクノから少し離れた界隈で成長を遂げたものの、結果的に一部がハードテクノそっくりになってしまった音楽、ハードハウス編をお送りします。

そして次週07月30日は774Muzikさんが担当します。
今回はこれにて。

特別連載:ハードテクノとは何か? – 目次

第1回:黎明期編
第2回:ハードミニマル編
第3回:ハードアシッド編
第4回:ハードトライバル編 (今回)
第5回:ハードハウス編
第6回:シュランツ編
第7回:ハードグルーヴ編
第8回:インダストリアル編
第9回:テックダンス編

番外
第1回:メロディアス・ハードテクノ編
第2回:ハードダンス編
第3回:ディスコ編

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特別連載:ハードテクノとは何か? – 第3回:ハードアシッド編


特別連載:ハードテクノとは何か?
第3回:ハードアシッド編
特別連載:ハードテクノとは何か? – 目次

第1回:黎明期編
第2回:ハードミニマル編
第3回:ハードアシッド編 (今回)
第4回:ハードトライバル編
第5回:ハードハウス編
第6回:シュランツ編
第7回:ハードグルーヴ編
第8回:インダストリアル編
第9回:テックダンス編

番外
第1回:メロディアス・ハードテクノ編
第2回:ハードダンス編
第3回:ディスコ編

こんばんは。TAK666です。
レジデントが代わる代わるオススメハードテクノを紹介するこのコーナー、
2週間ぶりにワタクシが担当致します。

ここ数回に渡ってお送りしております、ハードテクノが内包する音楽のスタイルについて解説していくコーナー、今回はその3回目となります。

初回ではハードテクノのサブジャンルについて上のような図を用いて表した上でハードテクノの特徴を
・メインストリームテクノよりは速いテンポ
・4分打ちのハイハットによる疾走感のあるグルーヴ
・キックの強度やベースの厚み
としました。
今回はこの中のハードアシッドと云う音楽について紹介していきたいと思います。

いきなりで申し訳ございませんが、このハードアシッドと云う呼称は一般的に広く使われているものではありません。
とは言え、Soundcloudでタグ検索すると一定数の楽曲は挙がってくるので、ワタクシがここで勝手にそう呼び出したと云うものでもないのですが、これから説明する音楽をそう呼んでいる人はそう多くないと云うことは覚えておいてください。

と言うのも、本来の呼び方はアシッドテクノ、或いはもっとシンプルにアシッドなのです。
しかし、この呼称に属する音楽はアシッドサウンド(※後述します。)を使ったあらゆるスタイルのテクノが含まれるため、これから紹介するハードテクノのエッセンスを取り入れたアシッドテクノを指す名称として単純なものがハードアシッドとなり、今回は便宜上この呼び方で統一させてください。

それを踏まえた上で、この音楽を特徴付ける最も重要な要素であるアシッドサウンドについて説明すると、1980年代中期にRolandが発売したシンセサイザーTB-303を用いて鳴らすことの出来る特徴的な音が最初期の定義です。
これを最初にダンスミュージックへ落とし込んだのがシカゴのハウスDJ、DJ Pierreでした。

Phuture / Acid Tracks (12″ Version)

Acid Tracks (12″ Version) by Phuture on Beatport

オリジナルは1987年リリース。こちらは2013年にリリースされたリマスター版です。
この全編に渡ってビヨビヨ鳴っているのがアシッドサウンドです。
この奇妙且つ革新的な音はダンスミュージックの枠を超えて広く支持され、当初ベース代用シンセとしての用途を想定されていた安価な機材だったTB-303はあっという間にクリエイター必携の機材へとのし上がった程の広がりを見せました。
(現在ではえげつないプレミア価格で取引されております。)

ちなみに現在では生産を終了してしまったTB-303ですが、MC-09TB-3TB-03と云った同系統の音を出すことの出来る後継機(クローン)が多く販売されたため、今となってはTB-303を使用せず作られたアシッドサウンドも多く存在します。

また、このアシッドサウンドの拡大に一役買ったのが、当連載の初回でも触れた90年代初頭のヨーロッパ・レイヴです。
快楽主義を至上命題とするレイヴミュージックはアシッドサウンドの中毒性と相性が良く、当時のレイヴアンセムと称された有名楽曲の多くにこの音が用いられました。
LFO / LFO然り、The KLF / What Time Is Love?然り、Orbital / Chime然り、そして初回でも紹介したJoey Beltram / Energy Flash然りです。

やがて90年代初期にテクノと云うジャンルが確立するのに追随するように、アシッドサウンドもまたテクノとの親和性を見出すようになります。
これがアシッドテクノと呼ばれる音楽の成り立ちと言えるでしょう。
代表的な曲といえばこちら。

Hardfloor / Acperience 1

Acperience 1 (Original Mix) by Hardfloor on Beatport

ドイツの2人組ユニット、Hardfloorによる1992年作のトラック。
結成から僅か1年にしてリリースされたこの曲は全編9分にも及ぶ超大作であり、2台のTB-303を同時に鳴らすと云うインパクトも相まって大ヒットを記録。
後にAcperienceシリーズと銘打つ彼らの代表曲となっております。
現行7まで続いており、そのAcperience7は2017年のアニメーション映画交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューションの挿入曲として書き下ろされたと云う経緯があります。

HRDFLR / Acperience7_eureka_mix

MV HRDFLR「Acperience7_eureka_mix」(交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション 1 挿入曲) – YouTube

その後、テクノがハードテクノへと広がっていく過程でアシッドテクノもまた硬質的なリズムに対してアプローチする一派が出てきました。
その前夜とも言える1995年にリリースされたこちらの曲はアシッドテクノに於ける超重要なものとして位置付けられています。

DJ Misjah & DJ Tim / Access

Access (Original Mix) by DJ Misjah & DJ Tim on Beatport

オランダのDJ MisjahとDJ Timのペアによって作られた曲。
それまでのテクノには無かった肉厚なビートの上でアシッドサウンドがこれでもかとばかりに鳴り響く攻めっ気たっぷりの仕上がり。
自身のみならず、これがリリースされたDJ MisjahのアシッドテクノレーベルX-TRAXの代表曲としても有名な程、一大ヒットとなりました。

後年、Thomas SchumacherSecret Cinemaといったテクノ界の大御所たちによるリミックスEPが出たり、比較的最近と言える2015年にも次世代のトランスアーティストJohn Askewによるリミックスがリリースされたりと未だに強い影響力を持っている紛れもなくアシッドテクノアンセム。

詳しいアシッドハウス~テクノに至るまでの時代については既に相当数のまとめ記事が存在するので以下に紹介するに留めます。

アシッド・ハウス – Wikipedia

100曲で振り返るアシッドハウスの歴史(1/5) | Mixmag Japan

アシッドハウス、レイヴの歴史が一目でわかる秀逸な回路基板風の相関図 – letter music

アシッドハウス、レイブ全盛期を振り返るドキュメンタリーとは? | block.fm

さてやっと本題、ハードアシッドについてです。
それに触れるに際し、原点にして頂点とも言えるイギリスのレーベルがあります。
それがAaron LiberatorChris Liberator、そしてJulian Liberatorの3人によって1993年に設立されたStay Up Foreverです。
3名とも先のヨーロッパ・レイヴ、特にアシッドサウンドに触発されたことで出会ったもの同士とあって、レーベル初期の作品は別段ハードでこそないものの、アシッドテクノを産出し続けていると云う点に於いては一貫しています。
そう、設立から四半世紀を経た2019年現在もなんと活動継続中のレーベルなのです。

彼らが明確にハード路線に傾倒するようになったのは1995年のこと。
テクノの誕生以降、あらゆるスタイルの楽曲が生まれるようになった中でChris Liberatorはアシッドテクノの本質は太いアナログサウンドに基づくリズムにあると提唱しました。
より下品でアグレッシヴなサウンドを追求するそのスタンスはアシッドテクノの中でもアンダーグラウンドな層に届き、じわじわと、しかし着実に根を広げていったのでした。

※参考:Chris Liberator | higher-frequency

そのハード路線転向直後の作品がこちらになります。

Dom / Acid War (Liberator’s 303 Attack Mix)

Acid War (Liberator’s 303 Attack Mix) by Dom on Beatport

1995年の作品。
リミキサーであるLiberator(Liberator DJs)とはAaron Liberator、Chris Liberator、Julian Liberatorの合同名義です。
上で紹介したHardfloorのAcperience 1が全長9分に及ぶと強調しましたが、こちらはそれを凌ぐ10分に届きそうな尺。
そしてその尺をBPM150と云う速さ且つほぼ全編に渡って攻撃的なアシッドサウンドが支配すると云う、それまでのテクノの常識を覆すようなトラックを提示しました。
これ以降、Stay Up Foreverからのリリース及びLiberator DJsの3人の手掛ける音はこういったハードアシッドの色合いが強くなっていきます。

当時のハードアシッドのクラシックと云えばこちらの曲も有名です。

Lochi / London Acid City

London Acid City (Original Mix) by Lochi on Beatport

Chris Liberatorと同じくアシッドテクノの古参プロデューサーであるPounding GroovesのユニットLochiによる1996年の作品。
こちらもイントロからアウトロまでみっちりアシッドサウンドが詰まっており、それがパラメーターを変化させながら展開していく内容です。
ある種の宣言とも取れるタイトルと相まって非常にインパクトの強い曲で、リリースから10年経った2006年にはセルフリミックスがリリースされたりもしました。
こちらは残念ながら配信されていない模様。ちなみにワタクシはこのヴァイナルを持っております。

また、後年には後続のハードアシッドプロデューサーであるJamie Taylor a.k.a. Tik Tokがこの曲にインスパイアされたと思わしき曲をリリースしております。

Tik Tok / Lincoln Acid City

Lincoln Acid City (Original Mix) by Tik Tok on Beatport

これもまたかなりアグレッシヴなハードアシッド。
現代のクリアでカッチリした音でもって作りこまれているので、使い勝手の良いトラックです。
過去に行ったJamie Taylor aka Tik Tok特集はコチラ

当時を代表するアーティストはLiberator DJsの他にもおりまして、同じくイギリス、ロンドンを拠点とするGeezer a.k.a. Guy McAfferもその筆頭格。
元バンドマンと云う異色の経歴の持ち主でありながら1996年よりアシッドテクノのトラックメイカーとして活動を開始。
その処女作がProzacと云う曲で、数多くのコンピレーションやDJMIXにも収録された言わば彼の代表曲でもあるものですが、1998年に発表したセルフリミックスがハード路線の紹介としてはピッタリの出来栄え。

Geezer / Prozac (Rejected Mix)

Geezer – Prozac (Rejected Mix) – YouTube

まさしくChris Liberatorが提唱したファットなリズムとディストーションのきいた下品なリフと云うアシッドテクノの本質に近付いた作品。
これもまた9分超え。
そうです、ハードアシッドの1種の特徴とも言える要素として曲が長いと云う点があります。
リフそのものは短いスケールの反復がコアとなっているのですが、そこにパラメーターの変化を細かく加えることでより反復感を強調しているためと云うのが要因です。
ものによっては再生しながらリアルタイムでパラメーター操作したものを1発録音した曲もあったりします。
そういうところは確かにバンドのキャリアが光る点ではあるのかもしれませんね。

ちなみにこのGeezer、Jah Scoopと云う名義でレゲエダブの制作も行っていると云うマルチプレイヤー。
更には最近、このレゲエとハードアシッドを組み合わせた新しいサウンドを提唱しております。

Benji303 / Play With Fire (Jah Scoop Remix)

Play With Fire (Jah Scoop Remix) by Benji303 on Beatport

レゲエ特有の裏打ちのギターが思った以上にハードアシッドと相性が良くて驚きます。
最近ダブをちょいちょい聴くようになったこともあり、個人的にこのスタイルにはかなり注目を寄せております。
原曲を手掛けたBenji303は2010年代に現れたハードアシッド新星注目株のような存在で、いろいろな形でGeezerともコラボレーションを行っている師弟のような関係。
こちらも以前特集を行いました。

もう1人、ハードアシッドの立役者としてここに付け加えるとするとやはりD.A.V.E. The Drummerは外せません。
Liberator DJs同様、1990年代初頭から活動を継続しているイギリスのアーティストで、こちらも活動初期はアシッドテクノに傾倒する姿勢をとっていました。
根底にあったのはレイヴの煌びやかさに依存しないダークな音作りであったようですが、結果としてハードアシッドとは相性が良かったようです。

D.A.V.E. The Drummer / Freedom Fighter

DAVE The Drummer – Freedom Fighter (Smitten) – YouTube

1997年の作品。
この曲ではアシッドサウンドを本来の使い方に近い、ベースとして用いており、ウワモノとなるリフはかなりシンプルなものに留まっています。
その分リズムの推進力が全面的に発揮されている、これまで紹介したものとは少し毛色の異なるタイプのハードアシッド。
リフがシンプルな分、前回紹介したハードミニマルとは相性が良いです。
D.A.V.E. The Drummerも以前特集を組んでおります。

ここまでハードアシッドが確立するに際し重要な存在として挙げられるアーティストを3組紹介してきましたが、彼らはそれぞれ別個でレーベル運営も行っておりました。
Aaron LiberatorはWahWah、Chris LiberatorはCluster Records、Julian Liberatorは4×4 Recordings、GeezerはRipe Analogue Waveforms (RAW)、D.A.V.E. The DrummerはHydraulixを設立しており、どれもハードアシッドが世界に放たれる拠点として機能していたわけなのですが、後年、これらを含む20以上のレーベルをStay Up Foreverが吸収、それぞれのレーベルを傘下に持つ巨大なアシッドテクノコネクションを形成するようになります。
現在Stay Up Foreverのサイトでこれらのレーベルの作品が参照できるのはこのためです。
ここまでアーティスト、プロデューサーの繋がりが強いシーンと云うのもなかなか珍しいのではないかと思う一件です。

2000年以降も彼らに影響を受けたアーティストが多く出現しました。
例を挙げるとアシッドテクノの本場イギリスからはMobile Dogwashはオススメです。

Mobile Dogwash / Psycho-Delic

Psycho-Delic (Original Mix) by Mobile Dogwash on Beatport

2007年の作品。
オールドスクールテイスト抜群のディストーションアシッドもの。
これ以外にもド直球なハードアシッドを多く手掛けております。
後年の作品でもWith a Parsnipは何回か使ったことがあるくらいには好み。

またイギリス以外にもこのスタイルのアシッドテクノは伝搬しております。
こちらも以前特集を行ったGanez The Terribleはフランスのクリエイター。

Ganez The Terrible / The House Of Jericho (Remix 1)

GTT 01 – Ganez The Terrible – The House Of Jericho (Remix 1) 2003 – YouTube

2003年作。ご存じの方もいらっしゃるでしょうが、元ネタです。
上で取り上げたD.A.V.E. The Drummerのダーク寄りなスタイルを踏襲しているタイプのハードアシッド。
この時代にしては珍しくブレイクビーツ混じりのブレイクなんかも取り入れており、ブートレグで片付けてしまうには惜しい逸品。

また、テクノ以外からの要素を合致させたトラックの作り手とも言えるのがSterling Mossです。 (特集回)

Sterling Moss, DVS / Techno Punks

Techno Punks (Original Mix) by Sterling Moss, DVS on Beatport

2017年作。
過去の曲は割合ハードミニマルとも言える暗くて硬い曲が多いのですが、ここ数年で目に見えてアシッドサウンドを前面に強調したトラックが増えてきたので、あえて最近の曲を紹介します。
前のめりなグルーヴとバウンス感のあるファンキーなアシッドサウンドのリフが良いバランスで共存する個人的にドツボな楽曲。

最後に、現行のハードアシッドの掘り方について。
上記で紹介した曲の試聴リンクが埋め込まれているように、beatportjunodownloadと云った大手配信サイトでも楽曲の購入自体は可能です。
しかし、固有のジャンル分けがされているわけではなく、これらのサイトから探そうとするとテクノやハードテクノと云ったカテゴリーの中から根気よく探すしかないと云うのが悲しい現状です。

こちらからヒントを提示するとしたら、幾つかのレーベルがハードアシッド楽曲を纏めたコンピレーションをリリースしております。
比較的最近のオススメを挙げるとこの辺りです。

Hypnohouse Acid Techno Collection, Pt. 4 from Hypnohouse Trax on Beatport

Special Acid Techno Compilation, Vol. 4 from AK Recordings on Beatport

両者ともシリーズ化されているのでこれらの収録アーティストを辿ってみると云うのが1つの現実的な案ではないでしょうか。
コンピレーション自体も入門編としては大分贅沢なラインナップとなっております。

レーベル伝いと云う手も大いに可能だと思います。
上記コンピレーションのリリース元であるHypnohouse Traxは一般的なアシッドテクノも含めた様々なスタイルのものがあります。
ハードアシッドにこだわるならば上で少し触れたJamie Taylor a.k.a. Tik Tokが運営するMP303ですとか、Benji303率いる303 Alliance辺りはとても良い感じです。
その他にもFlatlife Records DigitalBraingravyなどそれなりにレーベルも数多く存在しているので、是非これらを参考に探してみてください。

そして何と言っても忘れてはいけないのがこのハードアシッドを含むアシッドテクノ専門のオンラインショッピングサイトがあると云うことです。
それがこちら。

909London

自身もDJとして活動しているThermoBeeによって運営されている楽曲配信、情報サイト。
バックカタログとして掲載しているものを試聴すると分かりますが、隅から隅までアシッドサウンドです。
お値段は大手配信サイトに比べると割高ではあるものの、大手配信サイトに対して先行で販売される作品があったり、更にはここにしか流通していないトラックがあります。
例えば上で紹介したGeezer a.k.a. Guy McAfferのレゲエ×ハードアシッドプロジェクトであるJah Scoopの活動レーベルSonic Iration Digitalは現状、909Londonを通す方法以外に購入手段がありません。

これらの理由により、大手配信サイトからは得られないアシッドテクノの情報源としてはかなり強力なものになります。
是非ご留意のほど。

以上、ハードアシッド編をお送り致しました。
この音楽の特徴についてまとめると、アシッドサウンド+速い+反復 (+長い)がキーポイントになっていると思います。
あと上記で触れることができませんでしたが、大抵の曲にロングブレイクがあると云うのも1つ大きなポイントです。
前回紹介したハードミニマルとは異なり、あまり複数の曲を長時間重ねるような構造にはなっておらず、アシッドリフが細かく変化しているのを楽しむ、と云うのが魅力のスタイルです。

今回も相当長くなってしまいました。(本当は新規アーティストの紹介とかもしたかった。)
タイトに纏められるか不安だった前回の予感が大当たりしてしまいました。

と云うわけで次回の『特別連載:ハードテクノとは何か?』につきましては07月25日に公開。
小テーマはマシンミュージックに対する生音の逆襲、ハードトライバル編となります。

そして次週07月16日は774Muzikさんが担当します。
今回はこれにて。

特別連載:ハードテクノとは何か? – 目次

第1回:黎明期編
第2回:ハードミニマル編
第3回:ハードアシッド編 (今回)
第4回:ハードトライバル編
第5回:ハードハウス編
第6回:シュランツ編
第7回:ハードグルーヴ編
第8回:インダストリアル編
第9回:テックダンス編

番外
第1回:メロディアス・ハードテクノ編
第2回:ハードダンス編
第3回:ディスコ編

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