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特別連載:ハードテクノとは何か? – 第8回:インダストリアル編


特別連載:ハードテクノとは何か?
第8回:インダストリアル編
特別連載:ハードテクノとは何か? – 目次

第1回:黎明期編
第2回:ハードミニマル編
第3回:ハードアシッド編
第4回:ハードトライバル編
第5回:ハードハウス編
第6回:シュランツ編
第7回:ハードグルーヴ編
第8回:インダストリアル編 (今回)
第9回:テックダンス編

番外
第1回:メロディアス・ハードテクノ編
第2回:ハードダンス編
第3回:ディスコ編

こんばんは。TAK666です。
レジデントが代わる代わるオススメハードテクノを紹介するこのコーナー、
2週間ぶりにワタクシが担当致します。

近況報告。

ボスにラーメン奢ってもらいました。
んまかったです。M3レビュー頑張ります。
近況報告終わり。

さて、ワタクシの担当回では直近7回に渡り、特別連載と題しましてハードテクノが内包する音楽のスタイルについて解説していくハードテクノとは何か?をお送りしております。
前回の番外編を挟み、今回で9回目となります。
本連載に於いてはハードテクノのサブジャンルについて

上のような図を用いて表した上でハードテクノの特徴を

・メインストリームテクノよりは速いテンポ
・4分打ちのハイハットによる疾走感のあるグルーヴ
・キックの強度やベースの厚み

としました。

今回はこの中のインダストリアルと云う音楽について紹介していきたいと思います。

まず、現代でもインダストリアル〇〇と名付けられた様々なジャンル名を見ることができるように、この名前が適用されるのはテクノに留まりません。
と云うかそもそも最初はクラシックの分類に対して用いられた概念です。
この辺りあまり詳しくないのでWikipediaからの引用になってしまうのですが、ロシアの作曲家Dmitri Shostakovichが1927年に手掛けたSymphony No. 2 (交響曲第2番 ロ長調 作品14「十月革命に捧ぐ」)が産業をモチーフにした内容であったことからインダストリアルと云うカテゴリーで呼ばれるようになったと云うところが発端となっているようです。
但し、これはあくまでテーマやメッセージとしてのインダストリアルであり、近代音楽に於けるそれとは少々意味合いが異なってくるので、ここでは音楽に対してインダストリアルと云う名称が用いられたのはこれが最初であると云う以上の言及は避けます。

近代に於けるインダストリアルと云う概念はロックが作り上げたものと考えられています。
火付け役の1つとして挙げられるのは1980年から2019年現在まで活動を続けているドイツの実験音楽バンドEinsturzende Neubauten (読み方はアインシュテュルツェンデ・ノイバウテン。)のサウンド。

Einsturzende Neubauten / Yu-gung (Futter mein ego)

Yu-gung (Futter mein ego) – YouTube

1985年リリース。
一聴して分かるメタルパーカッションをはじめとする強烈な反復リズムと呪術的なボーカルが不穏な曲。
この当時、こう云った機械的なリズムは一般的なものではなかったのですが、この時代に於けるインダストリアルと云う言葉の裏には(工業的に)大量生産された音楽に対する皮肉と云う意味が込められていたため、あえて大衆受けしない要素こそがインダストリアルの肝とされていました。
工業的音楽に対する皮肉を謳った音楽がリズムマシンと云う工業によって齎された機材を使用しており、挙句ジャンル名に『工業』の名前を冠していると云う皮肉のミルフィーユみたいな感が否めませんが、ともかく電子音楽との相性は良かったわけです。
このスタイルは多くのバンドに引き継がれ、MinistryNine Inch NailsRamsteinなどが1980年代後半に活躍したアーティストとして挙げられます。

一方で上記のようなバンドサウンドではなく、電子音楽に特化した活動を行っていたアーティストも存在しました。
こちらに於いても中核を成す要素は変わらず、反復する機械的な質感のリズムと怪しげな雰囲気のボーカルを特徴としています。
代表的な例としてはやはりこれが挙げられるでしょう。

Nitzer Ebb / Let Your Body Learn

Nitzer Ebb – Let Your Body Learn – YouTube

WIRE06での来日経験もあるイギリスのアーティストNitzer Ebbによる1986年の作品。
去年に入り、8年振りの活動再開となったのは大きなニュースとして取り上げられておりました。
やはり強烈なマシンビートと吠えるようなボーカルが特徴的で、黎明期のテクノの代表曲としても挙げられることの多い曲です。

もう1つ同年代の曲で好きなものをピックアップ。

Yello / Oh Yeah

Yello – Oh Yeah (Official Video) – YouTube

スイスの2人組ユニットYelloによる1985年の作品。
アーティストでありながら億万長者の実業家やギャンブラーとしての側面も持ち合わせている異色のユニットでもあり、手掛けている曲の種類も非常に多岐に渡っている大ベテラン。
その中に於いてこの曲はやはりマシンビートを中心に据えながらそれに勝るとも劣らないくらいシンプルなボーカルが最大の肝と言えます。
何てったって『オォーゥイエェー』と『太陽が綺麗』と『月がもっと綺麗』しか歌詞がありませんから。
でもそれが癖になってしまう不思議な曲。

ちなみにこの曲は1987年の映画摩天楼はバラ色にの劇中で目立って取り上げられ、映画の大ヒットと共に米国チャートの1位にランクインした記録も持っています。
この不思議さにハマった人は世界中にいたと云う話ですね。

これら電子音楽寄りのインダストリアルは総じてEBM (エレクトロニック・ボディ・ミュージック)と呼ばれていた時代もありました。
やがて後継の音楽に吸収されたため今となってはあまり使われない名前ですが、テクノの歴史に於いてはこういった出来事があったと云うことでここに載せておきます。

さて、ここで本連載の第2回:ハードミニマル編に立ち返ってみますと、記事の中でハードミニマル誕生の経緯にRegisSurgeonと云ったアーティストが含まれていることを記しました。
実は彼らはハードミニマルの先駆者であると同時に、インダストリアルの中に於けるテクノと云う道も示したアーティストでもあります。
やはり当時はテクノと云う音楽がそのまま大衆向け音楽に対するアンチテーゼの側面を持っていただけに、スタンスや使用機材を同じくするインダストリアルとは相性が良かったのでしょう。
テクノリスナーからすれば大ベテランとされる両者ですが、旧来のインダストリアルミュージックのファンにもよく知られた名前だったりもするわけです。

先の記事に於いてRegisはSpeak To Meを、SurgeonはArgonをそれぞれ紹介しましたが、同じ作品の中に現代のインダストリアルに通じる楽曲が既に含まれております。

Regis / Point Of Entry

Point Of Entry (Original Mix) by Regis on Beatport

Surgeon / Poise (2014 Remaster)

Poise (2014 Remaster) by Surgeon on Beatport

どちらも1995年頃の作品。
前出のハードミニマル編で触れたトラックが前のめりなグルーヴを演出していたのに対し、これらはキックに重心を置いたヘヴィーなリズムで、何より音の質感的にノイズに近い歪み方をしていることがお分かり頂ける筈です。
この歪んでいると云う要素がテクノ出現(≒大衆化)以降のインダストリアルに於いて重要なパーツとしてピックアップされることになり、インダストリアルテクノとしてジャンルを形成していくようになりました。

この凶暴でアグレッシヴな手法は出音の厚さを是とするハードテクノに落とし込みやすかったのでしょう。
2000年代以降は多くのアーティストがこの手法を駆使してリリースを繰り広げておりました。

Sandy Warez / Brain Injected

Brain Injected (Original Mix) by Sandy Warez on Beatport

インダストリアルテクノに於いて一時代を牽引したベルギーのアーティストSandy Warezによる2004年のリリース。
上記で紹介したものより更に歪まされた音によって構成されており、メインリフは殆どノイズと言っても良いくらい。
彼は後にシュランツやハードコアと云った音楽も手掛けるようになるのですが、楽曲制作に於けるスタンスはこの頃から変わっていないと思わせるくらい、強烈なものが多いです。

Kay D. Smith / Kick Asses

Kick Asses (Original Mix) by Kay D. Smith on Beatport

2005年リリース。
手掛けたのはドイツのクリエイターKay D. Smith
これまた個人的に好きなアーティストです。
音割れしてるんじゃないかと思わせるベースラインですが、他のパーツは割と像がハッキリ聴こえることもあり、インダストリアルテクノに於いては入門編と言えるのではないでしょうか。
ハードミニマルとしても違和感無く使えます。

Rude Awakening / What Have I Left Undone?

What Have I Left Undone? (Original Mix) by Rude Awakening on Beatport

2005年リリース。
ハードコアのシーンに於いては大ベテランであるオランダのDJ Promoのインダストリアルテクノ向け変名義、Rude Awakeningによって出されたもの。
これこそインダストリアルと言いたくなるくらいのインパクトを持つ重厚で破壊力のあるサウンド。
テンポの速さも相まってアグレッシヴさがより強調されております。
本連載の第6回で紹介したシュランツなんかとも相性が良いタイプのトラック。

ところで先程ハードコアと云う単語が頻出しておりますが、このインダストリアルと云う名称を自分が初めて聞いたのはこのハードコアに関連するものでした。
電子音楽に於けるハードコアとはざっくばらんに言うとテンポの速さを最大の特徴とする音楽の総称ですが、(詳しくはWikipedia参照)冒頭で述べたインダストリアル〇〇の中にはインダストリアルハードコアと呼ばれるジャンルも存在します。
これがどのような音楽なのかと云うことについてはここまで読んで頂けた察しの良い方ならもうお分かりだと思いますが、つまり、こういうことです。

Ophidian, The Outside Agency / The Shadows

The Shadows (Original Mix) by Ophidian, The Outside Agency on Beatport

2012年リリース。
The Outside Agencyは1990年代よりドラムンベースとハードコアの2足の草鞋で活動するベテランユニットで、後にその2つを交配させたクロスブリードと云うジャンルを提唱することになるアーティスト。 (この話は本当に長くなるので割愛します。)
片やOphidianもそろそろ活動歴20年になろうかと云うキャリアの持ち主で、活動初期から実験的なインダストリアルサウンドを手掛けていた人。
この2組の共作と云う時点でタダゴトでは済むまいと云うのが有識者の見解でしたが、蓋を開けてみれば案の定と云うか。
どこを取っても攻撃一辺倒な硬く歪んだリズムが打ち鳴らされており、それが数種類のビートを組み合わせた複雑なシーケンスであることなど、常軌を逸した感のあるトラック。
ハードコアの持ち味であるテンポの速さも取り入れてはいるものの、それ以上にテクニカルな面が際立ってます。

もう1つダメ押し的にコチラ。

TRSE Creatures Allied / Disposal of outer power (Eardrums on blood mix)

Disposal of outer power (Eardrums on blood mix) by TRSE Creatures Allied on Beatport

2006年リリース。
ハードコアに於いて1990年代から現在に至るまでシーンを支え続けているレーベルの1つにイタリアのTraxtorm Recordsと云うものがあるのですが、そこのボスであるThe Stunned Guysを筆頭に同レーベル所属のArt of FightersTommyknockerDJ Mad Dogの連名プロジェクトによってリリースされたトラック。
(これ、本当に4組共ハードコアシーンに於ける超重要人物です。)
彼らは前出のThe Outside AgencyやOphidianとは異なり、普段は煌びやかで派手だったり馬鹿っぽい曲を作るアーティスト同士と云う印象がありましたが、本作に於いてはひたすら重機で殴られ続けられるかのような強烈なリズムを擁しています。
これがリリースされた2006年当時に於いてこの曲だけ異様な音圧を誇っていたのが今でも印象に残っています。

ここで紹介するのは上2曲で留めますが、もしこれらインダストリアルハードコアについて掘り下げたいと云う方がいらっしゃいましたら以下の記事が指針として役に立つでしょう。

Industrial Hardcoreについて | HARDGATE BLOG

東京で行われているハードコアの総本山的パーティーHARDGATEによる紹介記事。
開催の度に毎度豪華な海外ゲストを招聘しており、直近で来月11月23日にも開催が予定されております。
そして今回のゲストが上で名前を出したArt of Fightersだったりするので、ご都合の付く方は是非足を運んでみてください。

さて話をインダストリアルテクノに戻しまして、ここ日本ではどうだったかと云う話ですが、実はアンダーグラウンドで作品をリリースしていた方がちらほらおりました。
2017年のAphex TwinのDJセットにて自身の曲が使われ、秋葉原重工のコンピレーションにも楽曲を提供しているKazuya Kawakami a.k.a. Asagaoaudioもその1人。

Asagaoaudio / Ring And Portrait

Ring And Portrait (Original Mix) by Asagaoaudio on Beatport

2009年にリリースされた初期作品。
これまで紹介した楽曲に比べ、深く沈むようなボトムとメタルパーカッションが特徴的です。
時折差し込まれるスモーキーなFXも相まって工場で作られる、まさしくインダストリアルな雰囲気を醸し出しています。

また、同時期に存在していた国産ハードテクノレーベル、AsianDynasty Recordsに所属していたJunichi Watanabeが2010年にリリースしたアルバム、コンビナートデ鳴ラスベキ音楽はその名の通り工場をコンセプトに作られたもので、全編通してインダストリアルテクノと云う稀有な1枚です。

Junichi Watanabe / コンビナートデ鳴ラスベキ音楽

コンビナートデ鳴ラスベキ音楽 / Junichi Watanabe – YouTube

ブレイクビーツ系統のものからダウンテンポまで幅広いスタイルの曲が収録されていて今でも聴きたくなる逸品。
フィジカルでもそこそこ出回っている他、iTunesでも購入が可能のようですので是非。
個人的オススメは10曲目、重油流動接触分解装置 (SQUEEZE PROPAGANDA 2009 Remaster)。

最後に、最近のインダストリアルテクノについて。

これまでのインダストリアルテクノはその手法の特性上、ハードミニマルやシュランツ、ひいてはハードコアなどアグレッシヴなサブジャンルとの親和性が大きく取り上げられてきた印象のあるものでした。
そのため、ディープでミニマル傾向の強くなった2010年前後以降のメインストリーム系のテクノとは完全に別物として扱われていた、と云うのが凡そ一般的な見解ではないかと考えられます。
ところが近年のテクノの一部で巻き起こっているリズムの硬質化やリフの排除と云ったアンダーグラウンド志向によってインダストリアルが再認識されると云う逆説的な現象が発生しております。
以下ではその現代インダストリアルテクノを牽引している代表的なレーベルと、オススメトラックについて紹介します。

Sirio Gry J / Unknown 1.3 (Blasted Remix)

Unknown 1.3 (Blasted Remix) by Sirio Gry J on Beatport

白黒ジャケットでお馴染み、ドイツのMonolith Records
総じて無機質な曲調のトラックが殆どであり、非4つ打ちやダウンビート、果てはアンビエントまで幅広く取り揃えたレーベルです。
この曲は旧来のインダストリアルで用いられた歪み感はそのままに、金物の強弱やキックパターンの変化などによって進行するいぶし銀なトラック。

I Hate Models / The Night Is Our Kingdom

The Night Is Our Kingdom (Original Mix) by I Hate Models on Beatport

今年08月にはレーベルボスのPercが来日したことも記憶に新しいPerc Trax
軸足としてはテクノであるものの、ノイズに届くほど強烈に歪んだチューニングが施された曲もちらほら。
加えて若干ではあるものの、メインストリームテクノよりテンポが速いため、黎明期のハードテクノを彷彿とさせる曲が多い印象です。
上の曲は今年07月に来日を果たしたフランスの若き新星I Hate Modelsによる今年リリースされたファーストアルバムL’Age Des Metamorphosesに収録されたもの。
この曲に限らず、1990年代のハードテクノを再解釈したかのような新しくも趣のあるトラックが収録されており、ちょっとした事件です。

Hans Delbruck / Mind Control

Mind Control (Original Mix) by Hans Delbruck on Beatport

ウクライナのレーベルOxytech Records
Monolith Recordsとは対照的にカラフルなジャケットが多いですが、内容はインダストリアルでダークなトラックが多いです。
また、1週間に2本はEPを出していると云う驚異的なリリースペースを誇っているレーベルでもあります。
本来別の曲を取り上げるつもりでしたが、本日発売となったこの曲がハードミニマルの再来を彷彿とさせるもので即行でカートにダンクシュートしてしまったので、同じ人が増えると良いなと云う願いを込めてご紹介とします。
重厚なビート、前のめりなハイハット、歪んだベースライン、不穏なシンセ、堪らん。

〆にデトックス的なニューストピックをひとつ。
2016年に始まったプロジェクトで、町工場とテクノミュージックをコンセプトにしたINDUSTRIAL JPと云うものがあります。
国内で活動するアーティストが、実際に工場で稼働している機械から発せられる音をサンプリングして作った楽曲を、その機械が稼働している映像と共にリリースすると云う機械萌えの方々には垂涎ものの内容。

小松ばね工業 × DJ TASAKA / KOMATSU BANE

小松ばね工業 × DJ TASAKA「KOMATSU BANE」 – YouTube

参加アーティストもDJ TASAKACherryboy FunctionDJ NOBUなど腕利きのトラックメイカーが勢揃い。
勿論曲単体の購入もこちらから可能となっております。
今年08月のリリースが最新と今尚続いているプロジェクトですので以後お見知りおきを。

以上、インダストリアル編をお送り致しました。
この音楽の特徴についてまとめると、反復+歪んだ音です。
基礎としてはハードミニマルを踏襲しているのですが、シュランツ同様、単曲の時点で音圧が凄まじいのでやはり長時間重ねるMIXは一般的ではありません。

また、メロディーはおろかリフすらない曲が一定の割合で存在するため、無準備でこのジャンルに着手するとどうしても単調な流れになりがちです。
それを補填できる点として、如何に強烈な手法を従えたトラックを見つけ出すことができるか、そしてそれを適切なタイミングでプレイすることができるかと云う臨機応変さが求められるので、かなり玄人向けの音楽であることは疑うべくもないでしょう。

ただ、本ジャンルが誕生した経緯に遡るとこの定義は後々変わってくる可能性があることが窺えます。
つまり、数年後には今と全く違う形でインダストリアルと呼ばれる音楽が誕生していても決しておかしくないのです。
変ミュージックスキーにとっては常に『何か起こるんじゃないか?』と思わせてくれるポテンシャルを秘めているのがこの音楽と言えます。
それ以外の方々は『そういえばあんな音楽あったな。』と思い返したときにまた聴いてみるくらいが丁度良いのかもしれませんね。

と云うわけでボスにラーメンを奢ってもらった以上、次回は10月27日に行われるM3でリリースされた作品のレビューになろうかと思われます。
従いまして次回の『特別連載:ハードテクノとは何か?』につきましては11月14日に公開。
小テーマはまだ未定。
次回お知らせできれば良いなと思っております。

次週10月22日は774Muzikさんが担当します。
今回はこれにて。

特別連載:ハードテクノとは何か? – 目次

第1回:黎明期編
第2回:ハードミニマル編
第3回:ハードアシッド編
第4回:ハードトライバル編
第5回:ハードハウス編
第6回:シュランツ編
第7回:ハードグルーヴ編
第8回:インダストリアル編 (今回)
第9回:テックダンス編

番外
第1回:メロディアス・ハードテクノ編
第2回:ハードダンス編
第3回:ディスコ編

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特別連載:ハードテクノとは何か? – 番外第1回:メロディアスハードテクノ編


特別連載:ハードテクノとは何か?
番外第1回:メロディアスハードテクノ編
特別連載:ハードテクノとは何か? – 目次

第1回:黎明期編
第2回:ハードミニマル編
第3回:ハードアシッド編
第4回:ハードトライバル編
第5回:ハードハウス編
第6回:シュランツ編
第7回:ハードグルーヴ編
第8回:インダストリアル編
第9回:テックダンス編

番外
第1回:メロディアス・ハードテクノ編 (今回)
第2回:ハードダンス編
第3回:ディスコ編

こんばんは。TAK666です。
レジデントが代わる代わるオススメハードテクノを紹介するこのコーナー、
2週間ぶりにワタクシが担当致します。

近況報告。


近況報告終わり。

先週のさんごさんのエントリーで書かれていた通り、次回パーティー開催に向けて粛々と準備を進めております。
また決まり次第、こちらでご報告をすることになろうかと思いますので引き続きご愛好の程、よろしくお願い致します。

さて、ワタクシの担当回では直近7回に渡り、特別連載と題しましてハードテクノが内包する音楽のスタイルについて解説していくハードテクノとは何か?をお送りしてきました。
一応予定では前回パーティー直前までと云うことで一区切りついたところではあるのですが、個人的にまだ取り上げたいカテゴリーがいくつか残っておりますので、このまま延長戦にいきたいと思います。
こういった切り口でハードテクノを紹介できる機会もそんなにないと思いますし、継続できるうちは継続していきます。
勿論、早くボスにラーメンを奢ってもらいたいと云う意味も籠ってます。
(ていうか、スケジュール的にまたM3直後の連載担当になるじゃないですかワタクシ。早いとこお願いしますよホント。)
と云うわけでこちらの方も引き続きお付き合い頂けますと幸いです。

まずはこれまでの復習。
初回ではハードテクノのサブジャンルについて

上のような図を用いて表した上でハードテクノの特徴を

・メインストリームテクノよりは速いテンポ
・4分打ちのハイハットによる疾走感のあるグルーヴ
・キックの強度やベースの厚み

としました。

今回は番外編と称しまして、この中には載っていないメロディーのあるハードテクノについて紹介していきたいと思います。

これまでの特別連載をご覧頂いていた方はお分かり頂けますように、ハードテクノと云う音楽は基本的に反復する音の集合によって構築されています。
従ってリフと云う概念こそあれど、メロディーの要素はハードテクノに於いてあまり一般的ではありません。
ちなみにこれは2019年現在のメインストリームテクノに対しても同様のことが言えますし、逆にメロディーに依存しないことこそ、テクノが他のダンスミュージックと異なっている大きな特徴であるとも言えます。

しかし、一般的ではないと云うだけで中にはちらほらメロディアスなスタイルを持つトラックもありました。
特に2000年~2007年頃にかけて様々なアーティストによって多くリリースされていたように感じます。
但し、これらのトラックの共通点はメロディーを構成しているシンセが強調されて使われていることのみであり、シンセ単体やリズムの質感については完全に別物。
また、こういったハードテクノを専業とするアーティストの存在も特にいないため、サブジャンルとして確立するまでには至っていない印象があります。

なので、今回の副題であるメロディアスハードテクノもまたジャンル名ではありません。
ワタクシが便宜上勝手にそう呼んでいるだけのものです。
何卒ご容赦の程。

ちなみに、ダンスミュージックとしてのテクノを基調としながらメロディーが用いられている曲と云うのは80年代からありました。
当時を代表するものとしてはやはりこれ。

808 State / Pacific State

808 State – Pacific State – YouTube

1989年リリース。
メランコリックな管楽器のフレーズが最大の特徴で、808 Stateの代表作としても名高い名作。

彼らはイギリスのアーティストですが、アメリカでは同時期にデトロイトテクノと云う、やはりメロディー主体のジャンルが生まれていたこともあり、テクノが成長していく過程に於いて脈々と受け継がれていた、と云う事実はあったように思います。
それがハードテクノの顕在化後にも自然に流用されるようになったと考えられるので、今回のテーマに於ける発祥はどこ、と云うことについては言及を避けてひたすら自分の好きな曲を挙げていく感じで進めます。

Mijk van Dijk / Burnout

Burnout (Original Mix) by Mijk van Dijk on Beatport

2000年リリース。
ジャーマンテクノの大ベテランにして日本大好きなMijk van DijkがPlayStation 2用レースゲームリッジレーサーVのために書き下ろした曲。
同ゲームのサウンドトラックにも収録されている他、GameTrax EP, Vol. 1と云うEPサイズでのリリースもされており、後者は各配信サイトから購入が可能です。
スペーシーなシンセと16分刻みのベースラインがまさしくドライブ感満載の逸品。
厳密にはハードテクノではないのですが、テンポや音の厚みはハードテクノのそれと非常に近く、DJに於いても違和感なく使えるトラックです。

ちなみにこの後2002年に出たアルバムEverygroundにもこの手のトラックがぎっしり入っていて大変オススメです。
ストリングスを盛大にフィーチャーしたDiscoqueenには何度もお世話になりました。

Technasia / Evergreen IV

Technasia – Evergreen IV – YouTube

2001年リリース。
Technasiaは現在、フランス出身のCharles Sieglingのソロプロジェクトとなっておりますが、これを手掛けた当時は香港出身のAmil Khanとユニット体制で活動しておりました。
でもって当時の彼らの持ち味と云えばこういった浮遊感のあるシンセを前面に据えた曲と云う印象が強かったです。
中でもこの曲は主張の強いリズムに加え、それとは対照的な綺麗系パッドと男性ボーカルが乗ったかなり異色作。

ちなみにこのEvergreenは複数種類のバージョンが制作されており、Evergreen Iではもう少しメインストリームに近いものが聴けます。

Tomaz, Filterheadz / Sunshine

Sunshine (Original Mix) by Tomaz, Filterheadz on Beatport

2002年リリース。
ハードトライバル編でも触れたFilterheadzTomazによるプログレッシヴ・ミーツ・トライバルテクノと云った塩梅のトラック。
アーバンなメロディーに対してアグレッシヴなリズムはこれまたあまり類を見ないスタイルとして印象付けられ、数多くのコンピレーションやMIXに収録されました。
同年のテクノリリースに於いてはかなり上位のセールスを記録していたように感じます。

Filterheadzはこのリリースの後、プログレッシヴ系統の作風が強くなっていくため、ハードテクノを手掛けた(現状)最後の作品に当たります。

Mauro Picotto, Riccardo Ferri / New Time New Place

New Time New Place (Original Mix) by Mauro Picotto, Riccardo Ferri on Beatport

2003年リリース。
Mauro PicottoRiccardo Ferriと云う共にイタリア出身の2人による共作で、これ以外にも当時は頻繁にコラボレーションを行っていた名コンビ。
そして両名ともテクノとトランスを跨ぐ形で活動を行っていたため、双方のシーンから厚く支持を得ていたアーティスト同士でもあります。
そんな2人の作品の中でも特に強烈だなと思うのがこれです。
序盤から過度にパラメーター変化が行われるギラついたベースシンセに加え、中盤の大ブレイク以降から差し込まれるシンプル且つインパクトのあるシンセはそもそも大ブレイクを含む展開と合わせてテクノに於いてかなり異質な要素。
一方でリズムはハードテクノの手法に則った構成になっているため、ジャンルの定義が非常に難しい曲。

これに関しては未だにある種の最先端だと思っております。
最先端過ぎて誰もついていけなかった部類ではないでしょうか。

Joris Voorn / Incident

Incident (Original Mix) by Joris Voorn on Beatport

2004年リリース。
オランダ出身のJoris Voornによって作られた00年代テクノに於いて誰もが認めるスマッシュヒットアンセム。
パーカッシヴなリズムにノスタルジックなリフ、ロングブレイク以降はM1ピアノがこれでもかと言わんばかりに鳴り響く、感情に訴えてくる要素がてんこ盛り。
この曲についてはとある事情により以前単曲での特集を組んでおりますので、詳しくはそちらをご覧ください。

ちなみに、今嫌な予感がして今年もまたこの曲のネタモノが生まれていたりしていないか探してみたところ、秒で見つけてしまいました。

Joris Voorn – Incident (Skymate Ambivertal remix) – YouTube

しかもこれ、TiestoのPodcastで流れたらしいです。

CLUBLIFE by Tiesto Podcast Episode 605 Two Hours – YouTube

調べたら本当に1:48:25辺り、最後から2番目に大変聞き覚えのあるフレーズが。
いつまで続くんでしょうこの波・・・もう15年前の曲ですよ・・・?

Kobbe, Trish Van Eynde / Exploration

Exploration (Original Mix) by Kobbe, Trish Van Eynde on Beatport

2006年リリース。
アメリカ出身のKobbeとベルギー出身のTrish Van Eyndeによる共作。
上記のBurnout同様、スペーシーなシンセと硬いリズムが絡み合うハードテクノ。
メインリフのパートが2回あり、それぞれメインで使われているシンセが異なる点もさながら、イントロが3分30秒程と長い上にその間ブレイクビーツが鳴り続けると云う点がかなりテクニカルな印象です。

Kobbeはあまり知られたアーティストではないものの、この手のメロディアスなテクノに関してはかなり信頼の置ける作品が多くあります。
残念ながら配信が行われていないものの、Carl Coxの名門レーベル、Intec Recordsから出たHyperionなんかはYudukiさんとワタクシの大好物だったりします。

Cristian Varela / Metropolis

Metropolis (Original Mix) by Cristian Varela on Beatport

2006年リリース。
ハードグルーヴ編に於いてチラッと名前を出した同ジャンルの基礎を担っていたと思われる大御所アーティストの1人Cristian Varelaによるレトロ感のあるシンセがドラマティックに進行するトランスっぽくもあるテクノ。
レトロと云うワードに関して実はこの曲には元ネタがあり、1983年に出たAnne Clark / Sleeper In Metropolisと云うシンセポップがそれです。
いくらなんでもチョイスが渋過ぎる。

Cristian VarelaのMIX CD、Intecnique .02に於いてラストを飾ったトラックでもあり、どんなDJをしても〆にこれを持ってくれば立ちどころに綺麗に終われると云うあざとさ満点の曲ですね。

Rennie Foster / HotLZ-13

HotLZ-13 (Original Mix) by Rennie Foster on Beatport

2007年リリース。
カナダ出身のRennie Fosterはデビュー時よりヒトクセあるテクノを作るのを得意とするアーティストで、この曲にもそれが遺憾なく発揮されております。
力強いビートや速いテンポにハードテクノとの親和性を見出せるものの、なんとこの曲は非4つ打ち。
なのに浮遊感のあるシンセが不思議とマッチしていると云うこれまたレアなスタイルのトラック。
これも〆にバッチリ向いている気がします。

さて、ここまで海外産のトラックを紹介してきましたが、実はこの手のメロディアストラックは日本人クリエイターによるものが比較的多かったりします。
どのジャンルに於いても昔から『日本人はメロディーが好き。』なんて揶揄されてきていますけれど、それがテクノにも当て嵌まっていると云うことになります。
ここからはそんな国産トラックを紹介していきます。

Wall Five / Gypsy Woman (Meu Str Mix)

Gypsy Woman (Pop String Mix) by Wall Five on Beatport

2005年リリース。
上記リンクだとA面とB面のタイトルが逆転しており、ミックスタイトルがPop String Mixとなっておりますが、Meu Str Mixが正しいです。
これに関してはヴァイナル持っているので間違いない筈です。

ジャパニーズテクノを代表するアーティストCo-Fusionの片割れ、Heigo Taniによるド直球ハードテクノ。
タイトルから察せられるように、元ネタは勿論コレ。
単純なオルガンサウンドから入っていき、ストリングスの絡むブレイクまでグイグイ引っ張られる感じが堪らないブートレグ。

ryoh mitomi / haru-kaze

ryoh mitomi / haru-kaze – YouTube

2005年リリース。
現在はFourtwosixxと名義を変えて活動しているRyoh Mitomiによる作品。
なんとこの曲がデビュー作であり、リリース元は上で挙げたTechnasiaがレーベルオーナーを務めていたMinimaximaと云うレーベルです。
内容は成程Technasiaに見出された通りと云うべきか、フィルターとディレイを噛ませたオルガンライクなシンセの連打がインパクト大。

どうでも良い話ですが、タイトル関連で春先にHardonizeが行われるとレジデントの間で奪い合いが発生しがちな曲です。
そして1番良い反応するのがVJ、KNOCKHEADZのSTCnさんと云う。

Q’hey, Shin / Melissa

Melissa (Original Mix) by Q’hey, Shin on Beatport

2006年リリース。
REBOOTを始め、黎明期から日本のハードテクノシーンを牽引している存在であり、今尚block.fmでのradio REBOOTで毎週パーソナリティーを務めている大御所DJであるQ’heyと、日本と上海の両方を拠点として活動していたShin Nishimuraによる共作。
元はと云えばQ’heyが色々な国内アーティストとコラボレーションした楽曲を一挙にコンパイルしたElectric Eye On Meと云うアルバムに書き下ろされたトラックでしたが、この曲は後にシングルカットされ、それが現在配信されています。
この当時の国内テクノ総決算と言っても過言ではない内容なので、見かけたら是非アルバムで入手して欲しいところです。

で、当時Shin Nishimuraの作るテクノと云うのはかなりメロディアス色が強かったんです。
自身の行っていたパーティーの名前を冠したPlus Tokyoなんかも正に好例で、そこにQ’heyの持ち味とする重厚なハードテクノのエッセンスが加わった結果、1+1を2で割らないタイプの仕上がりになったと言うべきでしょう。
同時代の海外トラックと比べても決して引けを取らない太いリズムは今聴いても痺れます。

Kei Kohara / Bloom After Broken Life (Midsummer Mix)

Bloom After Broken Life (Midsummer Mix) by Kei Kohara on Beatport

2007年リリース。
00年代を代表するハードテクノレーベルAsianDynasty RecordsからリリースされたKei KoharaのアルバムHeavenly Sunshine収録曲。
どちらかと云うとラテン系ハウスを得意とする氏ですが、この曲に関しては疾走感と重厚感のあるリズムを従えたテクノ寄りのチューニング。
ピアノとホーンの音がとにかく派手でファンキー。
ハードグルーヴとも異なる独特の曲調はまさしく日本ならではと云う感じがします。

Yousuke Kaga / Setsuna

Yousuke Kaga / Setsuna – YouTube

2008年リリース。
最後にご紹介するのはHardonizeが行われている茶箱とも長年の縁があるアーティスト、Yousuke Kagaさんの作品。
木琴のような単音シンセによるメランコリックなメロディーをメインに置きつつ、それをバウンシーなベースが支えるテクノ。
上記試聴は配信されているBPM128の完成版ですが、Yousuke Kagaさんは当時ハードテクノとブレイクスと云う2足の草鞋で活動しており、この時に貰ったプロモーションCDにはこの曲のBPM140のバージョンが収録されていました。
だもんで僕の中ではテンポを上げてハードテクノとして使う曲と云う印象が強いです。

この曲については以前10年前の日本のハードテクノと云う特集を行った時にも触れました。
お気に入りだもんで。
元はアルバムに収録されていた曲ですが現在配信中止のため、他に収録されたHIROSHI WATANABE氏のMIXから購入が可能です。
recochoku – Developing Vol.3 HIROSHI WATANABE SELECTION

以上、メロディアスハードテクノ編をお送り致しました。
この音楽の特徴についてまとめると、各種ハードテクノ+シンセサイザーによるメロディーです。
何せジャンルとして確立されているわけではないので、ざっくばらんな説明となってしまいますね。
ブレイクが存在するという点も合わせて特徴と言えるかもしれません。

やはりメロディーがあると云うだけで相当なインパクト要素となるため、セットリストの肝と言える部分での使用が主となる印象です。
ピークタイムだったり、〆だったり、或いはトランスやハウスと云った橋渡しとして機能します。
あとは単曲で聴かせる際、テクノ初心者にお勧めしやすいと云った辺りも利点として挙げられるのではないかと思います。

とはいえ、現行のテクノとはやはり少々趣が異なっているので、この時代ならではのスタイルと言えなくもないのが悔しい点でしょうか。
リバイバルが盛んに行われている最近ですので、こういったところにもそれが波及してくると面白くなるんじゃないかなと勝手に思っております。

と云うわけで次回の『特別連載:ハードテクノとは何か?』につきましては10月17日に公開。
小テーマは完全無機質な実験音楽、インダストリアル編をお送りします。

次週10月08日は774Muzikさんが担当します。
今回はこれにて。

特別連載:ハードテクノとは何か? – 目次

第1回:黎明期編
第2回:ハードミニマル編
第3回:ハードアシッド編
第4回:ハードトライバル編
第5回:ハードハウス編
第6回:シュランツ編
第7回:ハードグルーヴ編
第8回:インダストリアル編
第9回:テックダンス編

番外
第1回:メロディアス・ハードテクノ編 (今回)
第2回:ハードダンス編
第3回:ディスコ編

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