今週のオススメハードテクノ – Resident’s Recommend 2017/11/16

こんばんは。TAK666です。
レジデントが代わる代わるオススメハードテクノを紹介するこのコーナー、
2週間ぶりにワタクシが担当致します。

前回Yudukiボスのエントリーでまたご指名頂きました。
出身はサイケデリックトランスのTAK666です。

ハードグルーヴと親和性の高そうなサイケデリックトランスを紹介するよ!【今週のオススメハードテクノ – Resident’s Recommend 2017/11/14】
11/26開催のPandora Boxというイベントのためにテックダンスをピックしようと思ったものの、2ヶ月近くハードダンスのジャンルをノー...
モロにサイケデリックトランス紹介されてて結構面食らいました。
特にMystical Complexの名前をHardonizeで目にするとは。僕も大好きです。

2012年頃のサイケデリックトランスのトピックとして、ようやくEDMと接近を図ったと云う点が挙げられます。
フレーズを取り入れたり、ネタモノが出回るようになったり、まぁどこのジャンルでも起こっていたようなことに見えましたが、あろうことかほぼ全ての音がEDMのそれでサイケデリックトランスを作り始めた一派が出てきました。
Mystical Complexはその代表格ですね。
リミキサーのSokratesもそうですし、BlastoyzなんかはSoundcloudでバンバンブートレグ出してました。
汎用性の高いEDMの音でありながらグルーヴ感とか展開、細かいエフェクトの作り込みは従来のサイケデリックトランスを踏襲しているため、面白い聴こえ方をするトラックが多いです。
カテゴリーとしてはハイテック・サイトランスとか、ハイテック・フルオンと呼ぶ説がありましたが、あんまり定着はしていない様子。
蛇足ですが、サイケデリックトランスのカテゴリーって細分化し出すとちょっと面倒なことになるくらいあったりします。
詳しくはこことか参考にしてみてください。
http://psytranceguide.com/ サイケデリックトランスとサイトランスが別物説とかあるんですね・・・。

ちなみに日本だとlapix氏と云うアーティストがこの手の音楽を得意としています。
https://soundcloud.com/lapixmusic こちらもご参考までに。

なぜか冒頭からサイケ話になってしまいました。
とはいえ、ちょっと今回は(今回も?)ハードテクノ話でもなく、先日行われたHardonize#27にご出演頂いたゲスト両名がプレイしていた音楽に焦点を当てます。
あ、ご来場頂いた方々ありがとうございました。
無事・・・いや、音的には大惨事だったかもしれませんが、大枠無事に開催できました。

と言うのも今回ゲストの2人、Die氏とBee.Bee.氏、前者はともかく後者のプレイ中に『こういう音楽なんて言うの?』と云う質問が寄せられました。
確かに広く知れ渡っているとも言えず、偶然耳にする機会もほぼない音楽ではあります。
と云うかHardonizeが軸足を置いているハードテクノだって一般的とは程遠いわけですし。
ただ、こんな風に周辺音楽もひっくるめて興味を持ってもらえると我々としては願ったり叶ったりであります。
そういうところにスポットを当てて運営していきたい。

なので上述の通り、今回は前回のおさらいです。
現場にお越し頂いた方々はあの空気を思い起こしながら、ご都合の合わなかった方は『こういう音楽もかかるんだ。』くらいの面持ちでご覧頂けると嬉しいです。

まずゲスト先鋒、Bee.Bee.氏のプレイバック。
彼がプレイしたのは『UKハードハウス』と云う音楽で、その名の通りイギリスで発展したハードダンスの1種です。
ハウスと名前に冠しておりますが、ハード◎◎と付く音楽の中で最も原型を留めていないと言って良い程、一般的なハウスミュージックとは別物。
どうも初期はあのハウスで、進化の過程でこうなったらしいですが・・・ちょっと歴史的な沿革については分かりません。
BPM幅は140~155に多く、音の特徴としてはトランスがロングスケールのメロディーを主軸に置いているのに対し、短いリフをフーバーやアシッドと云った攻撃的な音で鳴らすと云う点や、キックに重点を置かず、短い間隔で刻まれたハイハットや完全裏打ちのベースで前のめりなグルーヴを擁していると云った点が挙げられます。
ブレイクビーツやベースミュージックとは違った『ワルい』音が鳴っているジャンルです。

UKハードハウスの原型となる音は90年代後期には既に存在していたようです。
当時の有名曲と言われてパッと思いつくのはこれですね。

Cortina / Music Is Moving (Bk & Dbm Amber Mix)

シンプルな構成ながらレイヴの残り香のようなオルガンシンセが耳に残ります。声ネタも聴き覚えがあると云った方もいるかもしれません。
後年にもジャンルを超えて様々なリミックスが出たクラシックアンセム。
こういうバウンシーなベースもUKハードハウスの特徴の1つと言って良い気がします。
事実、このベースをもっと際立たせてアホっぽくした音楽がスカウスハウスと云うカテゴリーで、今も現存しております。

先の曲が90年代のリリースであり、所謂オールドスクールに分類されるわけですが、サイケデリックトランス同様にダブステップ、EDM出現後に大きく音の転換がありました。
特にトランスと比べ、シンプルなリフ回しを持ち味としていたこともあってブレイク明けで急激にテンションダウンさせるような曲が結構出回ってました。
分かりやすい例としてはこの辺。

Andy Whitby, Karlston Khaos / Fire

ブレイクで綺麗目シンセとボーカルで煽っておいてガクッと肩の力が抜ける展開。
今はもうすっかり定着していた手法ですが、ド派手なシンセを武器にブレイク明けで一気に盛り上げることを主眼に置くハードダンスに於いてこう云った曲は一際異彩を放ってました。
むしろ当時玉石混合と化していたベースミュージックの流れでこういったトラックが2、3曲放り込まれているなんてMIXも出ていた程です。

一方、それらとは別のベクトルでひたすらフーバーやアシッドなどのシンセ使いに魂を削っていた界隈も存在してて、より攻撃的な音を前面に打ち出した活動を展開していました。
HardonizeでBee.Bee.氏がプレイしていたのはこっちです。
以下の曲も実際に当日かけていたもの。

Grady G / James Brown Is Still Alive

タイトル通りのネタモノです。あのオーケストラシンセもUKハードハウスによくマッチしてますね。
こうなるとベースの打ち方もどちらかと云うとサイケデリックトランスに似てくるわけなのですが、疾走感は紛れもなくUKハードハウス。
前出の雰囲気とは違えど、アシッドテクノもイギリス育ちであることを考えるとこういった進化を遂げるのもある種の必然と捉えることもできるのではないでしょうか。
しかしホントにガラが悪い。

ちなみに日本だとquad氏と云う方がアシッド寄りのUKハードハウスを多く手掛けております。
ゲーム音楽や同人音楽のフィールドで古くから活動されている方なのでご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
http://luvtrax.com/ https://soundcloud.com/luvtrax

続いてDie氏のプレイしていた音楽について。
いやはや、凄まじかった。改めて言うまでもありませんが、オランダ産の高速ダンスミュージック、ガバでございます。
何度か告知でも触れておりましたが、Die氏はHardonize開催前までテクノ紀行と称してオランダを凱旋しており、現地で買い付けたレコードをメインに持ってきたと云うことでこうなりました。
ハードコアに関してはそこそこ聴いてきている自負はあるものの初めて耳にする曲もあったり、しかもそれを茶箱のレイオーディオ環境で耳にすることもあり、大変貴重な機会だったと感じております。
さておき、改めてガバの特徴として挙げられるのはBPM150~200以上と云う速いテンポ、とにかく派手なシンセ、そして何と言っても過度に歪んだガバキックと呼ばれるキックなどでしょう。
世間に認知され始めたのが90年代初頭であることを考えると、キック1音をジャンルの特徴とする音楽ってかなり珍しかったのではないかと思います。

当日のDie氏がスポットを当てていたのはその中でもハッピーガバと呼ばれる文字通り、底抜けに明るい(≒アホっぽい)メロディーを取り入れたガバでした。
具体的にアホっぽさを言葉で説明するのが難しいため、代表曲を挙げます。

Technohead / I Wanna be a Hippy (Radio Mix)

これです。これですとしか説明できません。PVも合わせて何度再生したか分かりません。
単調なシンセ、等間隔で並んだ軽いキック、ピッチの高い声ネタなど全てがアホっぽく聴こえる原因を作っています。
ちなみにこのハンマーはMokum Recordsと云うこの時代を代表するガバのレーベルのロゴマークです。
Die氏も1曲目にこのマークのヴァイナルをターンテーブルにセットしててSangoさんと『ヤバい、ヤバい。』みたいな言い合いをしてました。
I Wanna be a Hippy (Radio Mix) by Technohead on Beatport

もうちょっと時代が進むとよりクラブミュージックとして機能するように構成された曲が出てくるようになります。
90年代中期に出たこちらはワタクシ特に大好物でして、未だにハードコアのパーティーに出ると使いたくなります。

Trickster / Emphasis On Hardcore

多少格好良く聴こえる筈です・・・多少・・・。ここで使われているキックがガバキックと呼ばれる音ですね。
ガバとは別に当時の高速ダンスミュージックとしてハッピーハードコアと云う音楽がありますが、この2つの音楽は近いようでいて出音に差があるので上手いこと繋ぐために機能する曲が実は限られていたりします。
そういう合間を縫ってくれるこういったナイストラックを多く輩出していたのがRuffneck Recordsと云うレーベルでして、これもまた当日Die氏が針を落としてました。

こういったガバも現在はすっかり形が変わり、洗練されてちゃんと格好良い音になり、大規模なフェスもオランダに限らず世界中で行われています。
従って上で挙げたような旧来のガバは2000年代初頭からすっかりリリースされなくなったわけなのですが、つい3年前に大きな出来事がありました。

DJ Paul Elstak and Mental Theo featuring Gin Dutch / Raving Beats

上のI Wanna be a Hippyが1995年リリース、こちらが2014年リリースです。何1つ変わってない音が20年後にもリリースされたとあって界隈騒然としました。
しかもリリース元がかつてAvicii、Nicky Romero、Steve Aokiなども所属し、現行のEDMシーンを代表するレーベルSpinnin’ Recordsであったこともビッグニュースでした。
尚、Paul Elstakは黎明期よりガバと云う音楽を引っ張ってきたシーンに於ける第1人者。
DJやプロデュースで有名になり過ぎたあまり、本国オランダではタレント、俳優、スポーツ選手としても迎え入れられているそうです。スケールが違い過ぎる。
Raving Beats – DJ Paul Elstak and Mental Theo featuring Gin Dutch – Spinnin Records – MP3/WAV Download at Trackitdown

日本でも同人音楽やゲーム音楽などで今でもたまに耳にする機会があります。
テクノと近いところだと何と言ってもリッジレーサーのBGMでしょう。
加えて、大阪のDJであるC-TYPE氏が監修している『日本のガバ年表』と云うウェブサイトにて日本におけるガバシーンの流れを一読できるようになっておりますのでこちらも是非。
日本のガバ年表

以上が今回のHardonizeでゲスト両名によって流された音楽の概要になります。
思いのほか長くなってしまった割に本当に上澄みだけ掬った形ですが、世の中には面白い音楽が溢れているなぁと思うばかりです。
進化を続ける音楽もあれば残念ながら後に続かない音楽もありますけれど、その両方に焦点を当てられるのもまた1つのDJの醍醐味ではないかなと考えております。
勿論、ハードテクノも明日にはどうなってるか分からない音楽ですので、注意深くウォッチしていかねばいけませんね。
まだまだお付き合いの程よろしくお願いします。
(最後くらいハードテクノの名前を出さないとレジデントに絞め殺されそうなので。)

次週11月21日は774Muzikさんが担当します。今回はこれにて。