特別連載:ハードテクノとは何か?
第2回:ハードミニマル編
第1回:黎明期編
第2回:ハードミニマル編 (今回)
第3回:ハードアシッド編
第4回:ハードトライバル編
第5回:ハードハウス編
第6回:シュランツ編
第7回:ハードグルーヴ編
第8回:インダストリアル編
第9回:テックダンス編
番外
第1回:メロディアス・ハードテクノ編
第2回:ハードダンス編
第3回:ディスコ編
こんばんは。TAK666です。
レジデントが代わる代わるオススメハードテクノを紹介するこのコーナー、
2週間ぶりにワタクシが担当致します。
と、その前に。
前回のボスの更新に於いて次回Hardonizeの日程が公開となりました。
09月07日、09月07日でございます。
ゲスト詳細は追って発表致しますので、是非今後とも当サイトをチェックして頂きますようお願い致します。
さて、前回より始まりました、ハードテクノが内包する音楽のスタイルについて解説していくこのコーナー。
今回もお付き合い頂けますと幸いです。
前置きもそこそこに前回の記事の中でハードテクノの特徴を
・メインストリームテクノよりは速いテンポ
・4分打ちのハイハットによる疾走感のあるグルーヴ
・キックの強度やベースの厚み
とした上でハードテクノの中のサブジャンルと周辺音楽をこのような図で表しました。
今回はこの中のハードミニマルと云う音楽について紹介していきたいと思います。
これまた前回からの引用になりますが、90年代半ばに生まれたリフが延々反復するタイプのテクノ(=DJツールとしてのテクノ)は当時革新的でした。
これらは最小限の展開で構成されるテクノ、ミニマルテクノとして今日に至るまで1つのジャンルを確立している音楽です。
1つ例としてミニマルテクノのクラシックを挙げます。
Richie Hawtin – 005 (High Quality) – YouTube
ミニマルテクノに於いて帝王と称されているRichie Hawtinによる1997年の作品。
上記の通りたまに短く音の抜き差しが行われるだけでほぼ展開が無く、リズムやリフのパラメータが微妙に変化しているものの、どこにシークバーを置いても同じような音が流れています。
このスタイルは後年、2000年代中期辺りに更に先鋭化の一途を辿り、凄まじい求心力を持つようになるのですが、それはまた語る機会があったらと云うことで。
話をハードテクノに戻しますと、この展開の少なさをハードテクノに流用した音楽と云うのがハードミニマルです。
リフにはスケールの短いシンセの音が用いられるのが一般的ですが、極稀に生音サンプリングやボーカルが使われることもあります。
ハードテクノとミニマルテクノは共に1990年代中期から発展した音楽であるため、ハードテクノ誕生以降の過程に於いて最も成長に貢献した音楽がこのハードミニマルであるとも言えます。
前回の黎明期編とリリースの時期は被りますが、ハードミニマルの夜明けとも言えるのがコチラの作品。
Speak To Me (Original Mix) by Regis on Beatport
発売は1995年。後にリマスターバージョンが出ており、上記リンクはそちらになります。
イギリスのレーベルDownwardsの発起人にしてプロデューサー、Regisの処女作。
全編通してアラームのようなリフが厚みのあるリズムに乗っており、この手の音楽の基礎が詰まっているように感じます。
このDownwardsと云うレーベルは後にハードミニマルの代表格とも言えるアーティストSurgeonのデビュー作をリリースしたレーベルでもあります。
Argon (2014 Remaster) by Surgeon on Beatport
こちらは1994年発。
まだシカゴハウスのバウンシーなテイストが残るものの、無機質なリフやリズムと云ったハードミニマルの基本を押さえてます。
こちらもリマスター盤が現在配信されております。
イギリス繋がりで更に例を挙げると、The Adventもまたハードミニマルの代表格と呼べる存在。
The Advent – Panther – YouTube
1998年のリリースなので、ハードテクノ誕生後と言って良い時期の作品になります。
疾走感のあるリズムにシンプルなリフの反復。
割と初期から速いテンポの曲を多く手掛けていたこともあり、アグレッシヴさをテクノで表現していた存在としては唯一無二感があるように思います。
アメリカ、中央ヨーロッパ以外のこの頃のテクノを牽引していた国としてはスウェーデンが挙げられます。
代表格と云えば現在に至るまでテクノシーンを牽引し続けているトップレーベル、Drumcodeの立ち上げ人であるAdam Beyer。
Compressed A1 (Original Mix) by Adam Beyer on Beatport
1996年に出たこの曲は最早リフと呼べる音も無くなり、硬いリズムが延々と反復するのみと云う最小限の構成となりました。
にも拘らず、ハードテクノのクラシックとしてこの曲を挙げる人も少なくないくらい強烈なインパクトを残した一品です。
そしてこの曲がリリースされたDrumcodeもまたテクノのシーンに於ける重要レーベルとして認知され、Joel Mull、Cari Lekebusch、Thomas Kromeと云った多くのスウェディッシュ・クリエイターたちを世界へ知らしめる足がかりとしても機能しました。
少し時代は飛びますが、Adam Beyerによる強烈なハードミニマルと云えば2000年に出たこれを挙げる方も少なくありません。
Ben Sims – Manipulated (Adam Beyer Remix) – YouTube
通称生団子 or 生パン粉。
原曲はトライバルパーカッションがメインのテクノと云う感じでしたが、パーカッションを残し、その他リズム隊に厚みを加えた挙句、原曲にはないラテンボーカルのサンプリングを使うと云う謎のセンスが炸裂している曲。
ちなみに元ネタはこちら。
ハードテクノの顕在化以降でここまで露骨に有機的パートのサンプリングを用いた例は少ないため、聴く人にとっては余計に印象に残る結果となったのでしょう。
余談ですが、Adam Beyerは最近公開されたDJMag.comのインタビューに於いてこれまでの自身のキャリアを振り返って語っております。
Adam Beyer: Techno’s uncompromising kingpin | DJMag.com
まだ全部は読めてないのですが、もうすぐデビューから25年を向かえるテクノ~ハードテクノの第一人者が自身の幼少期も含めた上で語っていると云うことで貴重な記事。
ちなみに、Adam Beyerのデビュー作はDrumcodeではなく、Planet Rhythm Recordsと云うスウェーデンのレーベルでした。
ここのオーナーを務めていたのがGlenn Wilsonと云う人で、彼は当時クリエイターではなかったものの、1998年から楽曲制作を開始。
こっちはこっちで相当ハードでストイックな楽曲を手掛けており、オススメです。
Serum (Original Mix) by Glenn Wilson on Beatport
やや歪んだリズムによって厚みを演出している感じの2002年作トラック。
最近になってbandcampアカウントで過去作の再発を行っているので、このタイミングで歴史を振り返るには良い例ではないかと。
一方テクノ発祥の地であるドイツからも多くのハードミニマル楽曲がリリースされました。
DJ、クラブオーナー、そしてレーベルオーナーを経てクリエイターとして活動を始めた万能人Chris Liebingもその1人。
Dandu Groove (Original) by Chris Liebing on Beatport
1997年にリリースされた初期の頃の作品。
圧の強いキックを始めとするリズム主体の構成です。
Chris Liebingは後年ハードミニマルから派生したある音楽に影響を与える存在となるのですが、それは追々解説していきます。
また、以前紹介したEric Sneoもジャーマン・ハードミニマルのパイオニアと言えるでしょう。
Snare Attack (Original Mix) by Eric Sneo on Beatport
2005年に出たアルバム、Slave to the Beatより。
このアルバム、本当は全曲オススメしたいくらい好きなのですが、中でもこの曲はやや後ろに重心を置いたリズムに薄くアラームのような音が乗っていたり、ちょっとこれまで紹介した曲とは毛色の違う要素が入ってます。
最後に最近のハードミニマルについて。
これまで述べたように発祥からかなり長く経過している音楽ではありますが、現在でもこのスタイルは受け継がれており、今でも多くのリリースを目にします。
当連載でも他の方々が紹介しているのをしばしば目にしますが、自分なりに2つ程紹介させてください。
They Find Us (Original Mix) by Rene Reiter on Beatport
ハードミニマル専門と云うわけではないのですが、これはこれで手掛けることも多いオーストラリアのクリエイターRene Reiterの今月リリースされた作品。
打ちつけるようなストンプ系リズムとスモーキーなサウンド。
最近のダークテクノのリズムがまさにこのような感じなので、現行のトレンドに沿っていると云う意味では持っておくと安心できそうです。
School Street (Original Mix) by Vices & Violence on Beatport
つい3日前に発売されたもの。
全くレーベル名もアーティスト名も知らない名前だったので調べたところ、発売元であるVector Functions Recordsはなんとメキシコ。
そしてこのVices & Violenceと云うアーティストもここ1~2年で現れた新人でした。
リズムの打ち方はオールドスクールを踏襲しつつも、かなり歪んだキックを使っている懐かしさと意外性を持つ曲。
これ以外の曲もこのようにダークでアグレッシヴな曲が多く、今後も期待がかかるクリエイターです。
以上、ハードミニマル編をお送り致しました。
この音楽の特徴についてまとめると、速い+硬い+反復がキーポイントになっていると思います。
サブジャンルと言えど歴史が長いため、少々取り上げるアーティストも曲も多くなってしまいました。
次回はもう少しスマートに纏められると良いですけど・・・予定しているものがこれはこれで歴史の長いものであるため、割合不安です。
懲りずにお付き合い頂けますと嬉しいです。
と云うわけで次回の『特別連載:ハードテクノとは何か?』につきましては07月11日に公開。
小テーマはアナーキー・イン・ザ・ハードテクノ、ハードアシッド編となります。
そして次週07月02日は774Muzikさんが担当します。
今回はこれにて。
第1回:黎明期編
第2回:ハードミニマル編 (今回)
第3回:ハードアシッド編
第4回:ハードトライバル編
第5回:ハードハウス編
第6回:シュランツ編
第7回:ハードグルーヴ編
第8回:インダストリアル編
第9回:テックダンス編