特別連載:ハードテクノとは何か?
第9回:テックダンス編
第1回:黎明期編
第2回:ハードミニマル編
第3回:ハードアシッド編
第4回:ハードトライバル編
第5回:ハードハウス編
第6回:シュランツ編
第7回:ハードグルーヴ編
第8回:インダストリアル編
第9回:テックダンス編 (今回)
番外
第1回:メロディアス・ハードテクノ編
第2回:ハードダンス編
第3回:ディスコ編
こんばんは。TAK666です。
レジデントが代わる代わるオススメハードテクノを紹介するこのコーナー、
2週間ぶりにワタクシが担当致します。
先日、次回Hardonizeのゲストが発表となりました。
西日本テクノシーンの女帝DJ RINNさんと、数々のパーティーに於いて数々のジャンルを渡り歩く若武者gekkoさんの2名をお招きして執り行います。
キャリアもバックグラウンドも異なる両名のプレイを是非体感してください。
令和2年02月22日(覚えやすい)、いつもの茶箱にて開催致します。
何卒。
さて、ワタクシの担当回では過去10回に渡り、特別連載と題しましてハードテクノが内包する音楽のスタイルについて解説していくハードテクノとは何か?をお送りしてきました。
初回ではハードテクノのサブジャンルについて
上のような図を用いて表した上でハードテクノの特徴を
・メインストリームテクノよりは速いテンポ
・4分打ちのハイハットによる疾走感のあるグルーヴ
・キックの強度やベースの厚み
としました。
今回は第9回と称しまして、この中のテックダンスと云う音楽について紹介していきたいと思います。
前回、番外編と銘打った上でハードダンスと云う音楽についてご紹介致しました。
その中でハードダンスとはトランスの流れを汲むハード系ダンスミュージックの総称と記しましたが、今回ご紹介するテックダンスと云う音楽もこの中に含まれるものになります。
にもかかわらず何故今回別立てで取り上げるのかといえば、それはこの音楽がハードテクノのエッセンスを取り入れたハードダンスとして確立しているためです。
詰まるところ、2019年現在に於いて最もハードテクノと相性の良いハードダンスがこのテックダンスと云う音楽だと言えるのがまず1点。
加えて、この音楽が確立した背景には日本が大きく関わっていると云うのも大きなトピックとして挙げられます。
広くクラブミュージックと云う括りで見てもこういった経緯を持つ音楽はなかなか見当たらないので、同じ日本人としてはかなり特殊なジャンルであると云う認識を持っています。
あとは当Hardonizeの楽曲紹介に於いても割合頻出する単語でもあり、実際にパーティーに於いてもかかる類の音でもあるため、この特別連載に於いても欠かせないであろうと判断しました。
ではその成り立ちについて順を追ってご説明していきます。
2000年代初頭~中期にかけて、ハードテクノはその中で多くのサブジャンルを確立させ、より洗練された楽曲を生み出していました。
中にはハードトライバル編で紹介したCave / Street Carnivalであったり、メロディアス・ハードテクノ編で紹介したJoris Voorn / Incidentのように、ハードテクノ以外のシーンでも大ヒットを記録したトラックもぼちぼち見受けられた時代です。
それらとほぼ時と同じくして、こういったトラックも出てくるようになりました。
Recreate (Original Mix) by Hertz on Beatport
スウェーデンテクノシーンの重鎮Hertzが2003年にリリースしたもの。
ハードグルーヴ編に於いて軽く触れましたが、お聴きの通りT99 / Anasthasiaネタであり、これもまたジャンルの垣根を越えてビッグヒットを記録しました。
この曲の特徴として、単音でインパクトのあるシンセ(この場合はAnasthasiaのリフ)をメインに据えた点が挙げられます。
これは特にハードテクノ出現以降のテクノに於いてあまり聴くことのない手法であり、どちらかと言えばトランス、ハードダンスに近い要素とも言えるため、かなり意表を突く音に受け取られたように思います。
『こういう音もテクノにはアリなんだ。』と云う、だからこそ超売れたと云うのもあるのでしょう。
これ自体はテックダンスではないのですが、後に定義付けられるテックダンスの予兆を感じさせるものとして好例だと思ったのでここに載せました。
一方、同時期のハードダンスシーンに於いても新しいスタイルとしてテクノの硬質なリズムを吸収する動きが見られました。
特に強烈にそれを推進していたのがご存知、日本が世界に誇るハードダンスレジェンド、Yoji Biomehanikaさんです。
Samurai (The Keyboad Cowboys) (2004 Original Mix) by Yoji Biomehanika on Beatport
2004年リリース。
ハードダンスの特徴とも言える筈の煌びやかなシンセをバッサリと切り捨て、硬いキックとベースが蹂躙する骨太なトラック。
当時あまりこういったスタイルのトラックはなかったように記憶しております。
余談ですが、後にこの曲とRemo-con / Narky Lightをセルフマッシュアップしたその名もSamulightと云う曲がリリースされております。
このように、ハードテクノとハードダンスの互いが互いに要素を取り入れ合っていたことに注目したYoji Biomehanikaさんをはじめとするクリエイターが、これらを一纏めにして新しい呼び名を付けようと2007年に提唱したのがテックダンスです。
その旗揚げとしてリリースされたのが、Six Hoursと云うEPと、GIGA Tech-Dance Extremeと云うMIX CDでした。
Six Hours (2007 Original Mix) by Yoji, Romeo on Beatport
キックの質感やハイハットの鳴らし方はハードテクノっぽい一方、ロングブレイクを絡めた展開やメインとなるピアノリフの派手さはハードダンスのそれ。
現代ほどクロスオーバーが盛んではなかった時期に双方の音楽に精通した人ならではの発想でもって現れたこのスタイルは、かなりインパクトがありました。
一方、MIX CDの方はテックダンスの拡大解釈を提示するかのような内容となっており、上記Six Hoursも収録されている一方でCJ BollandやOrtin Cam、Ignition Technicianと云ったハードテクノのアーティストのトラックも入っています。
Love Delux (Original Mix) by Ortin Cam on Beatport
Ignition Technician – Take It Back To The Old School – YouTube
勿論、第一線のハードダンスクリエイターの曲も織り交ぜたハイブリッドなMIXで、テックダンスの方向性が名付け親によってかなり早い段階で示唆されていたように思えます。
おまけ動画。
yoji_remo-conドミューンLive07 – YouTube
2011年にDOMMUNEにご出演された際の映像。
おそらくターンテーブルの上でくるくる回っているピザを手を汚さずに食べられるようにと用意されたのであろう割り箸でミキサーを操作するスーパースター。
今見ても謎過ぎて面白い。
もう1人、黎明期からテックダンスを支えた人物としてインターネットラジオ局block.fmでRemote Controlと云う番組のパーソナリティを務めているRemo-Conさんもその1人です。
Cold Front (Original Mix) by Remo-con on Beatport
これも2007年のリリース。
浮遊感のあるシンセがトランスのエッセンスそのものを体現していて気持ち良い一方、リズムのグルーヴはテクノっぽい。
何より衝撃的だったのはこれがリリースされたのがAnjunabeatsと云う、トランスの超名門レーベルだったことです。
ハード系はおろか変わり種すら少ない、ストイックにメインストリームのトランスを追求しているレーベルと云う印象が強かったところにこういった曲が入り、しかもそれが日本人によるもの、と云うのはなかなかの事件でした。
更にもう1人挙げるとすると、ハードダンス編でも触れたNishさんが思い浮かびます。
TOKYO (Nish Dubstek Remix) by DJ OZAWA on Beatport
ちょっと間が空いて2012年のリリースです。
と云うのも、テックダンスのプロデュースに関しては同じ時期に行っていたものの、ヴァイナルやCDと云ったフィジカルメディアでのリリースが大半だったため、現在オンラインで試聴できる手段のないものが多く、上記2曲と時代を揃えることができませんでした。
で、こちら、原曲にもあった三味線のパーツがとにかく変わりモノ。
しかもブレイク以外にリードシンセはなく、メインリフが三味線と云う本当に変な曲。
リズムは上記2曲にも通じる塩梅でありつつも、ところどころに差し込まれるダブステップ由来のワブルベースはこの時代に於いてはやはり変わりモノ。
インパクト勝負好きな方は是非。
その他に当時からテックダンスを手掛けていたアーティストとして、Night LiberatorさんやGEORGE-Sさん、そしてHardonizeにも度々ご出演頂いているni-21さんなんかが挙げられます。
尚、ここまで紹介しております方々は全員日本人です。
引き続き日本に焦点を当てて話をするならば、上記で名前を挙げた方々はいずれもトランスやハードダンスのシーンで長いキャリアを持つ、言わばベテランであったわけです。
が、突如聞き慣れない名前でもって目の前に現れた新しい音楽に影響を受けた当時若手のアーティストの存在もありました。
例えばMad Childさん。
Tourbillon (Madstiff Mix) by Mad Child on Beatport
2013年リリース。
この人も黎明期に当たる2007年からテックダンスを手掛けております。
強烈なアシッドシンセと硬いキック。
シンプルながらアグレッシヴな印象を持つトラック。
また、ハードコアとしてのキャリアが大きいものの、トランスやハードダンスも手掛けるDJ Norikenさんもその1人。
The Beach (Original Mix) by DJ Noriken on Beatport
2011年リリース。
これでもかと言わんばかりのピアノ連打やら線の細い哀愁系リードシンセやら、とにかくウワモノが派手厚い。
上で取り上げたNishさんの曲同様、ワブルベースもふんだんに使われているあたり、どれだけ当時猛威を振るっていたか分かります。
Norikenさんは一時期JP-H/Dと云うハードダンスのコンピレーションを手掛けていたこともあり、その中に於いても様々なテックダンスを聴くことが出来ます。
配信はなく、CDオンリーっぽいのですが、見かけたら是非手に取ってみてください。
加えて先に取り上げたYoji Biomehanikaさんに天才と言わしめたNhatoさんも活動当初はテックダンスにスポットを当てておりました。
Nhato vs Hedonist – Raise (Original Mix) – YouTube
2011年にリリースされたHedonistさんとの共作。
緻密に刻まれたシンセが厚いボトムと共に進行するアップリフティングなトラック。
浮遊感たっぷりのブレイク含む展開が本当に気持ち良い。
テンポ的にはテックダンスと比べるとやや遅い感もありますが、自分の観測範囲に於いては早回しした上でテックダンスとして使っていることの方が多い気がします。
何せ上に載せたYojiさんのDommune出演動画に於いて、最後にかかっているのがまさしくこれなので。
ここからやっと海外アーティストのトラックをご紹介。
若干時期は前後しますが、Yojiさんのレーベル、Hellhouse Digitalよりリリースされたのがこちら。
Fabio Stein – Techtris (Original Mix – HQ) – YouTube
2008年リリース。
南米トランスシーンを率いるFabio Steinによるタイトル通りのネタモノ。
元ネタのインパクトも当然ありますが、シンプルでレトロな音が重厚なリズムの上を走っていると云うのが単純に面白い曲。
余談ですが、元ネタを同じくするDoctor P / Tetrisと云うダブステップがあり、この両方を持ってると4つ打ち⇔非4つ打ちの橋渡しが2曲で完了すると云う卑怯な手を当時よく使ってました。
Viva La Revolution (Original Mix) by Vandall on Beatport
イギリスの2人組ユニットVandallによる2009年の作品。
一聴して分かるレイヴサンプリングもの。
リズムのシンプルさを補って余りあるインパクトがあります。
滅茶苦茶好きな曲。
Ferret (Original Mix) by Oyaebu on Beatport
こちらはロシアの2人組Oyaebuによる2011年の作品。
ドライブ感満載のリズムに太いベース系シンセが延々と鳴り響くグルーヴ重視系。
ブレイクでコロコロ音が変わる忙しさやリフに合わせたリズムの抜き差しなど、テクニカルな側面も見える逸品。
その他代表的な海外アーティストとしてはJoe-EやScott Attrill、Anne Savageなどがそうでしょうか。
いずれもテックダンス専門のアーティストではなく、包括的にハードダンスを手掛けている中にテックダンスも含まれている、と云う印象です。
最後に、最近のテックダンスについて。
リリースペースとしては以前よりは減少傾向にあるものの、水面下で継続しているアーティストはちらほら見受けられます。
例えば海外アーティストでありながら何度かM3特集で紹介している国産ハードダンスレーベルexbit traxのコンピレーションへの参加経験を持つHagane Shizuka。
#D3Nd1 (Original Mix) by Hagane Shizuka on Beatport
今年、2019年のリリース。
インダストリアル・ミーツ・ハードダンスと言わんばかりの強烈な重厚リズムにピアノ連打。
仕舞にはハードスタイルキックまで入ってくるハチャメチャっぷり。
間違いなく新しいタイプのテックダンスと言える筈です。
国内シーンに於いては世代交代が起こったかのような印象も受けます。
上で取り上げた2010年代初頭に若手と呼ばれていた方々が別のジャンルに移り、新しい若手が頭角を現しているのが現状でしょう。
これに当て嵌まるのが、前々回のHardonizeにご出演頂いたDon2Kのメンバーs-donさん。
2018年リリース。
これもちょっと度肝抜かれました。
キックやベースはサイケっぽくて、メインリフはハードスタイルっぽくて、アーメンブレイクまで入ってくる散らかりよう。
但し、後ろに重心を置いたハイハットだけはテックダンスのそれであり、『これは何?』と聞かれたらテックダンスと答えるしかない曲。
テックダンスの定義が揺らぎかねない危険な曲。
お願いなのでもっとやって欲しい。
あと、世代的にもDon2Kと近い存在としてYosshie 4onthefloorさんもここで挙げておきます。
2018年リリース。
これもブレイクのストレートなピアノリフに対して相当偏屈な展開を見せる曲。
ブレイクが明けると音数が減る、まぁこれはよくある手法としても、極端なリズムの崩れ方をするのが意味分からない。
そして何でこのような謎曲にFuture Starと云うキラキラした名前が付いているのかも分からない。
ただ試聴ではカットされている部分であるイントロとアウトロはテックダンスのフォーマットに則っているのです。
いやしかしそれだけでこの曲をテックダンスと呼んでいいものか非常に悩ましい。
頼むからもっとやって欲しい。
上記楽曲に見られるように、黎明期のテックダンスとは別のアイディアでもってハードテクノとハードダンスの交差点を見出しているようなものが近年ちらほら目に入ってきます。
忘備録的に以下に掲載致しますが、新しいハードダンスの形であることは間違いなく、また発展途上ユエに面白い楽曲も多いのでご興味のある方は参考にしてみてください。
Fridge Magnet (Original Mix) by Argy (UK) on Beatport
Dropkick (Original Mix) by Side E-Fect on Beatport
Addicted (Original Mix) by Rufio, Splinta on Beatport
以上、テックダンス編をお送り致しました。
この音楽の特徴についてまとめると、ハードテクノのリズム+ハードダンスのリフです。
シンセに関しては、メロディーと云うより1~2小節くらいの短いスケールでのループが多いように感じますが、絶対ではありません。
リズムもキックの音圧が強いものが主流ではあるものの、上のs-donさんの楽曲にあるようにどちらかと言えばハイハットのパターンの方がテックダンスに於いては重要なのかもしれません。
強みとしてはハードテクノにもハードダンスにも流用でき、且つそれらの橋渡しとしても機能しやすい点でしょう。
この点に於いては黎明期より一貫しているように思えます。
とは言え、やはりハードダンスのエッセンスの分だけ煌びやかでアグレッシヴな印象は強いので、ハードテクノに関してはサブジャンルを選ぶことになります。
逆にハードダンスの視点でこの音楽を見るならば、ハードダンスが抱える数あるサブジャンルの中でも割と特徴的なリズムを持った音楽だと思うので、グルーヴの種類で勝負したいと云う人にはうってつけかもしれません。
前述のリフのスケールの短さをセットの中で活かすと云う考え方もアリだと思いますので、趣向に合わせてテックダンスの可能性を探って頂きたいところではあります。
ハードテクノ、ハードダンスの中に於いては認知されてから比較的日の浅いジャンルでもあるため、今後の進化を引き続き見守っていきたい音楽です。
と云うわけで次回の『特別連載:ハードテクノとは何か?』につきましては12月12日に公開。
小テーマは番外編の3回目としてハードハウスやハードグルーヴと相性の良いディスコ編をお送りします。
予め申し上げますが、100パーセント趣味の記事になります。
ご容赦の程。
次週12月03日は774Muzikさんが担当します。
今回はこれにて。
第1回:黎明期編
第2回:ハードミニマル編
第3回:ハードアシッド編
第4回:ハードトライバル編
第5回:ハードハウス編
第6回:シュランツ編
第7回:ハードグルーヴ編
第8回:インダストリアル編
第9回:テックダンス編 (今回)