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今週のオススメハードテクノ – Resident’s Recommend 2018/08/23

こんばんは。TAK666です。
レジデントが代わる代わるオススメハードテクノを紹介するこのコーナー、
2週間ぶりにワタクシが担当致します。

直近のパーティー情報を追っていてビックリしたのですが、ASCが来日するんですね。
以前、グレイエリアと云う音楽を特集した際に度々名前を挙げていたアーティストで、当該スタイル、と云うかミニマルテクノ~ベースミュージックの最先端に君臨するアーティスト。
この手のアンダーグラウンドな音を第一人者の手によって聴ける機会もそうそうないと思われるため、期待が高まります。高まっております。
ASCのみならず、出演するDJもテクノとベースミュージック混ぜこぜになっているのも良いなぁと思ったりする、そんなパーティーですね。

折角なので今回はこのままASCにスポットを当てて紹介しましょう。
以下プロフィールドン。

ASC

ASC
https://theasc.blogspot.com/
https://www.facebook.com/ASC77
https://soundcloud.com/asc

アメリカ西海岸、デル・マー出身のアーティスト。
1997年よりトラック制作を開始し、その中の1つがドラムンベース界の大御所LTJ Bukemの目に留まったことで彼のレーベル、Looking Good Recordsのコンピレーションに収録されます。
これを足がかりにして数々のレーベルとコネクションを持ち、これまでに100を超えるEPと18のアルバムをリリースしてきました。
自身のレーベル、Covert Operations Recordingsを設立した2009年以降、ほぼ1年に2枚のペースでアルバムをリリースしているので、驚異的な制作スピードです。

出発点こそドラムンベースであるものの、2010年以降映画音楽プロデューサーであるJeff Ronaと協力体制を組んだことで映画やゲーム音楽などにも関わる様になりました。
例えばコチラ、2016年に出たNEAR DEATHと云うサバイバルアドベンチャーゲームなのですが、音楽をASCが全面監修しております。

サウンドトラックはBandcampSteamで発売中。

活動当初より持ち味としていた緻密で繊細な音使いはより洗練され、現在も活動拠点としている自身のレーベルAuxiliaryや、DJ Presha率いるSamurai Musicからのリリースへと引き継がれます。
特にDJ Preshaとの出会いは後のグレイエリアの確立に大きく寄与しました。

2011年になるとASCはこれまで培ってきたドラムンベース、エレクトロニカの技術を駆使してテクノに手を広げ始めます。
この頃はまだドラムンベース、ハーフステップ(ドラムンベースを半分のリズムで構築したスタイル)のリリースが多く、ミニマルドラムンベース界の雄、D-Bridgeが代表を務めるExit Recordsからリリースを敢行していたりするのですが、テクノに関するリリース元がLuke Slater率いるMote-Evolverや、現行のメインストリームシーンを牽引するPerc Traxなど、並々ならぬ大御所揃いであったことから、ASCはテクノに於いてもその存在感を知らしめることに成功します。

このようにドラムンベースとテクノ、両者に肩入れしていたASCにとって、その間を跨ぐような音楽に着手したのは必然と言って良いかもしれません。
自身のレーベル、Auxiliaryで行ってきたBPM170(or 85)を軸に現代音楽のようなアプローチの音を加えることで複雑なリズムを形成すると云った試みは、より明確にテクノとの統合について模索するようになります。
ASCとDJ Presha、そしてASCに近い活動を繰り広げてきたSam KDCと云うアーティストの3者間の連携により、2015年に『3拍子のBPM127.5と4拍子のBPM170のリズムを同期させ、どちらのテンポともとれるスタイル』に代表される音楽、グレイエリアと、それをリリースするGrey Areaと云うレーベルが誕生しました。

グレイエリア特集記事に於いては
> リリース名、トラックタイトル、アーティスト全て匿名と云うある種の哲学を感じさせる
と記しましたが、この背景には記述的なトラックタイトルやアーティスト名によって生じる偏見を与えず、本当の意味で音楽そのものによって価値観を問いかけると云った意図があったことが分かりました。

このように極めてストイックな活動を展開するに当たり、自分の時間は積極的に確保していることがResident Advisorのインタビューで語られていました。
そもそも彼が住んでいるデル・マー(サンディエゴ)に独特のクラブミュージック文化があるわけではありません。
にも関わらず在住を続けている意味について、何物にも邪魔されず、影響を受けずに自分のプロダクションに集中できるからであると書かれています。
また、近年の作品では他アーティストとのコラボレーションが殆ど無い点についても自分がイメージしたものを即座に形にしないと気が済まず、相手が作業しているその間連絡を待ち続けることにイラついてしまうからとも語っており、これは以前ワタクシがCurrent Valueにインタビューを行った時、
『1曲当たりどのくらいの時間をかけているのか?』
と云う質問に対して
『2~3時間。それを超えると最初に思い描いていたイメージがどんどん分散していってしまい、作りたかったものと違うものが出来上がってしまうから。』
と回答していたのを思い起こさせます。

表題に掲げられた『Out of sync』はグレイエリアの文脈から読み解けば『同期の外』と捉えられ、曲のテンポの話のように思えますが、彼の活動理念からは『(他人との)同調を止める』と云う解釈にもとることができます。
その真意は徹底した自分だけのオリジナルに対する追求でしょう。
まるで禅問答のような制作活動によって生み出されるトラックは妥協を許さず、冷たく深いリズムを従えながらしかしどこか感情的です。
今日も今日とて実験の手を緩めず、誰も聴いたことがない、自分ですら聴いたことがない音に迫る職人トラックメイカー、それがASCです。

そんなASCのオススメはこちら。

ASC / Auxiliary

キャリア初期とまではいかないものの、まだドラムンベース単一のアーティストだった頃の作品。
後に設立することになるレーベルと同じ名前を冠したリキッドハーフステップ。

ASC / The Glow

新しい音楽のスタイルとしてダブステップの波が来ていた2010年、ASCもドラムンベース以外に取り組む足がかりとしてこんなトラックを出していました。
穏やかなシンセの音に対してベースが深い4つ打ちもの。

ASC / Carrier

2011年以降、積極的に手掛けるようになったテクノのうちの1つがこちら。
前出の楽曲に通ずるエモーショナルなリフ回しはそのままに、他の現行のメインストリームテクノと比べて全く遜色ないクオリティを出しています。

テクノリスナーからしてみたら突如彗星のように現れたようなもので、アーティスト伝いに昔の曲を掘ってみたら全然違うジャンルの作り手だったと面食らったことでしょう。
今でも同一のアーティストとは思えない程、兎に角幅が広いです。

ASC / Collider

そして最近のスタイルの1つがこんな感じです。
凄まじい深度を誇るヒプノティックなサウンド。
4つ打ちなのかどうなのかも最早よく分からないのですが、これが何かと言われるとテクノとしか答えようのないタイプの音楽。

ASC / Solar Reaction

確たる定義がグレイエリアにあるわけではないので、これがグレイエリアですと言えるものはないのですが、4拍子にも3拍子にも取れる曲と云う中の1つがこちら。
この頃には映画音楽を通過しているとあって、流れるような美しいパッドにその妙が表れています。
こういう曲をキーにしてテクノとドラムンベースを繋ぐのは、やってて面白いですね。

ASC / Torn from the Seams

ドラムンベースもテクノも、そしてそれらの混合生成物も全て現在まで手掛けているのがASCの凄いところです。
最後に紹介するのはキャリア初期に通ずるところもあるドラムンベーストラック。
ふわーっとしたウワモノや細切れになって聴こえる補助リズムはエレクトロニカを彷彿とさせる一方、コアとなるリズムは極太なテクノのそれ。

テクノとドラムンベースだったり、綺麗さとエグさだったり、かけ離れたように見える要素を融合させてしまうASCの手法こそ、彼が異端の存在感を放っている所以でしょう。
冒頭で紹介した来日公演で音楽の深部をどのように聴かせてくれるのか、とても楽しみです。

次週08月28日は774Muzikさんが担当します。
今回はこれにて。

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今週のオススメハードテクノ – Resident’s Recommend 2018/08/09

こんばんは。TAK666です。
レジデントが代わる代わるオススメハードテクノを紹介するこのコーナー、
2週間ぶりにワタクシが担当致します。

前回担当ではレイヴとテクノの混合点としてAlan Fitzpatrickをご紹介しましたが、元来ワタクシはレイヴミュージックと云うものが大好きでして。
90年代のレイヴ発祥から既に20年以上経過しているにも関わらず、あの下品と言わずして何と表現できようかと云うシンセは今尚強烈なインパクトを誇っていると思えてなりません。
他にもアーメンブレイクやピッチの上がった声ネタ、アシッドシンセなんかもレイヴを体現する音の代表格と言えますが、1番の魅力はそれらを惜しげもなく用いた上で実験的なフレーズや展開を表現することを恐れなかった点だと思っています。
クラブミュージックを聴き始めたのは2000年に入ってからなので完全に後追いではあるのですが、つい先日もレイヴ、アーメンブレイクにスポットを当てたプレイを行ってきたところです。
Hardonizeでもこの手の音楽は度々使っている気がします。

レイヴミュージックにスポットを当てているのはワタクシの1人相撲ではなく、Redbullの音楽コラムに於けるテーマとして割と挙げられていたりします。
Happy Hardcore | Magazine | Red Bull Music Academy Japan
UKレイヴ&ハードコア最重要クラシック ベスト7
この2つはかなり参考になったので是非ご一読ください。

そんなワケで今回はそんな古きレイヴミュージックに最も近い音楽であろう、レイヴブレイクスを現在進行形で作り続けているこの人にスポットを当てます。

Paul Cronin

Paul Cronin
https://paulc9898.wixsite.com/paulcroninmusic
https://www.facebook.com/paul.josephcronin
https://soundcloud.com/paulc9898

1974年生まれのクリエイター。
出身はイギリス内陸部、リーズであり、現在もそこを拠点に音楽活動を行っております。
とはいえ、DJとしてステージに立つことはあまりなく、作曲とプロデュース業に専念している最近ではちょっと珍しいタイプでもあります。
その一方で現行のレイヴブレイクスシーンに於いては代表格と言って良い程欠かせない存在であり、様々なDJ MIX、ポッドキャストにPaul Croninの曲が使用されています。
(WILDPARTYさんのMIXにも使われていたりします。)

2010年にフリーEPのリリースを行うことでアーティストとしての活動を開始し、その後はDred CollectiveMusic RascalsSonic Fortressと云ったシーンを代表するレーベルからリリースを敢行。
2015年には自身のレーベルRaveskool Recordingsを設立し、新世代クリエイターのデビュー作を多く世に放っていることから、新人育成にも力を入れていることが窺えます。

そもそもレイヴブレイクスとはどのような音楽かと云えばこのようなものになります。

Paul Cronin / Bitch

大方想像通りかと思いますが、冒頭で書いた通りレイヴシンセを強烈にフィーチャーしたBPM140周辺のブレイクビートです。
Paul Croninのトラックはそれに加えて、アーメンブレイクを用いたこれまたインパクトのあるリズムが特徴と云う印象がありますが、アーメンブレイクはレイヴブレイクスの必須要素と云うわけではなく、作り手によってマチマチです。
グライム、アブストラクトの系譜からもっとベースに重点を置くタイプもあれば、EDMライクなカッチリしたドラムキットにダイナミックなベースの上でレイヴシンセが鳴っているようなものもあるので、この辺りもいずれ紹介できたら良いなと思っております。

念のため申し上げておきますと、90年代のオールドスクールレイヴとの間に確たる違いがあるわけではありません。
強いて挙げるとすれば、出音が現代のダンスミュージックらしく中音域が明瞭になるようなマスタリングされていることと、基本的に8小節展開を守っているので曲の展開を読みやすくなっていることだと思います。
(テクノもそうですが、昔の曲は変なところで展開が変わるものがしばしばありました。)

もう1つ似たような系統の楽曲を。

Paul Cronin / Phase 4

こちらの方がよりアップリフティングな曲調でピークタイム向きですね。
信じがたいかもしれませんが、前の曲共々2010年代に入ってからのリリースです。
前の曲に至ってはリリースから僅か1年しか経っていません。

Paul Cronin / Piano Choon

レイヴと云えばM1ピアノを始めとする明るい鍵盤の音もまた1つの印象深いものとして耳に残りますね。
それを軽快なボイスサンプリングと共に全面に打ち出しているのがこちら。
音そのものは古臭い一方で細かいリフやドラム刻みが現代チックなハイブリッドトラック。

Paul Cronin / Wonky

派手な曲調ばかりがレイヴの特性ではありません。
アーメンブレイクはこれまで紹介した曲同様使い倒しつつも、怪しげなストリングスがグライミーなベースと共に進行するマニアックな路線の曲。
ワタクシの場合、こういう渋い系と派手系の中間点みたいな曲は両者間の橋渡しとして、或いは多ジャンルとの橋渡しとして使うことが多く、割と重宝してます。

すっかり紹介し損ねておりましたが、レイヴミュージックの作り手と云うのは変名義をいくつか抱えているパターンが割とあります。
Paul Croninもその慣習に則り、本名義と同時進行でBreakbeat Allianceと云うプロジェクトを抱えており、そちらはレイヴ要素をサブウェポン程度に留め、よりブレイクビートに軸足を置いた楽曲制作を行っております。
従って上記のような曲調が好きであればこちらの名義を追ってみても良いかもしれません。
勿論現在も両者平行して活動継続中で、今年に入ってから既に3枚のEPをリリース済み。

Paul Cronin / Cauldron

さて、数あるレイヴブレイクスアーティストの中であえてPaul Croninを選出した理由の1つがこの曲にあります。
ちょっとBPM速めで怪しげなベースラインが鳴り響いている、と云うのが第一印象なのですが、しばらく聴いていると突如としてゲームSIRENで使用されている奉神御詠歌のサンプリングが差し込まれるのです。
同じホラーゲームでもSIRENT HILLネタなんかは割とあった方ですが、これをネタ元とする曲はゲーム本体の知名度の高さに反して未だにこれ以外出会ったことがなく、しかもよりによって派手な曲調のものが多いレイヴブレイクスの中にあったことがかなりの衝撃でした。
尚、Paul Croninの作品と云う括りで見てもこれ以外これと云って同系統のネタモノがあるわけではないため、この曲の突然変異度はかなり高め。

Paul Cronin (feat. The MaD mC) / Welcome To The Asylum

最後にしょーもない路線の曲を。
最早このジャケットから嫌な予感がモリモリ漂ってきますが、その通り、きかんしゃトーマスのテーマネタです。
本当にイギリス人はきかんしゃトーマス大好きだなと思う程に数多くのリミックスやミーム的マッシュアップが大量生産されているのはご存知の通りだと思いますが、これもその中の1つ。
ほぼサンプリングとアーメンブレイクの勢いのみで突っ走っている、Paul Croninワークスの中でもダントツに雑な曲でもあります。
これ売っちゃうんだーって感想も至極ご尤も。

しかしこういうシンプルな方がむしろ実験的でレイヴらしいと思ってしまう辺り、ワタクシは沼から抜け出せそうにありません。
皆様に於かれましてはレイヴの摂取はくれぐれもほどほどに。

と、ここまでPaul Croninのオススメ楽曲を紹介してきました。
他にもSoundcloudアカウントにはブートレグ含むフリーダウンロード楽曲が公開されていたりするので(と云うかこの界隈結構頻繁にフリーリリースしていたりもするので)、トラック収集はある程度の量までかなり簡単に行うことができます。
同テンポ帯の音楽にカウンターとして差し込む分には申し分ないインパクトを稼げるので、DJの方々にも是非積極的に使って欲しいところです。
何よりワタクシがレイヴ好きなので。何卒何卒。

次週08月14日は774Muzikさんが担当します。
今回はこれにて。

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