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今週のオススメハードテクノ – Resident’s Recommend 2018/12/13

こんばんは。TAK666です。
レジデントが代わる代わるオススメハードテクノを紹介するこのコーナー、
2週間ぶりにワタクシが担当致します。

一昨日のYudukiボスによるエントリーで記載されていた通り、先週は25th ANNIVERSARY OF MANIAC LOVE – ML PROGRAM 2と云うパーティーがありまして、自分もそこに行っておりました。
青山にあった本家MANIAC LOVEには1度も行ったことなかったのですが、当時から周囲の話題として挙がっていたハコではあったので数年越しになってしまったものの、雰囲気だけでも味わおうと極めて軽い気持ちで足を運んだわけなのですが、何と云うか、想像以上にエネルギッシュな空間を体感しました。
曲が変わる、どころか1曲の中でも展開が変わる度に歓声が上がっており、それに応答するかのように往年のテクノアンセムがバンバン投下される。
これは自分が知っているテクノと同じ音楽なのかと疑ってしまう程でした。

本家があった頃はもっとお客さんがアグレッシヴだったらしく、常にどこかしらで歓声が上がっている状態が続いていたそうです。
ああ、これは影響を受ける人が出てくるわけだと思いましたし、またもや『もう少し生まれる年が早かったら』と悔しくもなりました。
大変良いパーティーでした。

ちなみに25th ANNIVERSARY OF MANIAC LOVE – ML PROGRAM 2に行く前はFIX #030と云うパーティーに行っておりまして、こっちはこっちで現行のハードテクノがガンガンかかる空間でした。
同じハードテクノと云ってもHardonizeとは少し質の違うものが流れており、
ストイックなリフを軸に据えながらも暗過ぎず、硬過ぎず・・・強いて分類するならアグレッシヴなハードミニマルがメインだったように思えます。

細かい話になってしまうのですが、ワタクシを含むHardonizeレジデントは割と曲単体が映えるようにその展開を踏まえたミックスをする傾向があるのですが、このFIXと云うパーティーでは逆にDJが積極的にエフェクトやカットインなどを駆使して展開を作っていくと云う違いがあって、それは物凄い参考になりましたし、面白いと感じた部分でした。
この日ゲストのHomma Honganjiさんの4デッキスタイルなんかは正にその象徴でしたね。
相変わらず忙しそうなプレイだなと思って拝見していた一方、ヴァイナルを含む複数デッキで音圧調整とビートキープが完璧であるその技術は謎過ぎてゾワゾワします。

そんなワケで先週はかなりテクノ充してました。
丁度次回Hardonizeの日程も2019年02月09日と発表されたので、それまでにこの日得たものを消化して臨みたいと思います。
何卒よろしくお願いします。

一方で未だ消化に時間のかかっているものがコチラです。

前回記事の冒頭で触れた通り、先月末を以って閉店してしまったレンタルCDショップ、ジャニスの在庫放出期間中に購入したCDたちです。
ざっくり数えたところ、150枚を超えておりました。
悲しみの度合いを表した数字と受け取ってください。

前回担当日の翌日が閉店日だったのですが、案の定と云うか、結局その日も足を運んでしまいました。
閉店日に近付くにつれてお客さんも多くなっていき、数万枚あったと言われる在庫も着実に減っていた印象はあるのですが、それでもまだ掘り尽くせなかった感があります。
こんな店はもう2度と現れないだろうなと名残惜しさが募る一方、うち10数年はこのお店と関わることができたのを光栄に思うことにします。
本当にお世話になりました。

で、この中にはテクノのレア盤も含まれているのでございまして、今回はそれらの一部をご紹介したいと思います。
速い話が

DIG自慢

です。

R&S RECORDS関連

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In Order To Dance Two (CD, Compilation) | Discogs
Order To Dance III (CD, Compilation) | Discogs
In Order To Dance 5 (CD, Compilation) | Discogs
R&S Classics (CD, Compilation, Limited Edition) | Discog

R&S RECORDSは80年代に設立されたベルギーのレコードレーベル。
ヨーロッパレイヴの誕生に大きく貢献し、そのままシーンの中心に君臨した伝説的存在でもあります。
その影響力は90年代に入っても衰えず、多くのテクノアーティスト、DJから絶大な信頼を寄せられていました。
当時の所属アーティストはAphex TwinCJ Bollandなど。
これだけでも凄さが伝わってきますが、AKIRAの原作及び監督を務めた大友克洋がPVのイラストを担当したKen Ishii / Extraがリリースされたのも、Boom Boom Satellitesがアーティストとしてデビューを果たしたのも、このR&S RECORDSなのです。

そんなレーベルの90年代初期~中期にかけてリリースされたコンピレーションをゴッソリ救出。
収録曲はどれも有名曲ばかりですし、R&S RECORDSは現在も活動を継続中、且つ過去の音源を積極的に配信していることもあって、楽曲単体で手に入れることは比較的容易です。
『古きを温めて新しきを知る』と言いますし、この時代の音楽から得られるものは決して少なくありません。
R&S Records Releases & Artists on Beatport

Joey Beltram / Energy Flash

RISING HIGH PRODUCTIONS関連

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Rising High Techno Injection 2 (CD, Compilation) | Discogs
World Techno Tribe (CD, Compilation, Mixed) | Discogs
Rising High Trance Injection (CD, Compilation) | Discogs
The Secret Life Of Trance 4 (CD, Compilation) | Discogs
Avantgardism – Drum ‘N’ Bass (CD, Compilation) | Discogs

こちらも90年代のレイヴからその後のジャンル分派に於いて大きくシーンに貢献した名門レーベル。
本家はイギリスですが、最盛期にはアメリカにも傘下レーベルを持ち、Atom HeartHardfloorJohn Digweedなどがリリースを果たしています。
1999年に1度活動を休止してしまったのですが、2015年からリマスター版の配布を始めており、現在は新曲のリリースも行っていることから復活したと言って差し支えないのではと思います。

こちらも90年代初期~中期のコンピレーションを一気買い。
ドラムンベースのコンピレーションがこの当時でしか実現しないような面子でアツい。
配信もあるにはあるのですが、フィジカルのリリース数に比べて圧倒的に不足しており、且つアーティストに偏りがあります。
そう云う意味では内容に於いてもレア度が高い作品群です。
Rising High Releases & Artists on Beatport

The Hypnotist / Pioneers of the Warped Groove

Q’HEY + SHIN – PLANETARY ALLIANCE

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Q’hey & Shin Nishimura – Planetary Alliance (CD, Album) | Discogs

奇しくも冒頭で述べた25th ANNIVERSARY OF MANIAC LOVE – ML PROGRAM 2に出演されていたQ’heyさんが同じく日本でテクノを手掛けていたShin Nishimuraさんとタッグを組んで作られた全曲共作によるアルバム。
ちなみにジャケットイラストを先述のKen Ishii / ExtraのPVにて監督を務めた森本晃司が手がけています。
出音はどれもカッチリした双方得意とする感じにはなっているものの、アシッドシンセに焦点を当てた曲があったり、ブレイクビーツ混じりの4つ打ちがあったり、エレクトロのようなファンキーなリフのトラックがあったと思えばゴリゴリのハードミニマルも収録されているなどバラエティに富んだ1枚となっております。
当時から好きで何度か使ったこともあります。

残念ながらアルバムとしての配信はなし。
但し、収録曲の中に1つだけ別レーベルからシングルカットされた曲があり、これに関しては配信されていたので以下に挙げておきます。
これがHardonizeにうってつけのハードミニマルで、大変カッコ良い。

Q’hey, Shin / Melissa

HITOSHI OHISHI – metronomerampage

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Hitoshi Ohishi – Metronomerampage (CD, Album) | Discogs

日本人のテクノクリエイターの中でも4つ打ち重視ではあるものの、それでも変則的なグルーヴを奏でていた人と云うと個人的には真っ先にこの人が挙げられます。
ジャパニーズテクノレーベルの代表とも言えるFrogman Recordsに所属し、ラッパーの環ROYと共作でアルバムを手掛けると云う一風変わった経験の持ち主。
作品に於いてはキック以外のハイハットやスネアと云った金物の打ち方がブレイクビーツっぽいのと、リフがバウンシーだったりするのが変則的に聴こえるのだと思いますが、本作ではその辺りのテクニックがふんだんに使われており、音は無機質なのに感情的と云う相反した印象が同時にやってくるので、聴いていて楽しいのです。

海外配信サイトに於いては本作はおろか、HITOSHI OHISHIさんのアーティストページすらないところが多かったのですが、なんとOTOTOYで楽曲データを買えることが判明しました。
HITOSHI OHISHI / metronomerampage – OTOTOY
と云うかFrogman Recordsの作品がほぼ揃っているように見えます。
ヴァイナル作品までしっかりデータ化されている辺り、大変ありがたい。
ジャングルの奥地に黄金郷を発見した探検家の気分が分かりました。

そして本作収録曲は埋め込み可能な方式としてはどこにもアップロードされていなかったので、HITOSHI OHISHIさんの作品の中でも特に好きなものを以下に貼付してお茶を濁します。
硬くはないのですがファンキーなリフ回しがとても好みです。

Hitoshi Ohishi / Round Sell

leopaldon関連

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Leopaldon – Cake Or Girl? (CD, Album) | Discogs
Leopaldon = Leopaldon – ヤバコプター (CD, Album) | Discogs

レオパルドンと云えばサンプリング、ネタモノを主体としたテクノ、所謂ナードコアを語る上で避けて通れない存在で、一部界隈に於いては未だに絶大な人気を誇っているユニットです。
来歴については最近掲載されたこちらの記事に詳しいことが載っております。物凄い熱量。
第62回「レオパルドン」/ #62 “Leopaldon”: 面白外人イアンの「謎の文化チガイ」 / Fascinating Foreigner Ian presents “Enigmatic Cultural Differences”

その作品は中古市場やヤフオクでたまに流通されるもののすぐに買い手がつくため、入手困難と云う状態が少なく見積もっても10年以上続いております。
それがまさかこんな形で手に入るとは思いませんでした。

Cake Or Girl?についてはナードコアと云う単語をそのまま落とし込んだかのような強烈且つ謎のサンプリングによって構成された楽曲で構成されていて、とにかくおかしい。(2つの意味で。)
一方、ヤバコプターの方も基本的なスタンスはCake Or Girl?と変わらないものの、一部楽曲に於いてはメンバー或いは外部フィーチャリングによるラップが挿入されており、よりジャンルクロスオーバー的。
実際これらの作品のリリース後、レオパルドンはナードコアのアーティストと云うよりはヒップホップ・ミーツ・テクノユニットとしての側面が強くなります。

ナードコア全般に言えることですが、極めて危ういシロモノであるため、当然本作の配信はありません。
が、メンバーの高野政所さんが直々に当時の未発表音源をアーカイブしたものがBandcampで配信中。
レオパルドンのナードコア墓場1998-2000 | やばさ RECORDINGS
また、上記記事にて告知されておりますが、今年の年末31日にナードコアアーティストを一挙に招集したパーティーが開催されますので、その面白さと大胆さを是非体感して欲しい。
「ナードコア・テクノ」の夕焼け

Leopaldon / Cake or Girl

NISH関連

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Nish – Quadroid -Selected Live Tracks- (CD, Album, Mixed) | Discogs
Nish – Euphoride (CD, Album, Mixed) | Discogs

YOJIさん、REMO CONさんに続く次世代ハードダンスシーンの担い手として知られたNISHさんの初期作品。
後年国内/海外問わず有名レーベルからヴァイナル、デジタルリリースを行っており、意外なところでは音楽ゲームに楽曲を提供していたこともあるため、何らかの作品に触れたことがあると云う人は少なからずいらっしゃるかもしれません。
おそらくそう云った方々の印象からは煌びやかでメロディアスな曲を主体に手掛けているのだと思いがちですが、この2作品に於いてはより攻撃的なハードハウス、ハードエナジーがメイン。
シンプル且つインパクトが高いリフが楽曲ごとに手を変え品を変え押し寄せてくるので、良い意味でハードダンスの初期衝動感満載です。
収録曲の中にはヴァイナルカットされたものもありますが、本作を通してしか聴けない曲も多数含まれているので、流通数の少なさも相まって大変貴重な作品でもあります。

ざっくり調べてみたものの、これらの収録曲の中でデータ購入可能な曲は1つもありませんでした。
1曲だけNISHさんの代表曲と言えるSagittariusが聴けるようになっていたので以下にご紹介。
これとBlue Sunshineはアップリフティングスタイルの2大双璧だと思ってます。

余談になりますが、NISHさんは現在Ken Plus Ichiroと名前を変えて活動中。
よりユーフォリックでプログレッシヴトランス寄りの楽曲を展開しているのでメロディアス好きの方は是非ご愛好ください。
Ken Plus Ichiro Tracks & Releases on Beatport

Nish / Sagittarius

ひとまず以上で今回は〆。
今回の一件がなくとも、今でも頻繁にCDショップに足を運んでは妙なCDを発掘していたりするので、その時発掘した作品をここで取り上げる機会があっても良かったなと今更思い至りました。
折を見てシリーズ化していくかもしれませんのでその際はお付き合いください。

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ボス、ラーメンご馳走様でした。んまかったです。

次週12月18日は774Muzikさんが担当します。
今回はこれにて。

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今週のオススメハードテクノ – Resident’s Recommend 2018/11/29

こんばんは。TAK666です。
レジデントが代わる代わるオススメハードテクノを紹介するこのコーナー、
2週間ぶりにワタクシが担当致します。

30年以上に渡り、神保町でCDのレンタルを行っていたジャニスと云うお店が今月を以って(つまり明日で)閉店となります。
(中古CDの販売店舗については年内までは引き続き営業を行っていくそうです。)


ロック、ポップスは勿論の事、ヒップホップや電子音楽、ワールドミュージックからアニソン、果てはサンプリングCDに至るまで数万枚の在庫を抱えていたお店。
一般的なレンタルショップにはまず並んでいないと思われるマニアックな品々が多く、入手しづらい過去作を聴きたいと思った時には大変頼りになる存在でした。
思い出せないくらい前から利用していたこともあり、また1つ贔屓にしていた音楽関連のお店が消えてしまうことはとても悲しいものがあります。
本当にありがとうございました。

実はここでパーティーをやったことがあるんです。
現在の店舗になる前、ジャニスは雑居ビルの9階にあったのですが、8階のテナントが空いていた時期にそこをイベントスペースとして開放していたことがありまして、折角なので変なことをしましょうとAVSS代表のDa/Leさんを唆して行ったのが解放最前線と云うパーティーでした。
ちなみに出演者は自分の師匠に当たる練乳さんや、Fumiaki Kobayashiさんとユニットを組んでいたギタリスト且つDJのMasayuki Ozakiさん、そして後にHardonizeを一緒にやることになる774Muzikさんなどがいました。
当時流行っていたcapsuleとかかけてましたね。

一生懸命当時の写真を探してみたものの、見つけられませんでした。
その代わり、ジャニスのブログ記事にてちょっとだけ触れられております。

> 寸劇が始まったり、ジュリアナと化したり
これはDENIMさんですね。

> ターンテーブルの上にフィギアが乗ってたり
これはThanatosさんですね。

今見ると扱いに困ったんだろうなと云うのが察せられます。
奇人が多くて面目ない限り。
そんなこともあって大変お世話になったお店なのでした。

尚、ジャニスではこれまでレンタルとしてお店に置いていたCDを一挙放出しております。
自分はこの1か月間通い詰めており、既に100枚近く救出済み。
前回記事で触れたM3の後なので出費がヤバいことになってますが、長年お世話になったお店の閉店となればやむを得ない。

ちなみにお値段なんと1枚300円。
冒頭の通り、営業は明日30日までとなるので是非お暇を作って足を運んでみてください。
レア盤多数・・・と云うかちょっと引くぐらい在庫あります。

さて、本来ならば件のジャニスで救出した名盤◎選、みたいなテーマがしっくり来るところですが、ここ2回特集続きなので今回は普段通りのアーティスト紹介とします。
まだ明日も可能性があるわけですし。
冒頭に関連付けるとしたら、数万枚の在庫を持つジャニスと云うお店がプッシュしていたテクノアーティスト、それも割と最近のシーンにとって重要な存在となっており、且つワタクシの趣味にバッチリ合致する人がいるのでコチラをご紹介します。

Special Request

Special Request
https://www.facebook.com/SpecialRequest187/
https://soundcloud.com/specialrequest

イギリスの羊毛都市リーズのアーティスト。
本名はPaul Woolfordで、本名名義での活動は2000年代初期の頃から展開しています。
言うなればSpecial Requestは彼が持つプロジェクトの1つです。

活動開始当初はハウスを主軸としており、その才能はすぐに有名プロデューサー達を虜にしました。
初期の頃よりハウス~ディスコの名門Subliminalや、元UnderworldDarren Emersonが運営しているUnderwater Recordsなどの作品へ参加していることからもその片鱗が窺えます。
後に本家Underworldのリミックスを担当したことも彼の知名度を大きく押し上げる要因になりました。

その躍進は近年も衰えず、2011年に20周年を迎えたデトロイトテクノのレーベルPlanet Eの世界ツアーに主宰のCarl Craigと同行、そして同レーベルからのリリースを果たします。
また、この時テクノシーンに訪れていたダブテクノと云うトレンドにもすぐに呼応し、当時最先端を走っていたレーベルHotflush Recordingsとサイン、数々のアーティストとのコラボレーションを経てフリージャズや現代音楽の要素を吸収するなど、より実験的なアプローチへと舵を切っていくことになります。

その中で大きな出来事となったのが、Ben UFOから楽曲のサポートを受けたことでした。
Ben UFOもまたダブテクノ、ミニマルテックハウスの代表格として語られることが多いアーティストですが、特筆すべきは彼がパーソナリティを務めていたロンドンのラジオRinse FMです。

その昔、イギリスではロックをはじめとする大衆向け音楽の放送を1日45分までと厳しく制限していた時代がありました。
一方イギリスと云えばブリティッシュ・ロックと云うカテゴリーがあるくらい音楽の盛んな国でもあるわけで、日々生まれてくる曲やアーティストをその制限の中で伝えきれるわけもなく、リスナーは多くの不満を抱えていました。
それを解消せんとばかりに立ち上がったのがパイレーツ・ラジオ、所謂正式な放送免許を持たず放送を行なう海賊放送です。

これは最初海の上から船で送信するような大掛かりなものだったそうですが、機材の小型化や低価格化が進むにつれて陸上へと拠点が移るようになり、また放送を行う者の数も増えていったそうです。
Rinse FMもその中で生まれたラジオ局(?)でしたが、ここが他と違っていたのはクラブミュージックを積極的に取り上げていたことです。
90年代にレイヴサウンドが爆発的な流行を遂げた際、Rinse FMはレイヴやジャングルと云った当時最新のジャンルにスポットを当て、またそれらがドラムンベースやガラージと云った新たな音楽へと変容していく様子も追従しました。
長きに渡ってRinse FMはパイレーツ・ラジオとして存在していましたが、2010年に放送ライセンスを取得したことで正式な放送局として認められることになり、現在でもグライムやダブステップと云ったアンダーグラウンドミュージックにとって欠かせない役割を担っています。

そういったパイレーツ・ラジオをPaul Woolfordは10代の頃に聴いて育ってきました。
その後数々のプロデュースやコラボレーションを行ってきて、もう1度新しい気持ちで音楽と向き合いたいと考えていた時にRinse FMと関わりがあったことは大きな出来事となったのでしょう。
彼は1993年までのこれらが録音されたテープアーカイブとヴィンテージハードウェアシンセを使い、2012年に新しい名義でのプロダクションをスタートさせました。
それこそが今回のメインテーマ、Special Requestです。

自らの原点とも言えて、且つ20年近く傍らにあったレイヴ、ジャングル、そしてパイレーツ・ラジオと云ったカルチャーですが、本名名義であるPaul Woolfordの活動ではこれらに立ち入ることはあまりありませんでした。
Special Requestとなるまでの彼は前述の通り、現行のアーティストとして流行に追随し、広くオーディエンスに受け入れられるような手法の模索をより積極的に行っていたからです。
しかし更に視野を広げ、自分が前進するために自分の根源となる部分と向き合う必要があったと語っています。

そしてそれは彼が考えていなかった程エキサイティングな体験を齎しているそうです。
トラックは全て自然に湧き出た感覚から当たり前のように、スムーズに完成まで辿り着くことが多く、またこれらに取り組んでいる最中は『他人に理解してもらえるか』と云う余計な思考を挟む余地もない程夢中になれるのだと。
更にはこれらが流行りの音楽ではないという事実もより一層の興奮を覚えるのだと語っています。
思えば本来のレイヴやジャングルが当時マーケティングを意識していたかと問われればおそらくそうではないものが大多数で、どちらかと云うと初期衝動そのものをコンパイルしたものでした。
だからこそあれだけ攻撃的で、無節操で、鋭く尖った楽曲が大量に出回ったのだと思います。
Special Requestはそう云った対外的な要素を排除して純粋に好き勝手やる、『個』と向き合うプロジェクトであると言えるでしょう。

最後にSpecial Request名義でのトラックのスタイルについて説明すると、上述の通り90年代レイヴやジャングルを踏襲しつつ、ベースやリズム帯には現行ダンスミュージックの厚みが出るようアレンジが施された電子音楽・・・としか呼べない『何か』。
煌びやかさはありませんが、重低音の深度と過度に再構成されたアーメンサンプリングは十分な攻撃性を擁しており、そのリズムパターンもブレイクビーツ一辺倒ではなく、4つ打ちもあればノンビートもあるため、テクノからベースミュージックまで幅広いシーンで通用する仕上がりとなっております。
これまでにフルアルバムが2作品出ておりますが、フィジカルリリースではどちらもCD2枚組仕様と大変なボリュームで、そのどれもがパーティーに於いて機能する曲であることが凄まじい密度と完成度を誇っています。


Soul Music | Special Request on Bandcamp


Belief System | Special Request on Bandcamp

参加レーベルを挙げると90年代から変わらずレイヴシーンの台風の目となっているXL Recordings、及びロンドンの名門クラブ、Fabricの傘下であるHoundstoothとどちらもダンスミュージックの歴史を語る上で重要な存在であることもまた明記しておきます。
これらもまたSpecial Requestの作品に対する信頼度の高さが伝わる出来事なのではないでしょうか。

尚、Special Requestと云うフレーズは1994年にリリースされたTop CatのRequest The Styleと云う曲の冒頭でMCが放っているものが初出です。
レゲエシーンに於いてはアンセム的な扱いの曲で、周辺音楽であるレイヴやジャングルには頻繁にサンプリングされているフレーズの1つなので、まず間違いなく名義の出典はこの曲にあると言って良いでしょう。
Special Requestもまた自身の作品にこのボイスサンプルを多用していますし、何なら本家大元のリミックスまでやってます。

Top Cat / Request the Style (Special Request Remix)

原曲購入の際はこちらからどうぞ。
Request the Style (Original Mix) by Top Cat on Beatport

その他Special Requestのオススメはこちらになります。
ちなみに上記アルバム未収録曲を選びました。

Special Request / Broken Dreams

アルバムSoul Musicより前に出されたEPに収録されている1曲。
アーメン乱れ打ちのブレイクス。
シンプルユエに緩急の付け方が映えます。
ちなみにEPのタイトルはHARDCORE EP。強い。

Special Request / Peak Dub

似た路線でもう1曲。
1拍目、2拍目のキックの深度がエグいことになってます。
パッドシンセからレイヴの不穏さ、危うさみたいなものを感じ取れるのが魅力。

Disciples / Jealousy (Special Request Remix)

ピアノブレイクス混じりの4つ打ち。
展開がハッキリしていてとにかくジャンル遷移に於いて機能します。
これもかなり低音が太いので、良い環境の元、大音量で聴きたいタイプです。

Paul Woolford / No Requests (Special Request Fantasy FM Remix)

本名義と別名義の合作。
トータル10分を超える大作バリアレックハウス。

Special Request / Reset It (Head High Dirt Mix)

レイヴオルガンをメインリフとして据えたテクノ。
出音は現代のものと遜色ない一方でハイハットが異様に前に出てる感じがオールドスクールめいてます。
テクノ主体のセットの中でもガラッと雰囲気を変えたい時とかに活躍するでしょう。

尚、今回の記事を作成するに当たり、参考になった記事が色々ございますのでまとめて紹介致します。
パイレーツ・ラジオ、レイヴ、そしてSpecial Requestについて更に詳しく知りたいと云う場合は是非こちらをご覧ください。
どれも大変勉強になり、そして面白いです。

パイレーツラジオはどのように生まれ発展してきたのか? – FNMNL (フェノメナル)

アーメンブレイクをサンプリングしたベスト・トラック20選【後編】 | Mixmag Japan

Paul Woolfordが語るSpecial Request、Shut Up and Dance、パイレーツラジオ

Amazon.co.jp: パイレーツ・ロック (吹替版)を観る | Prime Video

次週12月04日は774Muzikさんが担当します。
今回はこれにて。

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