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特別連載:ハードテクノとは何か? – 第9回:テックダンス編


特別連載:ハードテクノとは何か?
第9回:テックダンス編
特別連載:ハードテクノとは何か? – 目次
特別連載:ハードテクノとは何か? – 目次

第1回:黎明期編
第2回:ハードミニマル編
第3回:ハードアシッド編
第4回:ハードトライバル編
第5回:ハードハウス編
第6回:シュランツ編
第7回:ハードグルーヴ編
第8回:インダストリアル編
第9回:テックダンス編 (今回)

番外
第1回:メロディアス・ハードテクノ編
第2回:ハードダンス編
第3回:ディスコ編

こんばんは。TAK666です。
レジデントが代わる代わるオススメハードテクノを紹介するこのコーナー、
2週間ぶりにワタクシが担当致します。

先日、次回Hardonizeのゲストが発表となりました。

2020/2/22 Hardonize #35 at sabaco music&cafe


西日本テクノシーンの女帝DJ RINNさんと、数々のパーティーに於いて数々のジャンルを渡り歩く若武者gekkoさんの2名をお招きして執り行います。
キャリアもバックグラウンドも異なる両名のプレイを是非体感してください。
令和2年0222日(覚えやすい)、いつもの茶箱にて開催致します。
何卒。

さて、ワタクシの担当回では過去10回に渡り、特別連載と題しましてハードテクノが内包する音楽のスタイルについて解説していくハードテクノとは何か?をお送りしてきました。
初回ではハードテクノのサブジャンルについて

上のような図を用いて表した上でハードテクノの特徴を

・メインストリームテクノよりは速いテンポ
・4分打ちのハイハットによる疾走感のあるグルーヴ
・キックの強度やベースの厚み

としました。

今回は第9回と称しまして、この中のテックダンスと云う音楽について紹介していきたいと思います。

前回、番外編と銘打った上でハードダンスと云う音楽についてご紹介致しました。
その中でハードダンスとはトランスの流れを汲むハード系ダンスミュージックの総称と記しましたが、今回ご紹介するテックダンスと云う音楽もこの中に含まれるものになります。
にもかかわらず何故今回別立てで取り上げるのかといえば、それはこの音楽がハードテクノのエッセンスを取り入れたハードダンスとして確立しているためです。
詰まるところ、2019年現在に於いて最もハードテクノと相性の良いハードダンスがこのテックダンスと云う音楽だと言えるのがまず1点。

加えて、この音楽が確立した背景には日本が大きく関わっていると云うのも大きなトピックとして挙げられます。
広くクラブミュージックと云う括りで見てもこういった経緯を持つ音楽はなかなか見当たらないので、同じ日本人としてはかなり特殊なジャンルであると云う認識を持っています。

あとは当Hardonizeの楽曲紹介に於いても割合頻出する単語でもあり、実際にパーティーに於いてもかかる類の音でもあるため、この特別連載に於いても欠かせないであろうと判断しました。

ではその成り立ちについて順を追ってご説明していきます。
2000年代初頭~中期にかけて、ハードテクノはその中で多くのサブジャンルを確立させ、より洗練された楽曲を生み出していました。
中にはハードトライバル編で紹介したCave / Street Carnivalであったり、メロディアス・ハードテクノ編で紹介したJoris Voorn / Incidentのように、ハードテクノ以外のシーンでも大ヒットを記録したトラックもぼちぼち見受けられた時代です。

それらとほぼ時と同じくして、こういったトラックも出てくるようになりました。

Hertz / Recreate

Recreate (Original Mix) by Hertz on Beatport

スウェーデンテクノシーンの重鎮Hertzが2003年にリリースしたもの。
ハードグルーヴ編に於いて軽く触れましたが、お聴きの通りT99 / Anasthasiaネタであり、これもまたジャンルの垣根を越えてビッグヒットを記録しました。
この曲の特徴として、単音でインパクトのあるシンセ(この場合はAnasthasiaのリフ)をメインに据えた点が挙げられます。
これは特にハードテクノ出現以降のテクノに於いてあまり聴くことのない手法であり、どちらかと言えばトランス、ハードダンスに近い要素とも言えるため、かなり意表を突く音に受け取られたように思います。
『こういう音もテクノにはアリなんだ。』と云う、だからこそ超売れたと云うのもあるのでしょう。

これ自体はテックダンスではないのですが、後に定義付けられるテックダンスの予兆を感じさせるものとして好例だと思ったのでここに載せました。

一方、同時期のハードダンスシーンに於いても新しいスタイルとしてテクノの硬質なリズムを吸収する動きが見られました。
特に強烈にそれを推進していたのがご存知、日本が世界に誇るハードダンスレジェンド、Yoji Biomehanikaさんです。

Yoji Biomehanika / Samurai (The Keyboad Cowboys) (2004 Original Mix)

Samurai (The Keyboad Cowboys) (2004 Original Mix) by Yoji Biomehanika on Beatport

2004年リリース。
ハードダンスの特徴とも言える筈の煌びやかなシンセをバッサリと切り捨て、硬いキックとベースが蹂躙する骨太なトラック。
当時あまりこういったスタイルのトラックはなかったように記憶しております。
余談ですが、後にこの曲とRemo-con / Narky Lightをセルフマッシュアップしたその名もSamulightと云う曲がリリースされております。

このように、ハードテクノとハードダンスの互いが互いに要素を取り入れ合っていたことに注目したYoji Biomehanikaさんをはじめとするクリエイターが、これらを一纏めにして新しい呼び名を付けようと2007年に提唱したのがテックダンスです。
その旗揚げとしてリリースされたのが、Six Hoursと云うEPと、GIGA Tech-Dance Extremeと云うMIX CDでした。

Yoji, Romeo / Six Hours (2007 Original Mix)

Six Hours (2007 Original Mix) by Yoji, Romeo on Beatport

キックの質感やハイハットの鳴らし方はハードテクノっぽい一方、ロングブレイクを絡めた展開やメインとなるピアノリフの派手さはハードダンスのそれ。
現代ほどクロスオーバーが盛んではなかった時期に双方の音楽に精通した人ならではの発想でもって現れたこのスタイルは、かなりインパクトがありました。

一方、MIX CDの方はテックダンスの拡大解釈を提示するかのような内容となっており、上記Six Hoursも収録されている一方でCJ BollandOrtin CamIgnition Technicianと云ったハードテクノのアーティストのトラックも入っています。

Cj Bolland – Riot – YouTube

Love Delux (Original Mix) by Ortin Cam on Beatport

Ignition Technician – Take It Back To The Old School – YouTube

勿論、第一線のハードダンスクリエイターの曲も織り交ぜたハイブリッドなMIXで、テックダンスの方向性が名付け親によってかなり早い段階で示唆されていたように思えます。

おまけ動画。

yoji_remo-conドミューンLive07 – YouTube

2011年にDOMMUNEにご出演された際の映像。
おそらくターンテーブルの上でくるくる回っているピザを手を汚さずに食べられるようにと用意されたのであろう割り箸でミキサーを操作するスーパースター。
今見ても謎過ぎて面白い。

もう1人、黎明期からテックダンスを支えた人物としてインターネットラジオ局block.fmRemote Controlと云う番組のパーソナリティを務めているRemo-Conさんもその1人です。

Remo-con / Cold Front

Cold Front (Original Mix) by Remo-con on Beatport

これも2007年のリリース。
浮遊感のあるシンセがトランスのエッセンスそのものを体現していて気持ち良い一方、リズムのグルーヴはテクノっぽい。

何より衝撃的だったのはこれがリリースされたのがAnjunabeatsと云う、トランスの超名門レーベルだったことです。
ハード系はおろか変わり種すら少ない、ストイックにメインストリームのトランスを追求しているレーベルと云う印象が強かったところにこういった曲が入り、しかもそれが日本人によるもの、と云うのはなかなかの事件でした。

更にもう1人挙げるとすると、ハードダンス編でも触れたNishさんが思い浮かびます。

DJ OZAWA / TOKYO (Nish Dubstek Remix)

TOKYO (Nish Dubstek Remix) by DJ OZAWA on Beatport

ちょっと間が空いて2012年のリリースです。
と云うのも、テックダンスのプロデュースに関しては同じ時期に行っていたものの、ヴァイナルやCDと云ったフィジカルメディアでのリリースが大半だったため、現在オンラインで試聴できる手段のないものが多く、上記2曲と時代を揃えることができませんでした。
で、こちら、原曲にもあった三味線のパーツがとにかく変わりモノ。
しかもブレイク以外にリードシンセはなく、メインリフが三味線と云う本当に変な曲。
リズムは上記2曲にも通じる塩梅でありつつも、ところどころに差し込まれるダブステップ由来のワブルベースはこの時代に於いてはやはり変わりモノ。
インパクト勝負好きな方は是非。

その他に当時からテックダンスを手掛けていたアーティストとして、Night LiberatorさんやGEORGE-Sさん、そしてHardonizeにも度々ご出演頂いているni-21さんなんかが挙げられます。
尚、ここまで紹介しております方々は全員日本人です。

引き続き日本に焦点を当てて話をするならば、上記で名前を挙げた方々はいずれもトランスやハードダンスのシーンで長いキャリアを持つ、言わばベテランであったわけです。
が、突如聞き慣れない名前でもって目の前に現れた新しい音楽に影響を受けた当時若手のアーティストの存在もありました。

例えばMad Childさん。

Mad Child / Tourbillon (Madstiff Mix)

Tourbillon (Madstiff Mix) by Mad Child on Beatport

2013年リリース。
この人も黎明期に当たる2007年からテックダンスを手掛けております。
強烈なアシッドシンセと硬いキック。
シンプルながらアグレッシヴな印象を持つトラック。

また、ハードコアとしてのキャリアが大きいものの、トランスやハードダンスも手掛けるDJ Norikenさんもその1人。

DJ Noriken / The Beach

The Beach (Original Mix) by DJ Noriken on Beatport

2011年リリース。
これでもかと言わんばかりのピアノ連打やら線の細い哀愁系リードシンセやら、とにかくウワモノが派手厚い。
上で取り上げたNishさんの曲同様、ワブルベースもふんだんに使われているあたり、どれだけ当時猛威を振るっていたか分かります。

Norikenさんは一時期JP-H/Dと云うハードダンスのコンピレーションを手掛けていたこともあり、その中に於いても様々なテックダンスを聴くことが出来ます。
配信はなく、CDオンリーっぽいのですが、見かけたら是非手に取ってみてください。

加えて先に取り上げたYoji Biomehanikaさんに天才と言わしめたNhatoさんも活動当初はテックダンスにスポットを当てておりました。

Nhato vs Hedonist / Raise

Nhato vs Hedonist – Raise (Original Mix) – YouTube

2011年にリリースされたHedonistさんとの共作。
緻密に刻まれたシンセが厚いボトムと共に進行するアップリフティングなトラック。
浮遊感たっぷりのブレイク含む展開が本当に気持ち良い。

テンポ的にはテックダンスと比べるとやや遅い感もありますが、自分の観測範囲に於いては早回しした上でテックダンスとして使っていることの方が多い気がします。
何せ上に載せたYojiさんのDommune出演動画に於いて、最後にかかっているのがまさしくこれなので。

ここからやっと海外アーティストのトラックをご紹介。
若干時期は前後しますが、Yojiさんのレーベル、Hellhouse Digitalよりリリースされたのがこちら。

Fabio Stein / Techtris

Fabio Stein – Techtris (Original Mix – HQ) – YouTube

2008年リリース。
南米トランスシーンを率いるFabio Steinによるタイトル通りのネタモノ。
元ネタのインパクトも当然ありますが、シンプルでレトロな音が重厚なリズムの上を走っていると云うのが単純に面白い曲。

余談ですが、元ネタを同じくするDoctor P / Tetrisと云うダブステップがあり、この両方を持ってると4つ打ち⇔非4つ打ちの橋渡しが2曲で完了すると云う卑怯な手を当時よく使ってました。

Vandall / Viva La Revolution

Viva La Revolution (Original Mix) by Vandall on Beatport

イギリスの2人組ユニットVandallによる2009年の作品。
一聴して分かるレイヴサンプリングもの。
リズムのシンプルさを補って余りあるインパクトがあります。
滅茶苦茶好きな曲。

Oyaebu / Ferret

Ferret (Original Mix) by Oyaebu on Beatport

こちらはロシアの2人組Oyaebuによる2011年の作品。
ドライブ感満載のリズムに太いベース系シンセが延々と鳴り響くグルーヴ重視系。
ブレイクでコロコロ音が変わる忙しさやリフに合わせたリズムの抜き差しなど、テクニカルな側面も見える逸品。

その他代表的な海外アーティストとしてはJoe-EScott AttrillAnne Savageなどがそうでしょうか。
いずれもテックダンス専門のアーティストではなく、包括的にハードダンスを手掛けている中にテックダンスも含まれている、と云う印象です。

最後に、最近のテックダンスについて。
リリースペースとしては以前よりは減少傾向にあるものの、水面下で継続しているアーティストはちらほら見受けられます。

例えば海外アーティストでありながら何度かM3特集で紹介している国産ハードダンスレーベルexbit traxのコンピレーションへの参加経験を持つHagane Shizuka

Hagane Shizuka / #D3Nd1

#D3Nd1 (Original Mix) by Hagane Shizuka on Beatport

今年、2019年のリリース。
インダストリアル・ミーツ・ハードダンスと言わんばかりの強烈な重厚リズムにピアノ連打。
仕舞にはハードスタイルキックまで入ってくるハチャメチャっぷり。
間違いなく新しいタイプのテックダンスと言える筈です。

国内シーンに於いては世代交代が起こったかのような印象も受けます。
上で取り上げた2010年代初頭に若手と呼ばれていた方々が別のジャンルに移り、新しい若手が頭角を現しているのが現状でしょう。

これに当て嵌まるのが、前々回のHardonizeにご出演頂いたDon2Kのメンバーs-donさん。

s-don / Into The Dark

Into The Dark | Masamune

2018年リリース。
これもちょっと度肝抜かれました。
キックやベースはサイケっぽくて、メインリフはハードスタイルっぽくて、アーメンブレイクまで入ってくる散らかりよう。
但し、後ろに重心を置いたハイハットだけはテックダンスのそれであり、『これは何?』と聞かれたらテックダンスと答えるしかない曲。

テックダンスの定義が揺らぎかねない危険な曲。
お願いなのでもっとやって欲しい。

あと、世代的にもDon2Kと近い存在としてYosshie 4onthefloorさんもここで挙げておきます。

Yosshie 4onthefloor / Future Star

Future Star (preview) [xbtcd30 – V.A. / GOLD DISC] by Yosshie 4onthefloor | Free Listening on SoundCloud

2018年リリース。
これもブレイクのストレートなピアノリフに対して相当偏屈な展開を見せる曲。
ブレイクが明けると音数が減る、まぁこれはよくある手法としても、極端なリズムの崩れ方をするのが意味分からない。
そして何でこのような謎曲にFuture Starと云うキラキラした名前が付いているのかも分からない。

ただ試聴ではカットされている部分であるイントロとアウトロはテックダンスのフォーマットに則っているのです。
いやしかしそれだけでこの曲をテックダンスと呼んでいいものか非常に悩ましい。
頼むからもっとやって欲しい。

上記楽曲に見られるように、黎明期のテックダンスとは別のアイディアでもってハードテクノとハードダンスの交差点を見出しているようなものが近年ちらほら目に入ってきます。
忘備録的に以下に掲載致しますが、新しいハードダンスの形であることは間違いなく、また発展途上ユエに面白い楽曲も多いのでご興味のある方は参考にしてみてください。

Fridge Magnet (Original Mix) by Argy (UK) on Beatport

Dropkick (Original Mix) by Side E-Fect on Beatport

Addicted (Original Mix) by Rufio, Splinta on Beatport

以上、テックダンス編をお送り致しました。
この音楽の特徴についてまとめると、ハードテクノのリズム+ハードダンスのリフです。
シンセに関しては、メロディーと云うより1~2小節くらいの短いスケールでのループが多いように感じますが、絶対ではありません。
リズムもキックの音圧が強いものが主流ではあるものの、上のs-donさんの楽曲にあるようにどちらかと言えばハイハットのパターンの方がテックダンスに於いては重要なのかもしれません。

強みとしてはハードテクノにもハードダンスにも流用でき、且つそれらの橋渡しとしても機能しやすい点でしょう。
この点に於いては黎明期より一貫しているように思えます。
とは言え、やはりハードダンスのエッセンスの分だけ煌びやかでアグレッシヴな印象は強いので、ハードテクノに関してはサブジャンルを選ぶことになります。

逆にハードダンスの視点でこの音楽を見るならば、ハードダンスが抱える数あるサブジャンルの中でも割と特徴的なリズムを持った音楽だと思うので、グルーヴの種類で勝負したいと云う人にはうってつけかもしれません。
前述のリフのスケールの短さをセットの中で活かすと云う考え方もアリだと思いますので、趣向に合わせてテックダンスの可能性を探って頂きたいところではあります。

ハードテクノ、ハードダンスの中に於いては認知されてから比較的日の浅いジャンルでもあるため、今後の進化を引き続き見守っていきたい音楽です。

と云うわけで次回の『特別連載:ハードテクノとは何か?』につきましては12月12日に公開。
小テーマは番外編の3回目としてハードハウスやハードグルーヴと相性の良いディスコ編をお送りします。
予め申し上げますが、100パーセント趣味の記事になります。
ご容赦の程。

次週12月03日は774Muzikさんが担当します。
今回はこれにて。

特別連載:ハードテクノとは何か? – 目次

第1回:黎明期編
第2回:ハードミニマル編
第3回:ハードアシッド編
第4回:ハードトライバル編
第5回:ハードハウス編
第6回:シュランツ編
第7回:ハードグルーヴ編
第8回:インダストリアル編
第9回:テックダンス編 (今回)

番外
第1回:メロディアス・ハードテクノ編
第2回:ハードダンス編
第3回:ディスコ編

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特別連載:ハードテクノとは何か? – 番外第2回:ハードダンス編


特別連載:ハードテクノとは何か?
番外第2回:ハードダンス編
特別連載:ハードテクノとは何か? – 目次

第1回:黎明期編
第2回:ハードミニマル編
第3回:ハードアシッド編
第4回:ハードトライバル編
第5回:ハードハウス編
第6回:シュランツ編
第7回:ハードグルーヴ編
第8回:インダストリアル編
第9回:テックダンス編

番外
第1回:メロディアス・ハードテクノ編
第2回:ハードダンス編 (今回)
第3回:ディスコ編

こんばんは。TAK666です。
レジデントが代わる代わるオススメハードテクノを紹介するこのコーナー、
2週間ぶりにワタクシが担当致します。

近況報告。


カレー作りました。
ご好評頂けて何よりでございます。
また機会がありましたら作りたいと思っておりますので、なんかこう、パーティーにフードを添えたいと考えておられるオーガナイザーの方がいらっしゃいましたらお気軽にオファーください。


それはそれとして予てよりご報告の通り、次回のHardonizeは来年の02月22日に開催でございます。
カレーに例の四角いやつ入れるのもアリだと思うんですよね。
あと02月に関連するところのあの黒くて甘いやつを隠し味にしたりもできますからね。
美味しそうですよね。とても。

さて、ワタクシの担当回では過去9回に渡り、特別連載と題しましてハードテクノが内包する音楽のスタイルについて解説していくハードテクノとは何か?をお送りしてきました。
初回ではハードテクノのサブジャンルについて

上のような図を用いて表した上でハードテクノの特徴を

・メインストリームテクノよりは速いテンポ
・4分打ちのハイハットによる疾走感のあるグルーヴ
・キックの強度やベースの厚み

としました。

今回は番外編の第2回と称しまして、この中のハードダンスと云う音楽について紹介していきたいと思います。

まず上の図について注釈をしなければなりません。
この中であたかもハードダンスと云う音楽がガッツリハードテクノに踏み込んでいるかのような示し方をしてしまっておりますが、この両者はテンポこそ似通っているものの、全く別種の音楽です。
且つ、ハードダンスは広義的な解釈をすれば複数のサブジャンルを内包する総称として用いられている名前になりますので、より正確に描くならばこの円の大きさはハードテクノと同等か、或いはそれ以上となるべきでした。
ハードダンス原理主義者の中には『違う。ハードダンスはあくまで単一のジャンル名だ。』とする方々もいらっしゃいますが、BeatportToolbox Digital Shopと云った大手配信サイトに於いても総称として用いられていることが多いため、ここでもそのように扱いたいと思います。

従って、ハードテクノ同様、ハードダンスにも明確な定義があるわけではありません。
これに含まれるサブジャンルによって特色がまちまちであるため、厳密に一括りにすることは出来ませんが、大まかな共通点として

・レイヴ、トランスを源流とする派手なシンセサウンド
・ロングブレイクを含む展開
・キックの強度やベースの厚み

これらについては挙げられると考えられます。

名称誕生の背景についてはテクノからハードテクノが派生した経緯と同様、最初にトランスと呼ばれる音楽があり、それを元にクリエイターが試行を重ねた結果、幾つかのスタイルが発生しました。
当初は勿論ハードダンスと云う名前はなかったものの、所謂ハードでアグレッシヴなトランス由来の音楽が世界中に普及していく中で、それらをまとめて呼ぶ名前として用いられるようになったようです。

これについては遅くとも2001年にはジャンル名として定着していたと思われます。

Public Domain – Hard Dance Anthems (2001, CD) | Discogs

Frantic – The Future Sound Of Hard Dance (2001, CD) | Discogs

これらはそれぞれ2001年にリリースされたハードダンスの名前を冠したコンピレーション。

Public Domainは丁度この頃デビューした複数人プロデューサーチームで、大手レーベルのコンピレーションにも積極的に楽曲提供を行っていたシーンの牽引者。
上記のコンピレーションもリリース元は天下のWarner Musicです。

片やFranticと云えば今尚イギリスで開催されている由緒正しいハードダンスパーティー。
レーベルに於いても、このシーンを代表するアーティストを数多く抱えており、当ジャンルを語る上で欠かせない存在です。

収録曲も現代におけるハードダンスの解釈と大差ないものが収録されているため、名称の普及についてはこの頃と考えて良いのではないでしょうか。

では具体的にどういったサウンドがハードダンスとして数えられるのかについて代表的なところを以下でご紹介していきます。
1つ1つ詳しく述べていくと各パートで連載1回分ずつくらいの分量を必要とするので、今回は楽曲紹介に比重を置いていきます。
尚、そこで紹介するものも2019年現在の一般的な解釈に比較的近いものを選んでおりますので、多少偏りが生じてしまうことにつきましてはご容赦ください。
それでは、サクサクいってみましょう。

Hard House

本連載の第5回に於いてご紹介致しました。
ハウス由来のバウンシーさとトランスの音の派手さを併せ持ち、ものによってはハードテクノに通じるところもあるハイブリッドな音楽。
ハードハウスもまた数多くの派生ジャンルを生み出しており、ストイックなものから馬鹿っぽいものまで曲調の豊富さが魅力の1つです。

Cortina / Music Is Moving (BK & dBm Amber Remix)

Music Is Moving (Bk & Dbm Amber Mix) by Cortina on Beatport

1999年リリース。
上記紹介記事でも取り上げたハードハウスを代表する曲の1つ。
サンプリングパーツからも読み取れるオールドスクールレイヴへの経緯が込められた大ヒット作です。

Andy Whitby & Klubfiller / Bass Pump

Bass Pump (Original Mix) by Andy Whitby, Klubfiller on Beatport

2009年リリース。
馬鹿っぽいやつ代表として。
細切れのシンセや裏打ちのベースとボイスサンプリングなど、吹っ切れ具合がかなりツボです。

BK, Steve Hill / Flowtation

Flowtation (Original Mix) by BK, Steve Hill on Beatport

2016年リリース。
トランスクラシックの大ネタ使い部門。
その一方で後述するハードハウスからの派生ジャンルを1曲で渡り歩いている展開が、このジャンルの歴史を紡いでいるかのようでちょっとグッときます。

Scouse House

上記ハードハウスを踏襲したサブジャンル、スカウスハウス。
リズムに対して裏打ちで挿入されているドンクベースと呼ばれるサウンドが最大の特徴です。
このサウンドは更に先鋭化されたものがロシアを中心に現在進行形で発展していたり、一部のベースミュージックに流用されたりと、国境やジャンルを超えてコアなファンを獲得しております。

Smokin’ Bert Cooper / Gettin’ Warm

Gettin’ Warm (Original Mix) by Smokin’ Bert Cooper on Beatport

2000年リリース。
1つの大きなブレイクを挟んでメインリフになだれ込むと云う、ハードダンスの基本形ともいえる展開の曲。
音の構成もかなりシンプルで、それユエにドンクベースが目立ちます。

Stephan K / Action (Poky Mix)

Action (Poky Mix) by Stephan K on Beatport

2006年リリース。
こちらも音の構成としてはシンプルなのですが、何小節かに1回差し込まれるブラスのサンプリングがまぁアホの極致。
一時期身の回りのDJの間でえらい流行っていたのでご紹介。
ちなみにジャケットの背景が新宿都庁と云うのもかなり謎です。

Dj Manry / James Brown is Poky

James Brown is Poky (Original Mix) by Dj Manry on Beatport

2019年リリース。
今年になってもJames Brownは死ぬ。
これだけで大体どういう曲か分かってしまうと思うのですが、ついつい手が伸びてしまう。

NRG

これもハードハウスから派生したジャンル。
アシッドシンセによる疾走感増し増しのベースラインにフーバーと呼ばれる特徴的なサウンドが高密度な加工の元乗せられた攻撃的なジャンル。
ハードハウスはイギリスが中心となっているのに対し、エナジーはフィンランドにもクリエイターが多いと云うのも特徴です。

Lab 4 / Gangstah

Lab 4 – Gangstah – YouTube

2004年リリース。
間違いなく当ジャンルを代表するアーティストの一角、Lab 4
ドラマティックな大ブレイク後に訪れるメインリフは狂暴そのものである一方、3連符で差し込まれるシンセが面白かったりも。
アルバムはAmazonJuno Downloadで購入可能です。

Grady G / James Brown Is Still Alive

James Brown Is Still Alive (Original Mix) by Grady G on Beatport

2013年リリース。
こっちではJames Brownがまだ生きてます。
こういったレイヴサウンドとも相性の良いスタイルなのですが、享楽的な側面より攻撃的と云う印象の方がどうしても強いですね。
ちなみにこの曲は過去のHardonizeでプレイされたことがあります。

RaverRose & Thermal Force / Eternal Cannon (DJ Rx remix)

FINRG – YouTube

2009年リリース。
エナジーの中でもハードコアに近い速度を持つものはハードエナジーと呼ばれていたりします。
その総本山がフィンランドにあるFINRGと呼ばれるレーベルなのですが、この曲は日本人ユニットであるRaverRoseの楽曲が海を超えて彼らの手に渡り、所属アーティストであるDJ Rxによってリミックスされたもの。
もう10年ほど前になりますが、こうしてレーベルの紹介ムービーに使われたことも相まって当時かなりの事件だったと記憶しています。
ちなみにフリーダウンロード

Hard Trance

その名の通り、リズムやシンセをより硬質化したトランス。
トランス由来のメロディアスなロングブレイクを含み、それを経てメインリフに流れ込むと云った展開が一般的です。
これまで紹介したものと比べ、煌びやかさに重点を置いたジャンル。

Alphazone / Flashback (Nish Remix)

Alphazone – Flashback (Nish Remix) – YouTube

2006年リリース。
国内でハードダンスを推進していたNishによる当時のメインストリームトランスの筆頭格Alphazoneの曲のリミックス。
壮大な溜め系ブレイクからのドラマティックなメインパートはこれぞハードトランスと云う感じですが、パーカッションを薄っすら取り入れたリズムがやや珍しい印象。
海外配信サイトでは取り扱いが無く、意外にもレコチョクでセパレートが買えるみたいです。

Anne Savage & BK / On The Edge

On The Edge (Original Mix) by BK, Anne Savage on Beatport

2010年リリース。
エレクトロやダブステップの出現以降、あらゆるクラブミュージックがそれらの音を吸収したのはかなり衝撃的でしたが、これもその中に数えられそうです。
それらの新しい要素と従来の煌びやかさとの共存を図ったトラック。

Paul Gannon / That Noise

That Noise (Original Mix) by Paul Gannon on Beatport

2019年リリース。
つい先月出たばかりの曲です。
サイケ、ハードスタイル、アシッドなど、ハードダンス~トランスの要素がごっちゃ混ぜになったちょっと形容しがたいトラック。
こういうワケ分からないの大好きなので。

Hardstyle

ゴウンゴウンといった感じのキックが特徴的且つこのキックに音階が付いたりする辺り、かなりテクニカルな印象を受けます。
一方でメインストリームに於いてウワモノはかなり派手で煌びやか。
それユエ、早い段階でEDMとの親和性を見出し、一大シーンを築き上げました。

ハードダンスのみならず、ハード系4つ打ち音楽に於いて現在覇権を握っているジャンル。

Jimmy The Sound / Hasta La Vista Baby! (Baby Traxx Mix)

Hasta La Vista Baby! (Baby Traxx Mix) by Jimmy The Sound on Beatport

2003年リリース。
黎明期のハードスタイル。
この頃はまだ使われている音もシンプルで、メロディと云うより反復するリフがメインでした。
とはいえこのキック1音に重心を置いたグルーヴは当時斬新だったのは覚えています。

Showtek Ft MC DV8 / Electronic Stereo-Phonic

Showtek feat. MC DV8 – Electronic Stereophonic – YouTube

2009年リリース。
2013年にBooyahで世界中を風靡したShowtekも元はこのジャンルの担い手でした。
メロディを取り入れた曲が定番となった頃のハードスタイル。
荒っぽいリードシンセがなかなか記憶から消えない曲。

Da Tweekaz / Scatman

Da Tweekaz – Scatman (Official Video) – YouTube

2019年リリース。
現在進行形でシーンをリードしているトップクリエイターDa Tweekaz
なのに時折酒ネタ3部作(Wodka / Tequila / Jagermeister)をはじめとするお茶目をする彼らの今年の作品。
タイトル通りの元ネタです。
プロでもこういうことやって良いんだなと思わせてくれます。
尚、フリーダウンロードです。

さて、このハードスタイルはクリエイターの人口も多く、盛んに他ジャンルの音を取り入れたり、新しいサウンドを開発したりと積極的に派生ジャンルを生み出そうと云う動きが見られます。
予備知識的に2つばかりハードスタイル由来の音楽をご紹介します。

Delete feat. Tha Watcher / Payback

Delete ft. Tha Watcher – Payback (Official Videoclip) – YouTube

2018年リリース。
ノイズと云うか、インダストリアルと云うか、更に荒々しいチューニングがリズムに施されたもの。
その打ち方も4つ打ちを基礎としながら突然崩れたり、エフェクトが変わったりとかなりエグい。
これはロースタイルと呼ばれており、本国オランダではかなり絶大な人気を誇っているサブジャンルと云う話を実際に向こうでフェスを体験した複数人から聞いております。
凄い時代ですよね。

Sub Zero Project / The Project

Sub Zero Project – The Project (Official Videoclip) – YouTube

2017年リリース。
少し前からEDMやベースミュージックにサイケデリックトランスの要素を取り入れたものが出始めるようになっているのですが、それをハードスタイルに取り入れたものがこちらサイスタイル
そこそこ両ジャンルを聴いてきた身からすると物凄く絶妙なバランスで両者が共存しているように聴こえるので、目から鱗でした。
よくこのリズムを思いついたなと。
まず他の音楽では聴かない音だと思います。

Jumpstyle

ハードスタイルと同時期に誕生したこちらもキックに特徴を持つジャンル。
但し、ハードスタイルが芯のある硬いキックであるのに対し、こちらはボウンボウンと云うようなやや力の抜けた音が両者の異なる点です。
それユエ、やや変化球的な音使いが目立ちます。

ちなみにこれはどこに由来するかと云えばシカゴハウスだったりするらしく、そういう意味ではテクノと出自が近いとも言えます。
ものによっては明らかに馬鹿っぽかったりしてそれも好き。

The Ultimate Seduction / The Ultimate Seduction 2004 (Derek’S Square Mix)

The Ultimate Seduction 2004 (Derek’S Square Mix) – YouTube

2004年リリース。
黎明期の音に近いもの。
これまでのどの曲よりもシンプルな構成で、これならまだシカゴハウスとも言い切れそうです。
原曲がこんな感じなので、概ね雰囲気は変わらず、キックが加わったのみと云う感じも。

Scooter / Jumping All Over The World

Scooter – Jumping All Over The World (Official Video HD) – YouTube

2007年リリース。
新しいジャンルを次々に渡り歩くハードダンス界の総合商社ことScooter
それまで培ってきたハードダンスのエッセンスをこのジャンルに落とし込んだScooterらしい1曲。
タイトルにちなみ、全国各地でステップを踏むこのPVも注目を集め、ジャンプスタイルの独特なステップを広める切欠にもなった作品です。

Demoniak / Caramba

Demoniak – Caramba (Official Videoclip) – YouTube

2014年リリース。
ホーンとパーカッションの音が南米感満載。
そこにこのキックが入るもんだからもうIQダダ下がり。
近年の曲なもので、無駄に出音が良いのもまた笑ってしまうポイントです。

以上、ハードダンス編をお送り致しました。
冒頭で取り上げた通りではありますが、この音楽の特徴についてまとめると、レイヴ、トランスを源流とするハード系4つ打ちです。
それ以上の特徴については個々のサブジャンルで異なってくるため、大枠として上記を参考にして頂けますと幸いです。

メロディアスハードテクノ編に於いて述べたように、メロディーや派手なシンセリフがあると云うだけで大分ハードテクノとは異なる音楽であると云う印象は強くなります。
とはいえハードハウスのように多少なりとも共通点を見出せるジャンルもあるにはありますし、同じハード系4つ打ちで括られることも多いため、今回のような機会でババッと取り上げてみました。

あとこれは昔話になるのですが、レコード屋があった時代、ハードテクノを取り扱っている店はハードダンスも扱っているのが大方当て嵌りました。
なので、ハードテクノのレコードを漁る分だけハードダンスに触れる機会も多かったのです。
そこに意識配分をどの程度向けていたかは人によりますが、我々Hardonizeのレジデントに関しては各々何らかの形でこの手の音楽に触れる機会があったと思います。
時折ハードダンス楽曲を紹介している方がいるのも、そういった前歴があってこそなので。

・・・思いつきで書きますが、1度くらいハードテクノ以外を紹介する連載回があっても良いのでは?
何ならハードテクノ禁止のHardonize開催があっても良いのでは?

と云うわけで次回の『特別連載:ハードテクノとは何か?』につきましては11月28日に公開。
小テーマは今回を踏まえ、これらの音楽とハードテクノの交差点、テックダンス編をお送りします。

次週11月19日は774Muzikさんが担当します。
今回はこれにて。

特別連載:ハードテクノとは何か? – 目次

第1回:黎明期編
第2回:ハードミニマル編
第3回:ハードアシッド編
第4回:ハードトライバル編
第5回:ハードハウス編
第6回:シュランツ編
第7回:ハードグルーヴ編
第8回:インダストリアル編
第9回:テックダンス編

番外
第1回:メロディアス・ハードテクノ編
第2回:ハードダンス編 (今回)
第3回:ディスコ編

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