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今週のオススメハードテクノ – Resident’s Recommend 2018/02/08

こんばんは。TAK666です。
レジデントが代わる代わるオススメハードテクノを紹介するこのコーナー、
2週間ぶりにワタクシが担当致します。

Hardonize10周年もいよいよ2日後に迫ってまいりました。
再三の掲載になりますが、概要はこちらでございます。

2018/02/10 Hardonize #29 -10th Anniversary-
祝10周年!!!!! 細分化する「ハードテクノ」を様々な周辺ジャンルも内包し 各々のDJによる解釈でフロアにお届けするハ...
ゲストDJにTAKAMI氏、本間本願寺氏、Yamajet氏、更にゲストVJにcoda氏をお招きし、6時間みっちりハードテクノを打ち鳴らします。
一口にハードテクノと言っても明暗緩急様々なスタイルがある音楽でございますので、我々レジデントも10年分の歩みを体現するつもりで皆様のお越しをお待ちしております。

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ちなみに先週からこんな画像が公開となっておりますが、10周年の感謝を込めてささやかながら来場された方へのプレゼントをご用意しております。
大凡見当は付くかと思いますが、何であるかはお楽しみに。

それに因んで過去2回のワタクシ担当回では10年前のテクノ、ハードテクノシーンについて触れました。

今週のオススメハードテクノ – Resident’s Recommend 2018/01/11
こんばんは。TAK666です。 レジデントが代わる代わるオススメハードテクノを紹介するこのコーナー、 3週間ぶりにワタクシが担当致します...
今週のオススメハードテクノ – Resident’s Recommend 2018/01/25
こんばんは。TAK666です。 レジデントが代わる代わるオススメハードテクノを紹介するこのコーナー、 3週間ぶりにワタクシが担当致します...
前々回は海外の傾向について、前回は国内の傾向についてそれぞれスポットを当てております。
時代を感じる点もあれば今に通ずるところもあったり、10年前の時点でも楽曲のカラーは様々でした。
いつの時代も物好きによって支えられている音楽だなと思いますね。

ところで、物好きと云えば日本のとある界隈にスポットを当てて語ることもできるのではないでしょうか。
ここに2冊のカタログがあります。

M3

当連載でも度々取り上げている同人音楽、日本のインディーズ音楽の即売会、M3の2008年のものです。
ちなみにウチには自分が当即売会に行き始めた2003年から現存してます。
この時まだ会場が蒲田の会場で、出店者数も今と比べれば全然小規模なものでした。

実数を挙げると、

時期 参加サークル数
2008年春 420
2008年秋 455

に対して

時期 参加サークル数
2016年秋 1334
2017年春 1381

と、4倍になっております。(M3公式サイト調べ。)

この中に各アレンジやバンドサウンド、ボイスラジオなどが含まれるため、当然クラブミュージックに絞るともっと少なくなるワケです。
出展サークルは参加時に自分がリリースする作品のジャンルをタグとして登録できるのですが、主なクラブミュージックのジャンルに対する参加サークル数を2008年春と2017年秋で比較すると

ジャンル 2008年春 2017年秋
テクノ 32 42
トランス 21 36
ハウス 5 30
ドラムンベース 6 27
ハードコア 11 63

こんな感じ。(※)
ハウスとハードコアの伸び率が凄いですね。
クラブミュージックの世界で見た流行はここ同人音楽にも確実に届いている感じがします。

従って昨年秋に行われたM3でリリースされた作品のレビューなどを巨大な圧力によってやらされたりもしましたが、ここで取り上げたサークルも当時はほぼ存在しなかった、そんな時代です。

今週のオススメハードテクノ – Resident’s Recommend 2017/11/02
こんばんは。TAK666です。 レジデントが代わる代わるオススメハードテクノを紹介するこのコーナー、 2週間ぶりにワタクシが担当致します...
思い出した。ラーメン驕ってください。


タグは複数登録できる以上、各ジャンル間でのサークルの重複はあるのでこの合計がクラブミュージック総数とはいきません。
あとテクノはテクノポップとかエレクトロニカなどの非ダンスミュージックも結構含まれます。

では当時クラブミュージックの文脈で作品をリリースしていたサークルはどんなものがあっただろうか?と云うのが今回のテーマになります。
個人的な縁としてはハードコアの方が書きやすかったりはするのですが、Hardonizeレジデントの立場から主にテクノへ焦点を当てます。
また、折角手元にカタログがあるので、これから取り上げるのも2008年にM3へ参加していたサークルに絞りたいと思います。

題して10年前の同人テクノ事情、いってみましょう。

gatearray recordings


まずはこちら。
現在は秋葉原重工にも名を連ねているFumiaki Kobayashi氏が2007年から運営しているサークル。
元よりソロ、ユニットで様々なレーベルからテクノをリリースしていた経験を生かし、レーベル設立と同時にPresenceと云うEPシリーズを始めます。
参加メンバーはFumiaki Kobayashi氏の他はR-9氏、Ryo Ohnuki氏、Atsushi Ohara氏で完全に固定。
また、データ領域に各トラックのMP3や、サンプリング素材が入っていたりと今でも珍しいと思える試みを行っていました。

サウンドは後の秋葉原重工に繋がる肉厚なハードミニマル。
同人音楽のフィールドでこの手の音をリリースしていたサークルは数えるくらいしかないように思います。
同時期のハードテクノサークルで思いつくのはAtsushi Ohara氏が設立したLINEARや、Alstroemeria RecordsのMasayoshi Minoshima氏がサイドプロジェクトとして展開していたDown Force Records、少し後にはクラブフィールドで活動していたGo Hiyama氏、Takaaki Itoh氏を擁するAsianDynastyがM3に殴り込みをかけるなんて出来事もありましたが、現在進行形で活動しているサークルを除けば本当にそれくらいです。

尚、Bandcampの試聴埋め込みがあるようにこのサークルの作品は現在でも買えるんです。
Presenceシリーズ10作品全部買っても2000円そこらなので、当時を知る切欠、或いはハードテクノを知る切欠として是非。
bandcamp – gatearray recordings

LOOPCUBE


1990年代と云えば初頭に電気グルーヴが結成され、徐々にKen Ishiiや田中フミヤの存在が知れるようになり、攻殻機動隊やWIPEOUTと云ったゲームとテクノの融合と云った出来事など挙がるトピックにキリがありませんが、そのジャパニーズテクノの系譜をモロに辿ったようなサークルが存在します。
それがこのLOOPCUBE。
石野卓球から古代祐三まで幅広くVJをこなしてきたH/de.氏と今尚自身のサークルluvtraxで活動をしているquad氏をコアメンバーとして2000年に発足された老舗サークルです。
前述の通り、両者共90年代からテクノをリアルタイムで聴いてこられた経歴の持ち主であり、数々のクラブパーティーにも出演経験のある方々。
そのバックグラウンドが遺憾なくこのLOOPCUBEで発揮されておりますが、後に月は東に日は西に~Operation Sanctuary~や後にびんちょうタンなどアニメ、ゲームサウンドも広く手掛けるようになるなど、一口に語り尽くせない活動を展開しました。

このfragranceと云う作品は10年前である2008年に出た作品で、アシッドあり、テクノポップあり、チップチューンあり、また、当時発売したてのボーカロイドを採用すると云う挑戦的な面もありながら主軸はテクノと云う完成度の高い逸品。
最後に虹のアレンジを差し込んでくる辺りニヤリとさせられます。

ちなみに発起人のH/de.氏によってLOOPCUBEの歩みがまとめられたページがございます。
これも大変貴重な資料だと思うので是非ご覧ください。
LOOPCUBE年表

TOY LABEL


2011年に物心ついた歳を迎えていた人であればこの元ネタに心当たりが大いにあるでしょうし、何ならこのアレンジも耳にしたことがある筈です。
自身を1号店ジャーナリスト麻婆ドーファーと評し、それぞれブログで連載を繰り広げ、何なら本(※)も出版している異色音楽家、BUBBLE-B氏が自身のレーベルとしていたのがこちら。
Amazon – BUBBLE-B (著) – 全国飲食チェーン本店巡礼 ~ルーツをめぐる旅~

初作は1994年、しかも媒体はカセットテープでのリリースと云った辺り、更に歴史を感じさせます。
当初から同人サークルとして活動していたワケではなく、インディーズ系CDショップや書簡での直接やり取りによって頒布していたと云うから現物を持っている人は相当少数だと思われます。
冒頭に取り上げたようにBUBBLE-B氏の音楽は何かしら日本語のネタモノを用いたテクノ、所謂ナードコアと呼ばれるもので、同時期に活動していたアーティストとしてはLeopaldonやサイケアウツ、サークルで言えばFoxyun氏によるXROGERやDieTRAX氏による全日本レコードなどが挙げられます。
完全に余談ですが、Hardonizeの翌日、こんなパーティーが執り行われるそうなのでご興味のある方は是非足を運んでみてください。
TwiPla – ゆめかわナードコアまつり(仮)

さて、BUBBLE-B氏はソロの他にもテクノユニットを結成しておりますが、これも映像を見て貰った方が早い。

http://nkzm07.wixsite.com/karatechno

これを何と評したら良いのでしょう。
真面目に理解しようとすると頭がパンクして死ぬタイプに属します。
公式サイトでは
“カラテクノは、ハードコア・テクノとフルコンタクト空手の融合を試みる、唯一無二の演武レイヴ・パフォーマンス・ユニットです。”
この通り謳っており、これ以上説明する術を持ち合わせておりません。

しかしトラックはメチャクチャカッコ良いです。
この通りBandcampで配信中ですので購入が可能。
古今東西2度と現れないユニットだと思うので死ぬ前に是非。

A.G.経営デッドロッカーズ


音を取り込むサンプラー、ビートを鳴らすリズムマシン、そしてその2つを集約させるシーケンサーと云えばヒップホップに於ける3種の神器のようなものですが、これをアニメサンプリングに転用させ、同人音楽の中でも更に土臭いダンスミュージックを手掛けていたサークルがありました。
それがEx-man氏、DJ Wagonsale氏によるA.G.経営デッドロッカーズ。
Trax Recordsに良く似たロゴから汲み取れる通り、シカゴハウス的なゲットー感が漂う作品が肝。
Tokyo Electro Beat Parkや本間本願寺氏のビッグファイアが来るまではこの手のジャンルすら同人音楽にはなかったように思います。

調べて分かったのですが、過去に茶箱に縁のある方々で行われていたアニソンパーティー、SS|EX NITEへゲストとして出演経験もあったことが判明。
現在はサークルとしての活動は行っていない模様ですが、メンバーのEx-man氏は変名義で曲を作り続けている様子。
こちらもオールドスクールライクなテクノが揃ってます。
https://soundcloud.com/nase-from-azumanase
https://nase1973.bandcamp.com/

Disorder Circulation


もっとストイックに1つ1つの音の作り込みに魂を削っていたサークルもありました。
Czk氏とgray氏によって2008年に結成されたDisorder Circulationはプログレッシヴ、テクノ、アンビエント、IDMなど様々な要素が入り混じった独自の世界観を形成していました。
エレクトロニカ的アプローチが入ると非クラブミュージックとして先入観を持たれがちですが、2人組ユニットとしてパーティーでのDJ、ライブ経験があることもあり、実際聴いてみるとかなりフロアユースだったりします。
アンダーグラウンドの実力者と云うか、シンプルなジャケットのデザインからもその辺りが伝わってきます。
こちらもBandcampで初期作品から配信しているので、上の埋め込みからどうぞ。

同時期に活動していた同系統のサークルとしては濃密で重厚なサウンドにアニメネタのリリックが乗った異形ヒップホップを作っているくっつり会、繊細な音使いと狂気的なサンプリングの合間を縫うドラムンベース、エレクトロニカが特徴のKPDrecords、2002年から長年に渡って生音、電子音入り混じったノイジーなインダストリアルミュージックを提示し続けているCyber Logic Pro.などが挙げられます。
この界隈の作品はそれぞれ何かしらのこだわりが強く、それユエの斬新なアイディアみたいなものが垣間見えて大変同人音楽らしいと思うわけです。

さて、まだまだ取り上げたいサークルはいっぱいあるのですが、最後に1つだけどうしても紹介したいものがございます。
上でもちらほら出ておりましたが、この時代になるとM3やコミックマーケットで作品をリリースしつつ、クラブパーティーにも出演していると云った方が珍しくなくなってきました。
中にはあまつさえオーガナイズ側に回る人もおりまして、今回お招きしたYamajet氏はまさにそんな人です。
彼が2008年から始めたパーティーはパーティーでありながら音楽以外の部分に主眼を据え、しかし自由度に富んだ多様な音楽が聴けるものとして今尚印象に残っているものでした。

その名も『ビア充』。
『ビールが美味しい』を合言葉に初回は茶箱で開催され、その後バーに場所を移し、挙句大阪やMOGRAに進出したと云う変遷も凄まじいですが、毎回消費されるビールの量もまた凄まじく、この界隈に於ける元祖酒飲みパーティーとして深く印象に残っております。
私は666に因んで6回目に出演させて頂きました。

で、そのビア充には初回からパーティーアンセムが存在しまして、それを作ったYamajet氏はこの曲からプレイスタートか、パーティーの〆に流すか、或いはその両方がお決まりのパターン。
つまり今年はこの曲から10年にも当たるわけです。
めでたい気持ちと共にご紹介致します。

Yamajet / Hardcore Ein Prosit

日本でも毎年行われているドイツのビール祭『オクトーバーフェスト』で乾杯時に流れる宴会ソングが元ネタ。
今やすっかりビールの人として定着してしまっているYamajet氏ですが、それを語るにはやはりこの曲があってこそだと私は思ってしまいますね。
ちなみにこちらからダウンロードが可能。
V.A. – Ein Prosit ep.

以上、2008年の同人テクノを振り返る回でした。

前々回、前回と10年前のテクノにスポットを当ててお送りしてきましたが、裏テーマとして今回のHardonizeにお招きした3名それぞれのバックグラウンドにスポットを当てておりました。
日本に於けるテクノ黎明期より国内シーンを支え、block.fmでパーソナリティーを務めるなど、日本から世界に発信し続けているTAKAMI氏。
海外レーベルに見出され、欧州ツアーやリリースを重ねて逆輸入的に日本で知る人ぞ知る存在となっている本間本願寺氏。
そしてクラブミュージック外と思われていた同人音楽と云う場所からクラブ、パーティーに深く関わってきたYamajet氏。
それぞれバックグラウンドは異なれど、それぞれの解釈の元にハードテクノを表す、そんなひと時になるでしょう。
ゲストVJとしてお招きしたcoda氏も去年ワタクシの30歳記念パーティーでアホな曲にアホな映像で応えて貰うなどバッチリカマして貰ったこともあり、大変信頼を寄せております。

パーティー前としてはこれが最後の連載記事となりますので、あとは皆様、現場でお会い致しましょう。
よろしくお願い致します。

次週02月13日は774Muzikさんが担当します。今回はこれにて。


今週のオススメハードテクノ – Resident’s Recommend 2018/01/25

こんばんは。TAK666です。
レジデントが代わる代わるオススメハードテクノを紹介するこのコーナー、
3週間ぶりにワタクシが担当致します。

先週、『電子音と酒 -Techno SAKE Square- vol.3』に出演致しました。
日頃お世話になっている秋葉原重工CEO、Takayuki Kamiya氏が錦糸町にあるLITTLE SAKE SQUAREと云う日本酒バーで行ったラウンジ系のパーティー。
テクノをはじめとする音楽に耳を傾けつつ100種類以上ある日本酒を飲み放題で一晩中飲める稀有な内容とあって、途中から友達の家で遊んでる感じになっておりました。
タイムテーブルもそれぞれロングセット気味に配置されたこともあり、ゆったりした心構えでDJに臨んでおりましたし。

で、酒の勢いとはやはり怖いもので最後Takayuki Kamiya氏のプレイ中になんとなく飛び入りして突発B2Bを行ったのですが、やったことがJoris VoornのIncidentが元ネタの曲を2人して延々かけ続けると云う意味不明っぷり。
今2018年です。14年前の曲です。まさしくIncident(事案)でした。

さて、Incident程ではないにしろ、当Hardonizeも長いこと続いておりまして予てより告知の通り、次回は10周年パーティーとなります。

2018/02/10 Hardonize #29 -10th Anniversary-
祝10周年!!!!! 細分化する「ハードテクノ」を様々な周辺ジャンルも内包し 各々のDJによる解釈でフロアにお届けするハ...
02月10日まであと2週間程。
ゲストDJにTAKAMI氏、本間本願寺氏、Yamajet氏、更にゲストVJにcoda氏をお招きして皆様のお越しを心よりお待ちしております。

それに伴って前回のワタクシ担当回では10年前のテクノ、ハードテクノシーンについて触れました。

今週のオススメハードテクノ – Resident’s Recommend 2018/01/11
こんばんは。TAK666です。 レジデントが代わる代わるオススメハードテクノを紹介するこのコーナー、 3週間ぶりにワタクシが担当致します...
音のスタイルは勿論のこと、楽曲入手方法や情報発信の場所など様々なものが転換期を迎えた時期であったことがお分かり頂けたかと思います。

その中でレコードショップの撤退について記しましたが、これを書いた後で衝撃的なニュースが耳に入ってきました。


GUHROOVYの実店舗閉店。
渋谷宇田川町で90年代よりハードコアのヴァイナルやCDを中心に取り扱っていたショップで、現行の日本のシーンの形成に間違いなく一役も二役もかってた存在でした。
シュランツにもかなり早くから目をつけて海外からインポートを行ってたり、アーリーレイヴやハードダンスの作品も並んでいたので、テクノに於いても目利きのある方は利用したことがあると思います。
Hardonize的には2016年10月08日にゲストでお招きしたDJ DEPATH氏が所属しているのもここです。

何せ自分が初めてヴァイナルを買ったのがこのお店だったこともあって大変思い入れが深い。
それだけに今回の報せは青天の霹靂と云うか、『あぁまた1つ時代が終わってしまうんだな。』と云う感が拭えません。
閉店は01月31日だそうなので今週末にでも足を運んでみてください。
http://guhroovy.shop-pro.jp/

話を10年前に戻しまして、前回記事で触れたのは主に世界的にこうなってましたと云う流れでした。
ではその頃日本では何が起こっていたのか?と云うのが今回のテーマになります。

題して10年前の日本のテクノ事情、いってみましょう。

度々前回からの引用で恐縮ですが、2008年と云えば世界的に攻撃的なエレクトロテイストの曲が流行した時期でした。
それは日本も例外ではなかったわけです。
中田ヤスタカは例に及ばず(capsule、Perfumeはこの時既にデビュー済)、80KidzやDexpistolsと云ったアーティストが日本のクラブシーンを牽引する存在として知られるようになっていきます。

その爆発力は本当に凄まじく、同じジャンルでもこの時代の前後で曲を聴き比べると全然音の質感が違うものが多々あります。
ダブステップ、ハードコア、ドラムンベース、トランス・・・あらゆるジャンルに影響を及ぼしたターニングポイントとなる出来事でした。

さて、テクノに於いてはミニマルの隆盛期であり、むしろこういった派手な音の流入には否定的な意見も少なからずあったように記憶しております。
但し元からファンクやディスコに慣れ親しんだ層にとっては格好の遊び道具として捉えられたようで、自身のスタンスと合わせて更に尖ったサウンドへ転化させたアーティストもいました。
ご存知、Kagamiです。

Kagami / Guardians Hammer

90年代よりファンキーなテクノを一貫して作り続け、石野卓球氏が主宰していた屋内型テクノフェス、WIREにも数多く出演していたアーティスト。
Tokyo Disco Music All Night Longは今尚名高いテクノアンセムとして不動の位置にいたり、アニメ『交響詩篇エウレカセブン』に使われたTiger Trackもテクノ、アニソンの枠を超えて未だに耳にします。
トライバルリズムに反復リフと云うところまではそれらの曲と共通しているのですが、ディスコ特有のデケデケベースを当時最新鋭のエレクトロサウンドに、ついでにサビのシンセもインパクト重視に置換したところ、音の厚みが大変なことになってます。
ブレイク明ける手前のやたら太いキックの連打部分とかも『何これ!?』って感じでした。
今聴いてもただ楽しく遊んでいるようにしか聴こえないですね。
これがリリースされたCarizmaと云うレーベルは日本のレーベルで現在も活動継続中であり、時代の変化に合わせてテクノとハウスの合間を縫うようなトラックを多く輩出しています。
クロスオーバー系にはもってこい。

余談ですが丁度10年前の2008年01月25日にコールドスリープパーティーを行い、自らの活動に終止符を打った国産テクノレーベル、Frogman Recordsの最後の作品がKagamiのベスト盤でした。
セパレートだけなら各配信サイトから購入できますが、CD版にはラジオ番組仕立てのMIXが収録されており、それがまたユルくも大変ユニークなので断然CD版がオススメです。
Amazon | Better Arts [豪華デジパック仕様 / 2CD] (KGMO001)

残念ながらKagamiは2010年に急逝。これも大事件でしたね・・・。

もう1つ当時のテクノシーンで目立っていた出来事としてビートミュージックとの邂逅があったように思います。

DE DE MOUSE / baby’s star jam

テクノの音使いでありながら4つ打ちではなく、メロディーはポップスに近いと云う異形の音楽の生みの親。
あまりに独特過ぎる楽曲はダンスミュージック好きには勿論のこと、ロックやエレクトロニカ層からの支持も集め、フジロックフェスティバルやカウントダウンジャパンなどの国内大規模フェスへ次々と出演するに至ります。
そんなDE DE MOUSE氏がAvexからのメジャーリリースを果たしたのが2008年でした。

この手のテクノ×ブレイクビーツに関する2008年の出来事として、他にも現在block.fmでCLOUDCASTLE RADIOを運営しているBroken Haze氏がRaid Systemと云うファーストアルバムをリリースしたり、Flying LotusがレーベルBrainfeederを立ち上げ、Warp RecordsからアルバムLos Angelesをリリースしたりと色々挙げることができます。
bandcamp – BROKEN HAZE / raid system
iTunes – Flying Lotus / Los Angeles

あと忘れて欲しくない人としてテクノ×ポップセンスと云う点でこの人の存在があったことを載せておきたい。

imoutoid / はなはず☆じぇーむす!! OP[そうあい?4Seasons]

『アニソンがテクノになる時代なのに何でテクノがアニソンにならないんだ!』と云う突拍子もない発言と共に繰り出されたのがこの曲。
Maltine Recordsより彼の代名詞ともなるEP、ADEPRESSIVE CANNOT GOTO THECEREMONYが出たのは2007年ですが、変名義で更に前から楽曲制作を行っており、17歳の時点で既に正確な作品数は分からない程になってました。
ひょっとしたらSangoさんとか774Muzikさんはその頃に見かけていた可能性がありますね。
Maltine Records – imoutoid / ADEPRESSIVE CANNOT GOTO THECEREMONY

何と云うか、若くして音楽理論の鬼でした。
アニメのセリフ1つ切り出し、その通りに音階を当て嵌め、更に和音にしてフレーズを作ると云うのがあったんですが、あまりにクレイジー過ぎて笑うしかなかった覚えがあります。
しかもそれをあえてオタク的要素を散りばめた電子音楽で表現するアンバランスさは痛快以外の何物でもない。
以下のサイトに彼の作った作品群が並んでおりますので是非辿ってみてください。
imoutoid不完全トラック集

個人的に2008年に彼とパーティーを共にしたことがあり、未だにその記憶が残っているので挙げさせて頂きました。
彼も若くしてこの世を去ってしまったなぁ。

さていよいよ2008年の日本のハードテクノに目を向けてみましょう。

この少し前に当たる頃、それまで日本でハードテクノをプレイしている人たちが結構揃って舵を切った瞬間がありました。
テクノの潮流に沿うようにミニマルを手掛けるようになった人、音楽活動そのものから手を引いた人、理由は様々ですが、前回挙げたThe Adventよろしく全くブレなかった人も存在します。

Go Hiyama / D

九州出身のアーティスト。
ノイズと金属音が入り混じるヘヴィーなハードミニマルを武器にヨーロッパ、アジアなどでギグ経験を持つ、アンダーグラウンドテクノの筆頭的存在です。
この曲も初期Jeff Millsを彷彿とさせる荒削りさを持ちながら圧のあるボトムが鬼気迫る仕上がり。
ストレートな4つ打ちとも言えない曲もかなり多く、前回記事のDJ Boss / 1st Renderedや、前述のテクノ×ビートミュージックに近いものがあります。

ちなみにJin Hiyamaと云う同じ苗字のテクノアーティストがおりますが、この2人は兄弟。
弟のGo Hiyama氏がこのようにハード路線を貫いているのに対し、兄のJin Hiyama氏は綺麗なメロディーを持つ曲を得意としているフシがあります。

更に余談ですが来週地元九州にFrank Muller aka Beroshimaを招いてパーティーを行うんだとか。
Ourd feat Frank Muller & Go Hiyama
近郊の方は是非。

ベテランがシーンを離れる一方、時を同じくして後にシーンの中心となる人物が現れ始めた、いわば新陳代謝の真っ只中と云うのもこの時代の特徴と言えるでしょう。
ちなみに次回Hardonizeにご出演頂く本間本願寺氏も2009年デビューだそうなのでこの中に入りますが、ピタリ2008年デビューとなるとこの人が該当します。

Asagaoaudio / Ring And Portrait

『鈍器で殴ったような音』をコンセプトにKazuya Kawakami氏によって始まったプロジェクト。
重厚で無機質な音の反復はインダストリアルテクノと云う音楽を世に知らしめ、海外でも多くのDJによってプレイされるに至ります。
何より昨年、Aphex TwinがこのRing And Portraitをプレイしたのはかなり話題になりました。
こんな記事も出来上がってたんですね。
letter music – Aphex Twinが国内レーベル「AN」からリリースされたasagoaudioの曲をプレイ

音の質感的に前述のGo Hiyama氏と近いものがあり、Audio Assault、ANなど参加作品に共通点を見出すことができます。
最近だと秋葉原重工のコンピレーションにも楽曲提供を行っており、主宰のTakayuki Kamiya氏曰く、『なかなか悪趣味なトラック』。

勿論、前出のような重たくて暗いハードテクノばかりがハードテクノではありません。
それこそ前置きのIncidentのように綺麗目メロディーを従えたハードテクノも当時からありました。
後にハードグルーヴと呼ばれるファンキーなトラックをこの時既に作っていた方としてはやはりこの人が挙げられます。

Satoshi Imano / Epicurean

過去Hardonizeにもご出演頂いた経験がありますが、その後ELLEGARDENの細美武士が立ち上げたバンド、the HIATUSのリミックスコンテストでグランプリを受賞されたそうです。
Beatport – the HIATUS / Thirst (Satoshi Imano Remix)
テクノのみならず多方面で活躍されているSatoshi Imano氏ですが、ファーストアルバムがこちら、TELEKINESISです。
Take it backのようにトライバルテクノ感を前面に押し出した曲や、Laia Swinging Crowbarのようなキャッチーな反復トラックを経て壮大なシンセがフィルターと共に広がっていく最後のこのEpicureanへ繋がっていく並びはテクノの自由度が何であるかを改めて感じさせてくれます。

今回のHardonizeに絡めると少し前のものになりますが、Surviving An Affairと云う曲の本間本願寺氏によるリミックスが使いどころ満点なので是非押さえておきましょう。
Beatport – Satoshi Imano / Surviving An Affair (Homma Honganji Remix)

最後にご紹介したいのは自分と10年以上縁のある近い人。

yousuke kaga / Setsuna

千葉出身、都内在住のアーティスト。
確か初めて会ったのは茶箱だったような気がします。
今でこそテックハウス、ミニマルの作り手と云う感じがしますが、最初に見たときはブレイクスとハードテクノのライブを行っていました。
その時に頂いたプロモーションCDは家宝の1つにしておりますが、その中に入っていたこのSetsunaと云う曲は140BPMのアレンジでした。
後の2008年にFountain Musicからリリースされたバージョンではこの128BPMにテンポダウンしたものが収録されていたのですが、良い曲はどちらで聴いても良い曲だと思い知らされますね。
今の作風に繋がる繊細な音使いを大胆にこなす、と云うスタンスは当時から発揮されていたように思えます。

ちなみにこのファーストアルバムは現在配信中止となってしまっているのですが、SetsunaだけはHIROSHI WATANABE氏のMIXに収録された経緯から各配信サイトで購入可能です。
recochoku – Developing Vol.3 HIROSHI WATANABE SELECTION

以上、2008年の日本のテクノを振り返る回でした。
懐かしい出来事もあれば、とても10年前とは思えないような発見もあったと思います。
おそらく10年後に2018年を振り返るときも似たようなことを言っているような気がするので、気を引き締めて多方面に注意を払っていきたいと思う次第です。
あわよくば目と耳がもう2~3倍欲しいところですね。脳はただでさえ不足気味なので10個くらい所望したい。
そういうお年玉、お待ちしております。

次週01月30日は774Muzikさんが担当します。今回はこれにて。