特別連載:ハードテクノとは何か?
第4回:ハードトライバル編
第1回:黎明期編
第2回:ハードミニマル編
第3回:ハードアシッド編
第4回:ハードトライバル編 (今回)
第5回:ハードハウス編
第6回:シュランツ編
第7回:ハードグルーヴ編
第8回:インダストリアル編
第9回:テックダンス編
番外
第1回:メロディアス・ハードテクノ編
第2回:ハードダンス編
第3回:ディスコ編
こんばんは。TAK666です。
レジデントが代わる代わるオススメハードテクノを紹介するこのコーナー、
2週間ぶりにワタクシが担当致します。
と、その前に。
次回Hardonizeの開催情報が公開となりました。
此度ゲストにお招きしたのはATTさん、そしてni-21さんのおふたりです。
共に長きに渡って東京でハードな4つ打ちダンスミュージックを奏でているベテラン同士。
手前味噌ながら小箱で行うパーティーにしてはかなり豪華な組み合わせであることは間違いありません。
何より、数々のパーティーや音楽を経由していながら現行のハードテクノにスポットを当てることが出来る2名とあって、今回はよりストレートにハードテクノとはこれだ!と云うテーマを提示できる回であると確信しております。
無論、我々レジデントDJもそれに沿った選曲を心掛ける所存です。
お前が言うなって言われそうですが。
09月07日の土曜日、15時より早稲田茶箱にて執り行います。
どうかよろしくお願い致します。
さてさて、ここ数回に渡ってお送りしております、ハードテクノが内包する音楽のスタイルについて解説していくコーナー、今回はその4回目となります。
初回ではハードテクノのサブジャンルについて上のような図を用いて表した上でハードテクノの特徴を
・メインストリームテクノよりは速いテンポ
・4分打ちのハイハットによる疾走感のあるグルーヴ
・キックの強度やベースの厚み
としました。
今回はこの中のハードトライバルと云う音楽について紹介していきたいと思います。
前回同様これもまた注釈になりますが、今回ご紹介するタイプの音楽も単一のジャンルとして広く認知されている名称があるわけではありません。
名称からお察し頂いた方もいらっしゃるとは思いますが、今回ご紹介するのはトライバルテクノと云う音楽と、ハードテクノと云う音楽の交配種に当たるため、どちらかのジャンルとして一括りにされているケースが殆どであるためです。
より正確に表すならトライバルハードテクノと云う呼称で紹介すべきなのでしょうけれど、以降の紹介で何度も用いる単語としては長いものになってしまうので、今回は略称としてハードトライバルで統一させてください。
ちなみに、似たような音楽ジャンルの名前にハードテック・トライブと云うものがありますが、全く別の音楽です。
ただ、テクノから派生したアグレッシヴ(≒ハード)な音楽である、と云う点に於いては共通しているので、ご興味があればこちらの日本語情報サイトをご覧ください。
日本のクリエイターも数多く存在するので、今や音楽的な知名度としてはこっちの方が高いかもしれません。
自分も10年単位で追いかけている好きな音楽です。
話を戻してトライバルハードについてですが、実は今回のテーマは僕が特別連載をやるまでもなく、774Muzikさんが過去にガッツリ取り上げていたりします。
これを書くように煽ったのは僕ですが、長年この手の音楽に肩入れしているだけあって物量が凄まじい。ここまでやれとは言ってない。
代表楽曲のアーカイブとしては大いに参考になること間違いないのですが、時系列順に補足を設けながら紹介していくと云うのがこの特別連載のテーマでもあるので、今回は自分なりにトライバルハードについて述べていきます。
あと2019年現在での活動アーティストについても触れたいですし、その辺りは前述の記事でもあまり触れられていなかったので。
・・・なんてことを言うと774Muzikさんは乗っかってくるのかしらどうなのかしら。
さて、ここに至るまで頻出していたトライバルとは一体何のことやらってところから説明すると、早い話がパーカッションリズムです。
テクノに限らずですが、90年代ダンスミュージックの作曲と云うのはハードウェア機材によって賄われており、機材の機能や処理の制約をモロに受ける時代でした。
今でこそテクノ、ハウスにとっては名機と呼ばれているリズムマシンRoland TR-808やRoland TR-909にしても使える音源の種類や同時に再生できる数には限りがあり、どうしてもシンプルなリズムにならざるを得なかったと云う背景があったのです。
また、リズムマシン特有の機械的な音色がテクノのキーワードである無機質な反復リフと相性が良かったこともあり、あえて生音感の強いパーカッションを加える発想がそもそもなかったようにも感じます。
やはりと云うかなんと云うか、そこを見事にひっくり返したのが特別連載の第1回でも触れたJoey BeltramとJeff Millsでした。
(この連載を続ける度にこの2人って凄かったんだなと再認識している次第です。)
The Start It Up (Original Mix) by Joey Beltram on Beatport
1994年リリース。
テクノの定義が曖昧な頃にリリースされた、だからこそテクノとしか呼べない曲。
一聴して分かる異様に誇張されたパーカッションの音は当時かなり珍しく、後年のトライバルテクノの源流と言って良いトラック。
と云うか今聴いても十分異様ですね。
Alarms (Original Mix) by Jeff Mills on Beatport
1996年リリース。
デトロイトテクノやミニマルテクノのイメージが強いJeff Millsですが、早期からパーカッションリズムを取り入れたトラックをリリースしており、また彼のレーベルThe Purpose Makerからのリリースにはこの手のトラックが必ず入っていたこともあってこのスタイルのテクノを世に知らしめた貢献者であることは間違いありません。
ちなみにこの盤が収録されているA面の1曲目には彼の代表曲でありテクノの一大アンセムであるThe Bellsが入っていると云う、シーンに於いて台風の目となった作品。
もう1つ、同時期のクラシックを挙げるとすると個人的にも大好物なコチラ。
Grooveyard – Watch Me Now || EC Records – 1995 – YouTube
1995年リリース。
Secret Cinemaの変名義であるGrooveyardの名の元にリリースされた名作。
と云っても実は複数の既存曲を掛け合わせたマッシュアップだったりするのですが(リズム部分はコレで、声ネタはコレ)、ブラッシュアップされたリズムはテクノやハウスとの相性が良く、多くのDJにプレイされました。
特にベースの深度が1995年のソレではないです。
現代のベースミュージックから普通に繋いだりできます。
余談ですが、上記の曲に更にInner City / Good Lifeを重ねたものが存在します。
Manalive (Original Mix) by Devilfish on Beatport
アンセムにアンセムを足して割らない。
この頃Just Kick!だったり、大ネタ同士のマッシュアップがちょっと流行してました。
90年代後半になると、このパーカッションリズムのテクノは徐々に浸透し始め、このスタイルを背負って活動するアーティストが出始めます。
最大勢力は何と言ってもBen Simsでしょう。
Ben Sims – Impact ( Killabite Remix )
1999年リリース。
KillabiteはBen Simsを含む3人ユニット。
前述の1990年代中盤のトラックはテクノの枠の中にパーカッションリズムを加えた、と云う意味で画期的だったのに対し、こちらはパーカッションリズムを中心軸に据えながらテクノとして構築すると云う逆のプロセスを採択している点に於いて少し質が異なるように聴こえます。
ベースも少しうねりのあるものになっていてファンキーな印象。
Ben SimsはTheory Recordings、Hardgroove、そしてIngomaと云う複数のレーベルの運営を行い、このスタイルのテクノを強力に後押しする存在になっていきます。
後にBen Simsチルドレンと呼ばれる存在も出てくるようになるほど、強い影響力がありました。
Ben Simsと同時期にシーンを支えていたアーティストとしてSamuel L Sessionの存在も重要です。
Samuel L. Session – Untitled ( Tribecutz Vol. 1 – B2 ) – YouTube
2000年リリース。
EPのタイトルも『民族』であればジャケットも民族、勿論曲も民族的なテクノ。
本作があったからと云うわけではないでしょうけれど、民族的なパーカッションをはじめとするリズムの手数が多いテクノをトライバルテクノと呼ぶのが一般的になったのはこの頃ではないでしょうか。
Samuel L. Sessionはデビュー当時ポストJeff Millsと謳われた程、ミニマルやデトロイトテクノの色が強かったのですが、
大体この辺りの頃からトライバルテクノ色が強くなっていきます。
Paul Macもまた当時を代表するトライバルテクノのクリエイターです。
Cards On The Table (Original Remastered) by Paul Mac on Beatport
原曲は2002年リリース。
上記試聴は2007年に出たリマスター版です。
この頃になるとハードウェア機材の技術向上や、デスクトップパソコンを作曲に用いることも容易になり、上で述べたような機材スペックによる制約と云うものは減ってきます。
従ってこの曲のようなパーカッションリズムに留まらず、民族音楽のリフをそのまま用いるような曲が出るようになってきました。
また、リズムの硬質化やテンポの高速化など、徐々にハードテクノへの接近もするようになったのもこの頃です。
若干時代が前後しますが、トライバルテクノがハードテクノに接近するかしないか、と云う頃に出た曲で印象に残っているのがこちら。
los Hijos del Sol (Original Mix) by Tomaz, Filterheadz on Beatport
2001年リリース。
この後プログレッシヴを経てメインストリームテクノに戻ってくると云う経緯を辿るFilterheadzですが、活動初期の頃はバッチバチのトライバルテクノを作っていました。
パーカッションあり、声ネタループありでエキゾチックな雰囲気を醸しつつもなかなか太いキックが鳴り響く攻めっ気たっぷりの曲。
個人的な話になりますが、テクノと云う音楽を知り始めの頃にたまたまヴァイナルで買っており、テクノと言えば金属音の集合体みたいな印象を持ったまま針を落としたもんで、『思ってたのと違う。』ってなった記憶があります。
以前行ったFilterheadz特集回はコチラ。
さて、上述の通り2000年以降にトライバルテクノの一部がハードテクノに接近していく動きが出てきました。
そんな中で生まれたこの曲がこれだったわけです。
Cave – Street Carnival (Original Mix) – YouTube
2003年リリース。
テクノシーンのみならず周辺音楽をも巻き込んで大ヒットを記録したCaveのファーストEPにして出世作。
ここまでの爆発力を誇るブレイクは少なくともテクノでは比肩するものがないように思えます。
この曲については以前行ったCave特集回にて散々触れたので、そちらをご参照ください。
決定的にハードテクノと接触したと感じたのはこれを聴いたときです。
Killa Productions – Give It Up ( Re-Edit ) – YouTube
2004年リリース。
一応リズムに元ネタが存在するのですが、それを食ってしまう勢いの重厚なグルーヴ。
あとこれもブレイクの爆発力はかなりのもの。
ちなみに別面にはInner City / Good Lifeネタが収録されており、知名度としてはそちらの方が高かったりします。
さてこのKilla Productionsはブートレグ用の覆面名義として発足されたものであり、当初正体不明だったのですが、時を経るにつれてその正体が上で述べたBen SimsにPaul Mac、そしてその2人と共にトライバルテクノに貢献していたMark Broomの3人だったことが分かりました。
『いやプロにこんなことやられたらアマは出来ることないじゃん!全面降伏しかないじゃん!』となった一件でした。
トライバルテクノの発現以降トライバルテクノを主軸に活動したアーティストがいたように、2000年代中盤以降はハードトライバルを軸に活動すると云ったアーティストも出てきました。
上で挙げた774Muzikさんの記事内で触れられていたCarl Falkや、Boriqua Tribezと云った方々もその中の1人です。
個人的なオススメとしてはMiche & Mirzinhoが真っ先に挙がります。
Thulium (Original Mix) by Miche & Mirzinho on Beatport
2007年の作品。
リズムの手数がかなり多く、厚みもあるグルーヴを提示することに長けている東ヨーロッパ出身の2人です。
(近年のハードテクノに於いて東ヨーロッパはアーティストが多く、かなり重要地域。)
シンセリフを使ったアグレッシヴな作品なんかもよく作るので実用性も◎。
Street Carnivalのような爆発力のあるブレイクと云うキーワードを取り出すとこちら。
Samba en Madrid (Original Mix) by Ivan Devero on Beatport
2011年の作品。
従来はファンキーなハードテクノのリリースが多かったものの、最近はテックハウス多めなスペインのアーティストIvan Deveroによるもの。
(だから本作のタイトルにマドリードが。)
まぁとにかくブレイクのリズムが派手。
メインの部分は逆にシンプルなグルーヴキープものなので、意外に使いどころが難しい気もしますけど、珍しいトラックであることは間違いないです。
あとは当連載の新譜紹介に於いて時折名前の出るGarett Whiteは近年になってもトライバルハードを手掛ける存在として忘れて欲しくないところです。
Italiano Drums (Garett White Remix) by Diego Simeone on Beatport
2015年の作品。
こちらもMiche & Mirzinho同様、リズムの太さには目を見張るところがあります。
この曲に限らずですが、Garett Whiteの曲にはリズムにちょいちょいミュートが差し込まれることがしばしばあります。
細かいこだわりなんでしょうか。
いずれ非4つ打ちとか作ったら是非聴いてみたい気がします。
最後に1つ。
ここ日本にもトライバルハードを精力的に作っていた方がいらっしゃいました。
と云うかHardonizeにもかつてお招きした方であり、もっと言えば自分が初めてパーティーを主宰した際にお招きした方でもあります。
Buy Facts & Inventions by Groovetune on MP3, WAV, FLAC, AIFF & ALAC at Juno Download
残念ながらGroovetune名義としての活動は大分前に休止してしまったのですが、2006年に出たこのFacts & Inventionsと云うアルバムは全曲ハードテクノ、しかもトライバルハードの占める割合が半数以上であるかなりレアな作品です。
元はCDでの流通でしたが、Juno Downloadで配信されております、と云うかアルバム単位ならその他の作品もそこそこ揃ってます。
日本のハードテクノ史と云う意味でも稀有で重要な存在なので、未聴の方はこれを機に是非触れて頂きたいところです。
以上、ハードトライバル編をお送り致しました。
この音楽の特徴についてまとめると、パーカッションリズム+速い+硬い(反面、シンセサイザーを用いたリフは少ない)がキーポイントになっています。
タダでさえリズムの手数が多いので、あまり長時間に渡って複数の曲を同時再生出来る構造にはなっておりません。
一方で割と短いスパンで次々繋いでいくと云うMIXスタイルは取りやすく、パーカッションと云うパートに軸足を置いている限りメロディーによる不協和音も起こりにくいため、案外自由にDJを行うことができると云う点は便利です。
1番の難点は探しにくさです。
冒頭で述べたように、ハードテクノにもトライバルテクノにも分類されているため、両方のカテゴリーをくまなく探すほか見つけ方を知りません。
あとはアーティストやレーベルに関する知識をどれだけ持っているかに直結してくる気がします・・・この辺りを774Muzikさんにフォローしてもらおう。うん、それがいい。
と云うわけで次回の『特別連載:ハードテクノとは何か?』につきましては08月09日に公開。
小テーマはハードテクノから少し離れた界隈で成長を遂げたものの、結果的に一部がハードテクノそっくりになってしまった音楽、ハードハウス編をお送りします。
そして次週07月30日は774Muzikさんが担当します。
今回はこれにて。
第1回:黎明期編
第2回:ハードミニマル編
第3回:ハードアシッド編
第4回:ハードトライバル編 (今回)
第5回:ハードハウス編
第6回:シュランツ編
第7回:ハードグルーヴ編
第8回:インダストリアル編
第9回:テックダンス編
番外
第1回:メロディアス・ハードテクノ編
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第3回:ディスコ編
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